第七十九段 四万温泉
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十八年の冬、四万温泉へと行きけり。
目的は「積善館」の名物温泉「元禄の湯」。
そは日本最古の温泉建築宿にして、国の登録文化財。
また、群馬県の重要文化財にして
近代遺産に指定されし湯宿。
昭和五年に建てられし湯屋の掛け流しの
湯に身を沈めて、
歌を
上つ毛の 四万の病 癒すとふ
いで湯飲み浴み わが身を養ふ
と、詠みけり。
「積善館」とは、中国の古典の
「易経」にある言葉にて
「積善の家に余慶あり」より付けられし屋号と覚ゆ。
吾もまた善を積み、慶びあらめと願ひけり。
また、「上つ毛」とは群馬の旧国名の「上毛」の謂にて
栃木の旧国名の「下毛」の「下つ毛」とは対の表記なり。