新編・伊勢物語 初段 カシミール地方のナン 星原 二郎 | isemonogatari2のブログ

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初段 カシミール地方のナン



むかし、男ありけり。今も男ありけり。

その男、バツイチなりけり。

身を要なきものと思ひつつも会社員を続けてゐたり。

職種は外回りの営業なり。

今、はやりのひとり分の弁当を作ることはなく、

もはら昼食に外食を摂りつづけたり。

どのみち食べるのであれば

営業地域内の全店舗制覇を願ひけり。

行き付けの店を作らぬ主義をとりけり。

しかして今日は、インド料理店に入りりけり。

メニューを見やればカシミール地方のナン、

目にとまりて注文しにけり。

カシミールと云へば、インドとパキスタンの国境紛争地域であり、高級セーター・マフラーなど、

カシミアの由来になりし羊毛の特産の地域なり。

して、出で来しナンは杏子(あんず)果実()の載りて極めて甘き味なれば、永きあひだ、紛争に苦しんでゐるであらう人々の身の上を思ひつつ

歌を



  カシミール 地方のナンは 甘かりき

  紛争つづきに 人ら飢ゑゐて



と詠みて、遥か彼方の彼の地の平和を祈りけり。