何かの仕事の都合で短期で引っ越してきたアパートがとにかくひどくて、
何回もそこで生活して酷い目に遭って死にかけるか死ぬかというシミュレーションを本当に何度もしていた。
どう考えても死にゲーをやってコントローラを投げつけるような気分になっていた。
築年数、中の設備、環境、どれを考えてももれなく劣悪である。
いいこと、と言えばちょっと歩けば国道または幹線道路に出られる、ということ位である。
仕事の任期も終わりに近づいて、退職の段取りも決まって部屋を片付けているが全体的にもうすぐ家が崩壊するオーラがプンプンしていた。
段ボールに荷物を詰め、どう考えても入り口が個室のドアに鍵だけ付けたようなごく普通のドアから外に出ると、
周りの景色も何処かしら古き昭和の香りがする。昭和でなければレトロでしかない。
雑に物を売る個人商店は、賞味期限が切れた食べ物を平気で棚に並べている。
自分の家も古くさいが、まわりの家もとても新しいとは言えず、昭和のよくある団地というか文化住宅というか今令和ですよね、という雰囲気である。
狭い立地なのにごくわずかな隙間の土に野菜を植えたりとやりたい放題である。
そんな時特殊能力が発動して左眼に現在が、右眼に約一年前の風景が映りだし、
外の景色がそのように見えてもただ差が見えるだけだからどうということはないが、部屋を片付けている時にはとても役に立った。
引っ越しの日が迫って、親とか同僚が手伝いに来たが誰でも来るたびに「よくこんな家に住む気になれたね」と開口一番に言われた。
荷物を大体しまい込んで壁紙やフローリングとか畳が露出しているが、壁紙や木材は朽ち果てて、
畳などはもう畳の色ではない、木でもこんな色しないだろう、という位の茶色具合だった。
もうこげ茶色というかそれ踏めるの、という色をしていた。
別な部屋に引っ越しの段ボールを雑に置いた後、何もなくなった、くすんだ色の景色を見て文字通りたたずんでいた。そうするしかなかった。