寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」 | 銀のマント


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寺山修司「書を捨てよ 町へ出よう」



 中学二年の夏、古本屋で昔出た寺山修司の「書を捨てよ 町へ出よう」という本をを見つけた。
 その頃、ぼくはもうかなりの寺山フリークだったので、その本ももちろん買うつもりになっていたが、手にとって、ギョッとした。カバーの裏表紙には、女性の毒々しいヌードのイラストが描かれていたのだ。おまけに女性の乳首からは白いミルクが噴出している。装丁は横尾忠則。この本全体が、スキャンダラスで挑発的な内容になっていたが、裏表紙のイラストなどその最たるものだった。たぶん大人になった今でも買うのにいくぶんかの恥ずかしさを覚えると思うが、中学生のその時はとてもレジに持っていく勇気はなかった。


 「書を捨てよ 町に出よう」は、スキャンダラスで挑発に満ちた本だった。その功績は半分以上は装丁の横尾忠則によるところが大きい思う。カバーがリバーシブルになっていたり、パラパラマンガがあったり、綴じ込みがあったり、雑誌のような目次になっていたり、とにかく凝った装丁だった。
 ところで、その中の人物論とスポーツエッセイは当時の情勢に即して書かれているから、今読むと違和感を持つ箇所もある。また当時をしらなければよく分からないような箇所もある。
 例えば人物論の中に「渥美清論」が載っていて、その文章が書かれたのは渥美清が寅さんでブレイクする前だった。だから寅さんを演じるようになったあとの渥美を知っている我々には、どこかイメージの違う渥美清が書かれているような印象を受ける。人は変わっていくものだし、「彼ハ昔ノ彼ナラズ」なのだから、当然と言えば当然なのだが。
 渥美清論の最後で寺山は、
「私は渥美清に『売り渡した実生活は買い戻すな。ひたすらドラマの中で生きてゆけ』といいたいと思うのである」
 と、渥美にエールを送っている。
 その何年後かに寅さんでブレイクして、死ぬまで寅さんだった渥美清を予言したような言葉である。


「書を捨てよ 町へ出よう」は角川文庫から同じタイトルの文庫本が出ているが、内容はまったく違っていて、この二冊はまったく別の本だ。
 角川文庫版の「書を捨てよ 町に出よう」には、芳賀書店版「書を捨てよ、町へ出よう」にあったスキャンダラスで挑発的なところがまったく欠けている。
 どこかの出版社が芳賀書店版の「書を捨てよ、町へ出よう」を元版のまま復刻すればと思うのだが。有名な本だけに復刻の価値はあると思う。


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書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)>
書を捨てよ、町へ出よう (芳賀書店 1967年)>
書を捨てよ町へ出よう (<VHS>) 銀のマント