横尾忠則「宇宙人デカ」(1969)
横尾忠則の1960年代の作品は、イラストにしろポスターにしろ、40年以上たった今でもひときわユニークで、衝撃的な力を失っていない。
その横尾忠則が60年代に児童書のイラストを描いている。スキャンダラスで挑発的な作品の多い横尾忠則と児童書というミスマッチな組み合わせ。
それが1969年に岩崎書店より刊行された「宇宙人デカ」だ。
これは当時同社より刊行されていた「SF世界の名作」というシリーズの一冊として出されたものだ。「SF世界の名作」は、その名のとおり、世界中のSF小説の中から名作と言われる作品を選んで子供向けに翻訳したもので、当時の人気イラストレーターがイラストをつけている。対象としては小学校高学年向きとなっている。
このシリーズは70年代の半ばに「SFこども図書館」と名称を変えて再刊されているが、その時は横尾がイラストを描いた「宇宙人デカ」はなぜかはずされてしまった。
クレメントというアメリカの作家が書いたこの小説は、シリーズに収録されたほかの作品に比べて面白くないわけでも、出来が悪いわけでも、決してない。むしろ少年と異星人との友情を描いている点では、子供向けのSFにふさわしい作品といえる。なのにはずされてしまったのは、横尾のイラストが子供にはふさわしくないと判断されてしまったのではないかなどと勘ぐってみる。
「宇宙人デカ」の表紙とイラスト数点を掲載してみたが、どうだろう。
ぼくがこの本を手に入れたのは社会人になってからだが、小学生の時にこの横尾のイラストを目にしたら、やはり相当なインパクトを受けていたろうと思う。あるいはトラウマになっていたかもしれない。
横尾忠則のイラストは、それが添えられた文章よりも印象に残って、肝心の文章をかすませてしまうなんてことがよくあるが、「宇宙人デカ」の場合も完全にイラストが本文を食ってしまっている。こんな奇妙なイラストを目にしたら、そちらの印象が強烈すぎて、小説の内容が残らないのではないか。