夢日記「塀の上の猫たちの会話」
道を歩いていると近くで話し声がする。
だがそばに誰もいない。おかしいなと思う。
そばにいるものといえば、塀の上の二匹の猫くらい。
猫たちは私のことなんか気にせずに何か話し合っている。
そうか! 聞こえてくる話声は塀の上の猫たちのものだった。
まるで萩原朔太郎の「猫町」みたいだなと思う。
猫たちが人間のうわさ話をしている。
その日から私には猫たちの会話が理解できるようになった。
私はあちこち猫がいそうな場所にでかけていっては、
猫たちの会話を盗み聞きしてまわった。
猫たちには私が猫の会話を理解している事を悟られないように
十分注意した。
そうしないと用心されてしまうからだ。
猫たちは驚くほどいろんなことを知っていた。
このへんの一軒一軒の家庭の内情なんか猫たちにはみんな
筒抜けだった。
角に大きな家を構える吉川さんちの財政がピンチだってこと。
古いアパートに住む青木さんちの奥さんが家出したってこと。
その隣りの一軒家の山下さんちの息子に初めて恋人ができたってこと。
そんなうわさ話が猫たちの会話を通して、いくらでも知ることができた。
ある日、猫たちがいっせいに大地震の話を始めた。
二、三日後に大地震がくると。
翌日、町の中からいっせいに猫の姿が消えた。
猫だけでなく、犬や鳥やあらゆる動物達の姿が消えた。
残された人間達は、数日後に大地震がくることも知らずに
のんびりだらりんと暮らしていた。