■夢日記「アングラ芝居」
もうだいぶ昔になるが、雑司が谷の鬼子母神の境内でアングラ芝居が上演されるので、見に行った。
境内の隅に状況劇場のようなテントが立っていて、その前の受付で入場料を払い、中に入る。
開演時間が近かったが、満員ではなく、地面のうえに敷かれたゴザの上にゆったりと座れた。
場内の照明が消えかかると、後ろの方から入ってきた人がいて、何気なくその人に目をやってギョッとした。
顔が血だらけで、シャツにも血が飛び散っている。前のほうのあいている場所に腰をおろしたが、周りの観客はごく自然にその血まみれの人を受け入れている。
それを見て、ああ、この人はアングラ劇団の役者で、劇の途中に客席から舞台に登場する設定なのだなと納得した。
舞台がはじまる。
芝居そのものは、状況劇場のイミテーションで、決してつまらなくはないが、夢中になるほどではなかった。
終わりちかくになって、奇妙なことに気がついた。
役者だと思った血まみれの顔の人は、最後まで舞台に登場することがなかった。
そしていつのまにか、座っていたその場所から消えていたのである。
舞台が終わって明かりがつくと、その人は消えていた。
舞台は一幕もので休憩などなかったから、途中で出て行ったとしたら、前のほうにいて、目立つからその姿に気づいたはずである。
だいいち、舞台のためのメーキャップでないとしたら、あの血まみれの顔はなんだったのだろう。
あの人は何だったのだろう。
ぼくは不可解な気持ちのまま家路についたのだった。
夢日記として書いたが、これは実話です。