■夢日記  懐かしい商店街 | 銀のマント


■夢日記  懐かしい商店街(完)    後半改作



吉祥寺の中道商店街の中ほど、
半分シャッターの降りた入口をくぐってながい階段を降りると鉄の扉がある。
重い扉を開くとそこには地下の商店街がひろがっていた。
ぼくはライブハウスとまちがえてこんなところに来てしまったのだ。
地図にも忘れられた恐竜の化石のような商店街。
初めてなのに懐かしい奇妙な既視感とともにその商店街に足を踏みいれた。
並んでいるのはぼくが生まれる前からずっとそこにあったような店ばかり。
背中の曲がったおじさんが手毬をつきながら店番をする卒塔婆の店。
八百屋に並んでいるのはセルロイドのマネキン人形の首と手足。
貸本屋で見世物の娘が手旗信号の練習をしている。
豆腐屋のおばさんがタイルの水槽で義眼を洗っている。
花屋の花はみんなゴムだ。
自転車を押した人がゆっくりと通り過ぎてゆく。
その荷台には小さな舞台があってキューピー人形が神楽をやっている。
乾物屋の暗い店の中には神様がいて
奥の座敷では、卓袱台を囲んだ家族が小僧の神様を磨いている。
隣りのパーマ屋は小学生の時に好きだった女の子の家で
その子が抱いている鳩は砂糖でできていた。
道ばたのリヤカーの上で寂しい手品師が
帽子の中から昔飼っていた犬を引っ張りだした。
商店街のはずれの駄菓子屋で売っているお面のなかに
父親の顔があった。
店の黒ずんだ壁に並べられたお面を見ていくと
その中に母や妹の顔もあった。
小学校の時の先生や友達の顔もあった。
手にとろうとすると
店の奥から懐かしい人が出てきてさわっちゃだめだという。
子供の頃通った駄菓子屋のおばさんだ。
おばさんはぼくのことなんか、まるで覚えていなかった。
リンゴアメを買ってなめていると
涙がこぼれ落ちた。
リンゴアメをなめおわると、懐かしい商店街はすっかり消えてしまい、
ぼくは何もない空間に立っていたのだった。


(注)
これ、もとは夢日記じゃなく詩として書いたものなんです。ぼくにとっては詩も夢日記も同じようなものなので、夢日記として掲載しました。