インターネットには「検索してはいけないワード」というのがあるそうで、読者になっているある人のブログで知った。いい勉強になった。これからもよろしくおねがいします(笑)
その「検索してはいけないワード」の中に、「トミノの地獄」が入っていて、えっ、と思った。
何でも、「トミノの地獄」を声を出して朗読すると、災いが起きるという都市伝説があるのだそうだ。
「トミノの地獄」は、詩人であり、作詞家としても沢山の名曲を残している西条八十が作った詩である。
ぼくは高校時代から、この詩が好きだった。
知ったきっかけは寺山修司だった。
寺山修司に「惜春鳥」という作詞があって、天井桟敷の芝居の中で使われたものだが、この詩は悪くいえば「トミノの地獄」のパクリ、よく言えば本歌取りになっている。本歌取りとは、他人が作った作品を換骨奪胎して新しい作品にしてしまうことである。
寺山修司には、実は本歌取りが多かった。
ぼくは、西条八十の「トミノの地獄」も寺山修司の「惜春鳥」も好きだった。
この詩は、丸尾末広の名作「少女椿」にもイメージが重なるところがあって、なおさら気に入っていた。
トミノを「少女椿」の主人公ミドリちゃんに置き換えれば、この詩はそのまま「少女椿」のテーマソングになる。
それがいつのまにか、呪いの詩になっていたとは…。
おそらくこの都市伝説を広めた人間は、「トミノの地獄」の内容の前近代性や不気味さ=災いとして、その二つを結びつけ噂として広めたのだと思われる。
とはいえ、「トミノの地獄」は西条八十の詩のなかでも、謎めいた詩として知られる作品だった。謎めいてるとはいえ、それを都市伝説にしてしまうのもハタ迷惑な話だ。
たとえそのおかげで、「トミノの地獄」が沢山の人たちに読まれるようになったとしても、である。
トミノの地獄 西条八十
姉は血を吐く、妹は火吐く、
可愛いトミノは宝玉(たま)を吐く。
ひとり地獄に落ちゆくトミノ、
地獄くらやみ花も無き。
鞭(むち)で叩くはトミノの姉か、
鞭の朱総(しゅぶさ)が気にかかる。
叩けや叩きやれ叩かずとても、
無間地獄はひとつみち。
暗い地獄へ案内をたのむ、
金の羊に、鶯(うぐいす)に。
皮のふくろにやいくらほど入れよ、
無間地獄の旅支度。
春が来て候 林にたにに、
暗い地獄谷七曲り。
籠(かご)にゃ鶯、車にゃ羊、
可愛いトミノの眼にゃ涙。
啼(な)けよ、鶯、林の雨に
妹恋しと声かぎり。
啼けば反響(こだま)が地獄にひびき、
狐牡丹の花がさく。
地獄七山七谿(たに)めぐる、
可愛いトミノのひとり旅。
地獄ござらばもて来てたもれ、
針の御山の留針を。
赤い留針だてにはささぬ、
可愛いトミノのめじるしに。