アドラー心理学という言葉をよく目にするようになって久しいですが、いったいどういうものかわからなかったので、Audibleで本書を聴いてみました。

私は、実際の仕事で厳密に行っているわけではありませんが、大きく分けるとフロイト派に属する心理カウンセラーです。フロイトと袂を分かった精神科医やカウンセラーは大勢いますが、アドラーは大学で学ぶ機会がなかったので興味がありました。

そして聴き終わり…。釈然としません。

これはアドラーのせいではなく著者の岸見さんの問題ですが、フロイト理論への理解が浅く、反論されるたびに不全感を感じました。

「過去や未来にとらわれることなく、今を真剣に生きることが大切。」

本書のクライマックスで語られるこの言葉は、アドラーの言葉としてではなく、彼の影響を受けたカール・ロジャースによって世界中に広がり、今、多くの心理カウンセリングがこの考えに基づいておこなれています。そういう意味では、アドラーの考えは世界に浸透したと言えるかもしれません。

ただ、「今の辛い状況は何か目的があってあなたが作り出している」とする「目的論」の部分はなかなか納得できるものではなく、実際につらい状況にある方たちにとっては救いのない理論です。「そのつらい状況は何かを象徴している」としてその意味を一緒に考える精神分析のあり方の方が、やはり私にはしっくりきます。

タイトルに「自己啓発の源流」とあるように、本書は、精神的な健康度が高く承認欲求が強い人が読むと、カルチャーショックを受け、その後この考えに傾倒していくのでしょう。最終盤に青年が哲人に向かって「私は先生を信じます!」と言うことでも、それが現れています。

うーん、もう少しフラットなアドラー心理学の本を読み直した方がいいのか…。もういっか、という気になっているのも事実です。

同じ「誰もあなたのことなんか見ていない。気にせずやりたいことをやりなさい。」という言葉も、岡本太郎さんに言われる方が楽しいですね。

何週間か前からカバンに入れたりお風呂で読んだりしてきた本書。覚えておきたい部分にラインを引きながら読んだら、一部ラインだらけになりました。

「今までの自分なんか、蹴トバシてやる。そのつもりで、ちょうどいい。」
今の自分に満足するな、自分に忠実であるな、安全な一生を送るな。著者は本書の中で一貫して、今の自分を蹴飛ばして進め、と言っています。

「ほんとうに生きるということは、自分で自分を崖から突き落とし、自分自身と闘って、運命をきりひらいていくことなんだ。」

これは、若い人が読むととても刺激を受けて良いと思いますが、やっと安定した生活を守りに入っている40代の私にも効きました。

「人間本来の生き方は無目的、無条件であるべきだ。それが誇りだ。」
「死ぬのもよし、生きるのもよし。ただし、その瞬間にベストをつくすことだ。現在に、強烈にひらくべきだ。未練がましくある必要はないのだ。」

ちょうど並行してアドラー心理学関連の本を聴いているのですが、アドラーの人生観に通じます。
職業にとらわれず、「人間」として生きよ、という岡本太郎さん。フリーランスの私にとって、ずっと身につけておきたい1冊になりました。実際、今もカバンの中にあります。
こちらもAudibleで聴いた話。

小4のアオイ、小3のワタル。子供がこの2人しかいないような集落に、映画の撮影隊の家族として都会からやってきたミヤビ。アオイとワタルだけの平穏な日々に、良くも悪くもいろんなものを投げ入れたミヤビ。ミヤビと出会わなければ知らなかったこと、ミヤビと出会わなければ味わわなくてすんだもの。

読んでいる中で胸がギューっとなる箇所があり、「小説を読まなければ起きない私の中の反応だ」と思いました。

最後の展開がレビュー等で酷評されています。たしかに、あのシーンのためにこの小説のイメージがやや不快な絵で固定されてしまったのは残念でした。
私にとっては、工房で風鈴を作り始めるあたりがハイライトです。
こちらもAudibleで聴いた1冊。

どこにあり何なのかわからない「ミア寮」に住むマリー。マリーと元同室で元恋人のカレン。マリーたち少女の世話をするアンナ。マリーを呼びにきたカレンとの会話で話は進んでいきます。
マリーはカレンを愛していたのか。それについて考えることに意味はあるのか。マリーの「『死ね』と言えない。思うこともできない。」とはどういうことなのか。
おそらく10代と思われる少女たちの逡巡を俯瞰して見ているような感じ。

泉鏡花の「外科室」と似たような読後感。思い浮かぶ情景が儚くて美しい。全体的に紗がかかっている。私にはまだこの小説を味わう感性が備わっていないようで、胸の中にすとんとは落ちてこず、なんかまだ空中に浮かんでいるような小説です。

そういう読書体験も含めて、記録として残していこうと思います。


Audible「短編小説チャンネル」より。
親譲りの長身と器用さで、なんでもそこそこやってのける早奈。毎日さまざまな部活の助っ人として活躍している。でも、大好きだった彼に「早奈には自分というものがない。」とフラれてから傷心の日々。そこに演劇部から主役の代役の誘いが来た。主役は自分がない早奈とは正反対の、リーダー的存在だった…

本当の自分って何だろう?「本当の自分」なんてものがあるのか?私は何がしたいのか?私には何ができるのか…?
「自分」を求めて、愛する人からの関心を求めて奮闘する、高校生の青春物語。
私も高校時代に演劇部だったこともあり、ずっと甘酸っぱい気持ちで聴いていました。
自分は本物なのか演技なのかわからなくなる感触、思ってもみなかったことにハマっていく自分に戸惑う場面など、懐かしさにあふれ、胸がほくほくと暖かくなる感じ。

「早く進路を決めなさい」と学校に急かされて困っている中3の長女に読ませてあげたいと思いました。
森絵都さん。お名前だけは知っていたけど、読んだことのない作家さんでした。楽しい文章ですね。他の作品も読んでみたくなりました。