「チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜」拝見 | 時は止まる君は美しい

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巡りあった美しい人達の記憶を重ねます・・・
B面ブログ「扉・鎧戸・宵の口」も始めました。

 
死ぬと決めた愛する人
 
イラン出身の女性マルチ・アーティストمرجان ساتراپی‎(マルジャン・サラトピ)様が、
自らのコミックを原作に、フランスのバンドデシネ作家Winshluss(ヴィンシュルス)様と、
共同監督で実写化された「Poulet aux prunes」
 
 
 
 
 
全編セット撮影で紡がれた、美しい美しい、哀しいお話
「鶏のプラム煮」は、主人公のバイオリニストの妻が作る、夫の好物の料理。
映画の冒頭、主人公は、死ぬことを決める。それからの最期の8日間
過去と現在を織り交ぜて語られる、主人公を中心とした人々の人生。
 
 
出来のいい弟と比べ、駄目駄目な兄であるナセル・アリ・カーンはヴァイオリンに夢中
最高の師に付くものの、技術は完璧だが、それなら誰にでも出来る、との言葉。
 
 
悩み、街でヤサグレてるナセル・アリの横を、横切って行く女の脚
その一瞬。女を追うナセル・アリ。思わず、谷崎潤一郎翁の「刺青」を想い出します。
女性を追って入った時計店は、彼女の父親の経営する店。父子の会話を聞きつつ、
呆然としていたナセル・アリは、手元にあった時計を買う羽目に。
この時計は、彼の一生、ずっとそばで時を刻み続ける
 
 
 
 
 
 
やがて、彼女、イラーヌと恋を実らせるナセル・アリ。
 
 
 
結婚を申し込みに行くが、
収入もない芸術家などに娘はやれないと、二人の仲は引き裂かれてしまう。
その絶望の中から、奏でたヴァイオリンを、師匠は「もう教えることはない」と、
自分がその師匠から受け継いだヴァイオリンをナセル・アリに授ける。
 
 
世界中を演奏してまわるナセル・アリ。でも、未婚のまま。
 
 
母親に強制お見合いさせられた相手は、数学教師のファランギース。
「彼女を愛していない」「愛は後から生まれるわ」生まれなかったナセル・アリ。
 
 
 
音楽教師としては役立たず。芸術家だから家の事も出来ない。
二人の間にあるのは諍い、口論ばかり。
 
 
 
 
ファランギースの癇癪が爆発して、師匠から授かったヴァイオリンを叩き壊す。
替わりのヴァイオリンを探すナセル・アリ。
 
 
彷徨う街角で再会するイラーヌ。声をかけるナセル・アリに、
「あなたを全く知らない」という言葉が返ってくる。背中を見送るナセル・アリ。
 
 
その言葉は、始めて彼女と話した時に聞いた言葉。
孫の手を引いて、角を曲がって泣き崩れるイラーヌ。
彼女は本当は覚えていた。諦めなければならなかった愛を。
 
 
 
 
ナセル・アリは、遂に、世界一のダイヤもあるし、マジックも出来るよ~って主人の、
怪しい店で、ストラディバリウスを入手。(少年隊の植草様に似てないか? ↑)
しかし、正装し、万全で挑んで奏でた時、
かのヴァイオリンの音を再現することは出来なかった・・・
 
 
死を決した彼が衰えていく時、妻、ファランギースは、唯一夫が喜んでくれる、
食事で彼の好きな料理を・・・と、鶏のプラム煮を作る。それが映画のタイトルなのが哀しい。
鏡の前に立ち、髪をほぐし、眼鏡を外し、夫に料理を運ぶファランギース。
本当は、幼いころから彼を愛し続けた彼女の想いは、それでも決して彼に伝わらない。
過去や将来の「死」も現れる。
チェーンスモーカーで亡くなった母の墓碑の上に現れる煙草の煙の塊。
 
 
雪のひとひらを捕まえ、はしゃぐ、まだ幼子の娘は、
将来、愛する男性と死に別れ。
 
 
二度目の心臓発作で、医者から今度起きたら危ないと言われるが「それが何なの」
 
 
 
三度目の発作で、あっけなく死んでいく。
 
 
 
 
そして、遂に、死神アズラエルがナセル・アリを死へ導く
葬儀を遠くからイラーヌがひっそり見守る。
 
 
キャスト、豪華。
主人公に、何かといい役のMathieu Amalric(マチュー・アマルリック)様
母ちゃん、Isabella Rossellini(イザベラ・ロッセリーニ)様。結婚断れんわ。
ファランギースにアナイス・ニン様を演じたMaria de Medeiros(マリア・デ・メデイロス)様
娘リリの成長後に、Chiara Mastroianni(キアラ・マストロヤンニ)様
有無を言わさぬキャストって感じ???
 
 
 
そう、芸術家ですもの、有無を言わさないくらいのパワーあってこそ?
その芸術家を愛し、結婚までしても、愛されなかった妻が作る料理が映画のタイトルです。