Jean-Charles Richard Trio / Traces | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

前々から気になってしかたなかったJean-Charles Richard (ss, bs)。ファーストアルバムは買い逃しましたが、ベースとドラムのトリオで出た新譜をようやく手に入れました。サックス奏者の実力が一番よく分かる私好みの編成で、曲によってソプラノとバリトンとバンスリ(インドの竹製横笛)を持ち替えています。ドラムはWolfgang Reisingerで言うことなし。とっても楽しみにしていたアルバムです。

最初に書いておきますが、Jean-Charles Richardは私の期待をはるかに上回っていて目が点になりました!そう、聴いたとたん一発で惚れてしまった...。「ふっふっふ、凄いヤツを見つけたぜ」と、ただちに彼をお気に入りソプラノサックス奏者の五指に入れることとし、さっそくこれを書いておりまする。
それから、じぇんじぇん知らなかったベーシストのPeter Herbertも同じくただもんじゃなかった。多用しているアルコ奏法が恐ろしく上手くてびっくり。この二人はきちんとクラシックを学んだに違いないと思っていたら、やはりそうでした。


本作は2011年2月にStudio Gimmickにて録音、2012年リリース。Jean-Charles Richardが8曲、Peter Herbertが1曲を書き、三者によるフリーインプロビゼーションが1曲の全10曲。


1曲目のTumulteは、バリトンでダイナミックに。ノリが良く分かりやすいかっこよさがあってツカミとしてはバッチリ。
2曲目のWienerはソプラノで。きちんと作曲された部分と中間部のフリーインプロとがあり、作曲された部分は無調で拍子やリズムが分かりにくくユニゾンや休符やキメが多用されている難曲。何が合図になってんのかさっぱり分からん阿吽の呼吸で見事に統率された演奏を聴かせてくれる。
3曲目のMisfit-Banditは、曲に甘さはありませんが明るいムードも感じさせて軽快です。優雅なベースラインに乗ってクリアな美しい音色で溌剌とソロを綴るソプラノ。ドラムの創り出すテンションも秀逸。
4曲目のLe relinquaire du bonheurは、ゆったりと静かで物悲しさを帯びた美しさの中に抑制された激しさも。音数少なくロングトーンを生かしたソプラノは、自在に変化する音色が絶品で表現力が素晴らしい。腹に響く安定したアルコ奏法のベースと繊細で縦横無尽なシンバルワーク主体のサポートも見事。
5曲目のNeige Graveは、アフリカ音楽的8分の12拍子でリズミカル。メロディーの素朴な趣が味わい深く、時折ソプラノが発する鳥のさえずりのような鋭い超高音に驚く。
6曲目のBengalisは、ベースとバンスリのデュオで牧歌的。会話しているかのような出だしからリズミカルに変化する。バンスリの柔らかく素朴で乾いた音色には軽妙な趣があってこれまたよろし。
7曲目のMyosotisは、バリトンでゆったりと繊細に。始終ルバートで静かな落ち着いた雰囲気があって心落ち着く。
8曲目のNaderは、4分の5拍子のオリエンタル調でエレガント。フレーズによってソプラノの音色が東洋楽器さながらに変化するので驚く。
9曲目のFirmamentは驚異的!電気的加工も多重録音も施さず、楽器の可能性を試すかのような実験的手法が最大の音響効果を上げている。バリトンの循環呼吸(かな?)によるロングトーン。それがホーミーのように共鳴しているところも。ドスの効いたアルコのベース。ドラ(どでかいシンギングボウルかも?)やチベタンベルなどのパーカッション。それらの音が、交互に現れたり太いロープのように一体となって曰く言い難い重低音を発したりしながら幻想的で神秘な世界を生々しく表現していて迫力満点です。
10曲目のTrait-Attraitは完全フリーインプロ。終わり方にしても何でこのようにビシッとキメられるのか分からない高度な演奏。


Jean-Charles Richardは、楽器のコントロールが凄くてびっくりです。テクニックを誇示すると音楽が台無しですが、決してそうならない。自由自在に音色を変化させられるだけでなく、実験的で冒険的もいえる特殊奏法、完璧なまでに滑らかなグリッサンド奏法などなど、確かな技術に支えられた表現力は絶賛に値します。また、作曲能力も言うことなしで、1曲1曲が丹念に創られていてセンスが良いと感じます。
先進的な現代感覚と民族音楽的な曲想とが違和感なく収められた本作は、録音も良好で聴き応え満点。美味しい曲と高度で驚きに満ちた演奏がギュッと詰めこまれ、丸ごと一枚なんべん聴いても面白い。こいつぁー傑作です!


蛇足ながら、先にちょっと触れたソプラノサックス奏者のお気に入りナンバー5を。


1  Sylvain Beuf
2  Stephane Guillaume
3  Emile Parisien
4   Matthieu Donarier
5  Jean-Charles Richard
番外 Paul McCandless


順位は関係なくてたんに私が知った順番です。1~5まで全員がフランス人なのはたまたま。PortalさんやSclavisさんらの大御所はあえて外しております。
Dave Liebmanはどないなっとんねん?と仰る向きもあろうかと存じますが、Liebmanさんの参加作は持っててもリーダー作は持ってませんので私に語る資格はありません。


御用とお急ぎでないかたは、Jean-Charles Richardのホームページへどうぞ。
http://www.jeancharlesrichard.com/


Wolfgang Reisingerのホームページ。
http://www.wolfgang-reisinger.com/


レーベルのページで本作の試聴ができます。
http://www.abaloneproductions.com/tout-les-albums/traces.html


■ Jean-Charles Richard Trio / Traces (Abalone Productions AB011)
Jean-Charles Richard (ss, bs, bansuri)
Peter Herbert (b)
Wolfgang Reisinger (ds)


入手先:Amazon(通販)