PLASTIC SEPTET / HORROR VACUI | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

皆既日食をあしらった訳分からんジャケといい、イケてるのかイケてないのかよう分からんバンド名といい、タイトルに踊るHORRORの文字といい、このアルバムがフツーの真面目な(?)ジャズファンから熱い注目を浴びることはまず無いといっていいでしょう。中身のほうも、いちおうはコンテンポラリーなジャズではあるものの、やはりフツーではないです。時にハードでエキサイティング、時にポップ、時にクラシカル、時に室内楽的かつ牧歌的アヴァンギャルド、ごく一部に不可解でしかもありえない音(笑)といった具合に表現も多彩です。そこで、アルバム全体に漂うムードから、本作のキーワードを「奇妙」と、勝手に決めさせていただきました(笑)

まっとうな(?)ジャズを聴く一方で、何でこういう変わったジャズを偏愛してしまうのか自分でもよく分かりませんが、ひとつ言えるのは、音楽にさほど癒しを求めていないからなんですね。私が常に音楽に求めているのは刺激と驚きです。でね、刺激と驚きを伴う創造性豊かな本物の音楽をジャズの中から探し続けていると、ちょいちょい変わった面白いものに遭遇するんです(笑)

本作の場合は、レーベルであるBudapest Music Centerのディストリビューターのウェブサイトで試聴してみたのが購入のきっかけでした。クラシックギター、木管4人、ウッドベース、ドラムスという、アコースティック楽器のみのセプテットで、曲によってゲストのマリンバが入るという編成にもいたくそそられました。

メンバー全員知らんわと思っていたら、Andras Mohay は、Zsolt Kaltenecker Trioに参加していたドラマーだったんですね。と、こんな具合で、ハンガリーに限らずチェコやポーランドのような東欧のジャズは、名前の読みがネックとなってアーティスト名が覚えられないのが困るんですけど、誰かいい方法ご存じないですかぁ?てなこと書いても、「そういうジャズをたーくさん聴いて気に入ったミュージシャンから手当たり次第に名前の文字を記号の羅列として覚えこんでしまうか、いっそのこと発音をマスターしてしまいましょう。頑張ってね」と言われそうだなぁ(笑)


さて、本作は2007年4月録音、2008年リリース。全16曲のうち10曲がDaniel Vaczi、5曲がGabor Brezovcsik、1曲だけGabor BrezovcsikGabor Lukacsの共作。アルバムタイトルのHORROR VACUIとは、文字通りの意味ですと「余白や空間に対する恐怖(嫌悪)」となりますが、美術用語ではイスラム芸術などにみられる空間を埋め尽くす重厚な装飾表現を指します。

余談ですが、「ジャズなんか嫌いや」と言い放つ人にその理由をお尋ねしますと、「やたらうるさくて訳分からん音楽やから」というのが多いですが、そのとおりなので返す言葉がありません(笑)訳が分かるかどうかは別にして、ジャズっていうのは、もともと余白や空間が少なくてけたたましい音楽ですものね。

本作のHORROR VACUIというタイトルは、おそらくこのバンドの音楽性にちなんでつけられたのでしょう。大きな特徴のひとつは、楽器が激しく入れ替わり立ち代りしつつ重層的な複雑さで巧妙に絡み合うアンサンブルで、そのメリハリと変化に富んだサウンドはまるで万華鏡のよう。もうひとつは、作曲のセンスがかなり斬新でアイディアに富んでいて凄ーく面白い!趣向を凝らした非常に緻密なコンポジションになっていて、それはそれは鮮烈な印象を受けました。その雰囲気はシュールでミステリアスでカラフルで奇妙で不思議。もちろん各人のソロも聴きごたえ満点なのですが、こういう不思議系万華鏡サウンドに、優雅極まる哀愁ギターが絡まったりすると、これがまた実に相性がよくてですね、聴いてるこっちは思わず知らず萌えてしまうという(笑)


このバンドの人員は、どうもクラシックとジャズ両方のミュージシャンで構成されているようで、その演奏は文句なしのハイレベルで実に素晴らしいんです。本作はなんべん聴いてもちっとも飽きない面白さ。聴くたんびに新しい発見が出来るような気がして、目下のところ一番の愛聴盤となっております。


やはり、たまにはこういうふうに未知の分野を開拓してみるもんですなぁ。いやはや、本作には参りましたーという感じです。普段は点数や評価をつけない私ですが、本作は文句なしの5つ星。こいつぁー間違いなく傑作です。ハンガリージャズ恐るべし!!


御用とお急ぎでないかたは、PLASTIC SEPTETのホームページへどうぞ。こちらで本作の試聴も出来ますわよ。

http://www.plasticseptet.hu/


Daniel VacziがリーダーであるDaniel Vaczi Trioのウェブサイト。

http://www.vaczi.daniel.hu/



PLASTIC SEPTET / HORROR VACUI (Budapest Music Center BMC CD 142)

Gabor Brezovcsik (g)

Daniel Vaczi (sopranino saxophone)

Gabor Lukacs (as)

Balasz Nagy (ts)

Keve Ablonczy (bcl)

Peter Nagy (b)

Andras Mohay (ds)

guest : Boglarka Fabry (marimba)

入手先:キャットフィッシュレコード(通販)