MARC BOUTILLOT TRIO / ... ET ALORS !? | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

「ううむ、こいつぁー凄いっ!!」と、最初に吠えておく(笑)
彼の名前は、MARC BOUTILLOT(読みはマルク・ブーティヨでいいのか?)。彼は間違いなく逸材です。
別のアーティスト名で何気なく検索してMARC BOUTILLOTのリーダー作にたどり着くまで、彼のことは全く知りませんでした。もしもそれがピアノトリオだったとしたら、私はその時点で興味を失っていたかもしれません。しかし、彼がピアニストではなくクラリネット&バスクラリネット奏者であり、ピアノ抜きのトリオで全曲オリジナルを収録していたことで、がぜん興味がわき、本作のレーベルLe Petit Labelのページで1曲試聴しただけでノックアウトされてしまったのでした。

本作は、11曲全てがMARC BOUTILLOTのオリジナルで、2005年9月21日と22日に録音されています。アルバムタイトルの「... ET ALORS !?」は、「SO WHAT ?」と同じ意味。ただ、ディスクはCD-Rで、それだけが残念でなりません。無漂白再生紙の二つ折り紙ジャケットには、絵本を思わせるシンプルで洒落たイラストが印刷されています。しかし、重要なのは内容です!演奏は、そらもうエライことになっとります。緻密に練られた複雑な楽曲、聴き応え満点のインプロビゼーション、作品としての完成度は非常に高く、曲によって緩急の対比も鮮やかで、聴いていてちっとも飽きません。ついでに書きますと、CD-Rということで音質には全く期待していなかったのですが、意外にも録音状態は良好です。
MARC BOUTILLOT(1967年9月13日生まれ)とSEBASTIEN BELIAH(1979年生まれ)は初めてですが、FREDERIC DELESTRE(1971年生まれ)は、PIERRE-STEPHANE MICHEL / RAYON VERT (Sketch)や、SYLVAIN BEUF TRIOS + / MONDES PARALLELES (Cristal Records)に参加していたドラマーで、演奏レベルは高かったと記憶しています。

1曲目のTOURNAHOCは、鮮烈です。変拍子とポリリズムと4ビートが入り組んだテーマ部分をほんの少し聴くだけで、この3人が只者でないことがお分かりになると思います。後半のフリーインプロビゼーションも非常にスリリングで、濃密なインタープレイに思わず興奮。
2曲目のVLADIRは、ミディアムテンポの4ビートで、ごくごく気楽な雰囲気のストレートなジャズフィーリング。この曲におけるMARC BOUTILLOTのバスクラは、1曲目で超絶技巧を披露していたのと同じ人物とは思えないほど大らかに歌っていて朴訥とさえ思えるほど。トリオの演奏もけっこうリラックスした感じになっています。
3曲目、タイトル曲の... ET ALORS !?は、楽しくユーモラスなムードではあるものの、これまた少々奇妙で独特なメロディーラインを持つ一筋縄ではいかないテーマ。中間部はさらに強烈な変拍子となり、拍のずらしも煩雑に繰り返され、シリアスでM-BASE的なかっこよさのなか、クラリネットソロがエキサイティングに盛り上がり、爆発するドラムソロがロックしてるのには思わずニヤリ。
4曲目のSANTIは、ゆったりとしたテンポで夕暮れを思わせるちょっぴり切ないメロディー。力まず気楽な感じの演奏に心がなごみます。ベースソロもいい音が出ていて◎。
5曲目、TRAFICのベースソロはビート感が素晴らしく聴き応え満点で、けっこうな速弾きが縦横無尽に展開しつつクラリネットソロへの受け渡しも完璧に決めている。ドラムの好サポートも光っています。
7曲目のLA BOSTAは、これまた奇妙な中近東ふうのメロディーを持つテーマ。やがて、ドスの効いたベースが同フレーズを繰り返すなか、クラリネットとドラムの緊密なインタープレイが繰り広げられる。これだけでも聴き応え満点ですが、実はその先が凄かった。今度はバスクラの同フレーズの繰り返しをバックに、アルコとピッキングを交えながら最高にアバンギャルドで尖りまくったベースソロがスリリングにドラマティックに展開され、しかもそれが非常に生々しい音!ベースファンとオーディオファンに聴かせたら、両者とも泣いて喜びそう。
9曲目のTRACKも奇妙でユーモラスなテーマメロディーです。でもでも、これは、変過ぎますよ!感じたまま言えば、まるで盆踊りをアップテンポにしたような(笑) はっきり言ってこのテーマはイモなのですが、しかしね、やはりMARC BOUTILLOTさんは凄かった。バスクラの表情豊かなアドリブソロが徐々にヒートアップし、どりゃーっ!という感じでダーティーに暴れて吠えまくったかと思うと、とうとう狂ったかのようにぶち切れたじゃありませんか!ところが力尽きたのかぶち切れたあとは息も絶え絶えという感じになり、大丈夫か?と思ってたら、次のベースソロがけっこうスリリングな速弾きでまたまたエキサイト。すると、ここでようやく酸素マスクで元気を取り戻したBOUTILLOTさんが再登場。イモ全開なアップテンポの盆踊りで落とし前をつけましたとさ。
10曲目、DIFFICILE A DIREのいかつい感じのテーマは、エネルギッシュにダッシュした演奏がぴたりと止まって再びダッシュの繰り返しという、言わば「ストップ・アンド・ゴー」の手法。と、書くと簡単そうですが、実際は「ストップ・アンド・ゴー」の箇所にはこれといった規則性が無くアップテンポなのでかなりの難曲です。トリオによる阿吽の呼吸と絶妙なアーティキュレーションと凄まじいまでの集中力によるソリッドなアンサンブルは、ただただ完璧!としか形容のしようがなく、ブレイクで残響を聴いているときの緊張感がまた快感(笑) やがて、ちょいと気取ったハードボイルドなブルースっぽさを覗かせておいてから、バスクラによる縦横無尽の目くるめくアドリブソロへ。怒涛のごとき叩きまくりのドラムソロもちょっとした聴きものになってます。
11曲目のLATITUDEは、一転してごくごくゆったりとしたテンポ。これはアルバムのラストを飾る「おやすみなさい」の音楽なのでしょうね。さびしく悲しげなメロディを静かに綴って行くバスクラの深い音色がまるでベルベットのような感触で、聴き手を優しく包んでくれるかのようです。

MARC BOUTILLOTは、その作曲能力、アレンジ、楽曲に込められたユーモア、超絶な演奏技巧、豊かな表現力、即興における閃き、一種独特のユニークな音楽的センス、と、どれをとっても素晴らしいの一言で、全く文句のつけようがありません。何と言ったらいいのか、MARC BOUTILLOTというアーティストは、怖いほど私の好みにバッチリとはまり過ぎてます(笑)
あとの2人も実力ある一級のプレイヤーですよ。難曲をものともせず見事なサポートぶりで、リーダーに負けず劣らずの聴き応えあるソロを聴かせてくれる。SEBASTIEN BELIAHのベースは、びっくりするほどいい音が出ていますしビート感も抜群でアルコも達者。速弾きのソロなんてちょっとFRANCOIS MOUTINみたいになってます。ドラマーのFREDERIC DELESTREは、けっこう手数が多くて迫力もあり、間違いなく優秀なジャズドラマーです。しかも多彩な技を持っていて、それこそ何でも叩けまっせという感じがして頼もしい。

ここで本作の1曲目と3曲目だけ試聴出来ます。途中までしか聴けませんが、ご興味がおありでしたら是非お聴きになってみてください。
http://www.petitlabel.com/pl_010.html

MARC BOUTILLOT TRIOのホームページ。試聴は重いです。
http://www.marcboutillot-trio.com/

MARC BOUTILLOTのMYSPACEのページ。ここでもいろいろと試聴可。
http://www.myspace.com/marcboutillot

MARC BOUTILLOTの活動は多岐にわたっていますが、1987年の結成当時からSEXTUOR DE CLARINETTES BAERMANNというクラリネット六重奏団のメンバーでもあります。試聴も可。
http://sextuor-baermann.com/

SEBASTIEN BELIAHのホームページ。
http://sebastien.beliah.free.fr/

FREDERIC DELESTREのMySpace。
http://www.myspace.com/fredericdelestre

Le Petit Labelのホームページはこちら。
http://www.petitlabel.com/

■MARC BOUTILLOT TRIO / ... ET ALORS !? (Le Petit Label - PL010)
MARC BOUTILLOT (cl, bcl)
SEBASTIEN BELIAH (b)
FREDERIC DELESTRE (ds)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)