ANDY EMLER MEGAOCTET / CROUCH, TOUCH, ENGAGE | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

ANDY EMLER MEGAOCTET(1989年結成)の2009年にリリースされた新譜です。
前々からすごーく気になっていたこのバンド。実を申しますと、以前どっかで試聴したときにいきなり聴こえてきた狂気のヴォイスパフォーマンスに「キャイ~ン!」と尻尾を巻いて以来それきりになってました(笑) そういうわけで、巷では鬼才などと称されているらしいANDY EMLERさんの音楽を「難しすぎて訳分からんかったらどないしょ」などと勝手に思い込んでてなーんとなく聴く機会を逃していたのですが、このほど結成20周年記念盤として新譜がCDとDVD(PAL仕様)の2枚組でリリースされましたので「こりゃ好都合だわい」と、半ば怖いもの見たさ(?)もあって入手してみました。アルバムタイトルの「CROUCH, TOUCH, ENGAGE」ってなーんかどっかで聞いたことあるなーと思ってたら、ラグビーの試合再開でスクラムするときにレフリーが発するコールなんですね。

本作のCDのほうは、全8曲がANDY EMLERによるオリジナルで、2008年11月録音。DVDは、2008年9月にLE TRITON(パリ郊外にあるジャズクラブ)で行われたコンサートから4曲(CD収録曲と同じ)とメンバー全員へのインタビューも収録するなど非常に充実した内容で、映像はボーナストラックを含め全て16:9のフルスクリーンです。

第一印象は、「プログレとファンクとロックに現代音楽を少々加えたパワフルでハードボイルドでコンテンポラリーなジャズ」かな。とにかく本作は非常に私好みの音となっておりまして、楽曲は優れた構成力と洗練されたアレンジでどれもこれもが納得の素晴らしさ。 このバンドは各人のソロも含めて演奏は超一流です。オラオラ的迫力に満ちた豪快な“動”と華麗で繊細な“静”といったメリハリも効いておりますし、その重厚でガッツあるサウンドにかっこよくビシバシと決まるアクセントもいちいち快感で、場面によってはむちゃくちゃエキサイティング。少々長尺な曲もありますが、演奏は常に緊張感と一体感を失わず聴き手を飽きさせません。これ以上ヤヤコシくなりようがないほど複雑に入り組んで構築されたテーマが多く、各人のソロを聴いてる時よりもテーマを聴いてる時のほうが手に汗握ってたりしてね(笑) メンバー全員による意味不明な掛け声(?)もはっきり言って変ですが、MEDERIC COLLIGNONによる恐ろしくテクニカルだけれどリディキュラス(アホ丸出し)でルナティック(完全にイカレてる)なヴォイスパフォーマンスと高速スキャットは強烈過ぎてただただ笑ってしまうしかないですし(褒めてるつもり)、ストラヴィンスキーの『春の祭典』に出てくる呪文のごとき一節がチューバによってオブリガート的に引用されるなどの趣向もあったりと全体はシリアスでありながらもユーモアのスパイスが効かせてあり、このバンドの賑やかで一筋縄でない面白さは、大袈裟に言うならばまるでサーカスを見てるのに近い(笑) ということで、やはり4ビートは全くやっておりません。

本作のCDが作品として素晴らしい出来なのはもちろんですが、聴衆の一人になったつもりで、汗の飛び散る熱演ライヴをDVDで鑑賞すればこのバンドの魅力とステージの楽しさが体感できます。最前列の人は気をつけて!実際に汗飛び散ってますから(笑)
まず、騒々しいアニメのキャラクターそのままに、せかせかとした大袈裟なアクションで一人目立ちまくっているMEDERIC COLLIGNONが可笑しい。そして、何故かピンクのヘアゴムでポニーテイルにしてるクリクリお目々のANDY EMLERさんは、お茶目で可愛いらしい笑顔がとっても暖かいのね。それから、赤いズボン、ランニングシャツ、無精ヒゲ、という、近所の自転車屋のオッサンみたいなLAURENT DEHORS。インド人的風貌のCLAUDE TCHAMITCHIANが時折見せる笑顔はちょっと不気味。メガネがしょちゅうズレてるのでちゃんと見えてんのかいなと心配になる、先生的風貌のFRANCOIS VERLY。普段はごくフツーに演奏してるのに自分のソロになると何故か頭が左にグイッと傾き左肩がグイッと上に持ち上がって体が歪んじゃうという変なクセがでてしまうTHOMAS DE POURQUERYなどなど役者が揃ってます。
DVD観ててアーティチョークが「ウヒョーッ♪」と興奮してしまったのは、どこでどうコケてぐちゃぐちゃになってもおかしくないほどの本作中最も難曲と思われるLE REGAMUSEで、複雑に入り組み次々に折り重なってゆく自由奔放なホーンアンサンブルや、ドラムス&パーカッションのポリリズム全開な激しいバトルから、怒涛のごとく迫力満点のトゥッティを見事に決めさせてしまうANDY EMLERの統率力とそれに応えるバンドの力量。とうぜん必要とされる集中力も半端で無いはずですが、時々お互いに顔見合わせて嬉しそうに笑いあったり恍惚とした表情を浮かべたりと、心から演奏を楽しんでるこの人たちは、まさに余裕のヨッチャンなのです。ドラムス&パーカッションのエキサイティングなバトルにいたっては、お客さんは指笛ピーピーの大歓声で大喜びだわ、ANDY EMLERさんまで立ち上がって巨体を揺らして踊り出すわで、そらもうエライ事になっとります。
はっきり言ってしまおう。この人たち全員、只者じゃない。そして本作は間違いなく傑作ですっ!
ANDY EMLER MEGAOCTETの結成20周年おめでとう!そして素晴らしい音楽をありがとう!

*オマケ
DVDに収録されたインタビューを観ていて最も印象的だったのが、「あなたにとってANDY EMLERってどんな人?」という質問(たぶんそういう意味の質問だと思う)に対してTHOMAS DE POURQUERYが「お父さん」と答えていたこと。でもよくよく考えてみたら、DVDを観てて私が唯一ちゃんと理解できたフランス語がこの“PADRE(父)”という単語だけなのよね~(笑) また、「あなたにとってANDY EMLER MEGAOCTETとは?」との質問(たぶんそういう意味の質問だと思う)に、THOMAS DE POURQUERYが感極まって涙してなかなか答えられない場面も。リーダーがお父さんと慕われるだけあって、確かにバンドの雰囲気はええ感じになってますね。フランス語が理解できるなら、それぞれの人となりがうかがえて凄く面白いインタビューなんだろうなと思います。キーワードとなる単語は次々に画面表示されますので、そのうち辞書と格闘してみてもええかな(笑)
それから、DVDを観る限りMEDERIC COLLIGNONが演奏している楽器はフリューゲルホルンとポケットトランペットですが、アルバムクレジットにはbugle(フリューゲルホルン)とcornet(コルネット)となっています。cornetはフランス語でポケットトランペットのことを指すのかしらん???管楽器の世界もいろいろとヤヤコシイもんですなあ。

御用とお急ぎで無い方は、ANDY EMLERのウェブページへどうぞ。
http://www.andyemler.com/


■ANDY EMLER MEGAOCTET / CROUCH, TOUCH, ENGAGE (Naive NV 816711)
Andy Emler (p, comp, cond)
Mederic Collignon (flh, poket trumpet, vo)
Laurent Dehors (ts, bcl)
Thomas de Pourquery (as, ss, vo)
Philippe Sellam (as)
Adrien Amey (as) *on the DVD
Francois Thuillier (tuba)
Claude Tchamitchian (b)
Eric Echampard (ds)
Francois Verly (marimba, perc)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)