DUPONT T / SPIDER'S DANCE | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

フランス人ベーシストHUBERT DUPONTのことは、KARTETの2作目PRESSION (Deux z 84118)というアルバムで知りました。KARTETは、GUILLAUME ORTI (as, ss)、BENOIT DELBECQ (p)、HUBERT DUPONT (b)、BENJAMIN HENOCQ (ds)の4人組みユニット。少々とっつきにくいところがあるものの、コンテンポラリーでポリリズム的なジャズをやっていて、ユニークでなかなかかっこいいと思いました。KARTETは、3作目からドラマーがCHANDER SARDJOEに交代し、これまでに5作をリリースしています。KARTETの音はHUBERT DUPONTのホームページでも試聴できますので、ご興味のあるかたはどうぞ。

本作はHUBERT DUPONTのおそらく4作目で、2006年11月23、24、25日録音。全10曲のうち9曲をHUBERT DUPONTが、1曲をRUDRESH MAHANTHAPPAが書いています。DUPONT Tというのはユニット名なのでしょうか?それにしても何でTがつくのか良く分かりませんが。
リーダーのHUBERT DUPONT以外は全く知りませんでしたが、他の人たちも全員、只者じゃないですぜ。

本作は4ビート皆無、キャッチーでメロディアスなフレーズも無し、無調寄りで一貫してダークでシリアス、抽象表現やミニマルの傾向もあり。と、こう書くと血も涙もない殺伐とした音楽かと思われるかもしれませんが、違います。楽曲は複雑でありながら贅肉がなく、緻密に構築されていて完成度が高い。変拍子がきついうえ、時にポリリズムとなる万華鏡的複雑さを持つラディカルでかっこいいジャズ。M-BASE的傾向もあると思います。各人のエモーショナルなアドリブソロ、静と動にかかわらずアルバムの全編に漲るテンションも文句なし。というわけで、なんべん聴いても面白い。

1曲目のSPIDERSは、不穏な空気。のっけから何拍子なのか全然分からんけど(笑)重厚でかっこいい!HUBERT DUPONTのゴリゴリしたベース、RUDRESH MAHANTHAPPAのアルトサックスも迫力満点。
2曲目のMAIS PRESQUEは、ダークネスとロマンティシズムが交錯している感じからけっこう熱く盛り上がる。特にYVAN ROBILLIARDのピアノのソロとバッキングが素晴らしい。CHANDER SARDJOEのキレの良いドラムも。アルトサックスが音数多く吹きまくるのも◎。
お気に入り、3曲目のPOSSIBは、ダークでミニマルっぽいリフが印象的。この人たちは皆、緻密で複雑なアンサンブルを完璧にやってのけるだけでなく、各人のアドリブソロがとてもアグレッシブに盛り上がるので聴き手をエキサイトさせてくれるところが、ジャズのバンドとしてまず素晴らしいと思う。そういう意味においても、この曲では特にYVAN ROBILLIARDのピアノソロが光る。
4曲目のORIENTABLEは、静と動が交錯しています。曲調とは異質な感じのする儚く夢幻的で浮遊感のあるピアノのバッキングがとても変わっていて面白い。聴きものはCHANDER SARDJOEのダイナミックに叩きまくるドラムソロ。まるでRETURN TO FOREVER / ROMANTIC WARRIORのLENNY WHITEみたいと思ってしまいました。
6曲目の1010だけはRUDRESH MAHANTHAPPAの作曲。吹きまくりアルトサックスのソロを筆頭に急速調でそらもうエライことになっとります。1分40秒と短いが聴き応えのある曲。
7曲目のDOUJは、7拍子がメインの淡々としたテーマから、ピアノのアドリブソロで一気に盛り上がりを見せる。
一番のお気に入りは8曲目のMOUNDELE。出だしのウッドベースは、弦の間に異物を挟み込んでビリつきのある変わった音をだしています。こういうのはプリペアード・ウッドベースというのだろうか?(笑)変拍子に加えてベース&ドラムスでアフリカ的ポリリズムをやっており、ドスの効いた重層的リズムに乗って刺激的でハイテンションなアルトやピアノのソロが縦横無尽に展開するのがとっても面白い。ピアノのバッキングもめちゃウマじゃあーりませんか!と耳がいくつあっても足りない(笑)かっこよくも美味しい曲。
10曲目のD'HELICESは、15拍子。RUDRESH MAHANTHAPPAのアルトソロも凄いですが、YVAN ROBILLIARDのピアノソロとバッキングがもーむちゃくちゃかっこいい。

HUBERT DUPONTは、超絶な速弾きをするわけではありませんが、ビート感とメリハリの効いた重厚で聴き応えのある演奏をするベーシスト。作曲も素晴らしいので注目しています。
YVAN ROBILLIARDは素晴らしいピアニストですね!高度な技量、センスの良い和声感、大胆にして繊細、アイディアに溢れ、フィーリングもピカイチ。一発で気に入っちゃいました。
RUDRESH MAHANTHAPPAのアルトサックスは、骨太な音がまずよろしい。演奏には熱血とクールが同居している感じでテクニックも文句なし!
それからドラムのCHANDER SARDJOEも実に上手い。手数が多いのも私好み。演奏に華があり、ゆったりしたシンプルなリズムでもキレを失わない。
この人たち、ライヴだともっと凄そうです。いっぺん生で聴いてみたいっ!

御用とお急ぎでないかたはHUBERT DUPONTのホームページへどうぞ。いろいろ試聴もできまっせ。
        http://www.hubertdupont.com/

本作は、こちらで全曲試聴できます。ジャケットの下の♪Ecouter tous les extraits de l'albumをクリックしてね。
http://www.fnacmusic.com/layout/album/b34e0763-0443-426b-a40e-8be2ae3dfbab.aspx?SID=566b3f8f-6115-016e-6e98-d9a9a1574f2e&UID=01FF36F73-7F8B-EB23-E1AF-31F8C4399D6F&Origin=CALINDEX&OrderInSession=0&TTL=200720080633

YVAN ROBILLIARDはこちら。
        http://www.yvanrobilliard.com/

RUDRESH MAHANTHAPPAはこちらをご覧ください。リーダー作にはFRANCOIS MOUTINが参加してるんですね。
        http://www.rudreshm.com/

CHANDER SARDJOEは、こちらで。
        http://www.myspace.com/chandersardjoe

*どうでもいいオマケ
2008年の最初に感想を書こうと思ったフランス盤の新譜が、検索してみると極めてマイナーな存在であることが判明いたしました(苦笑) こいつぁー新年早々縁起がいいのか悪いのか、はたまた喜ぶべきか悲しむべきか。でもこれ、早くも2008年度のベスト10入りか?(まぁ、あくまでも現時点で)っていうぐらい気に入って愛聴してます。

■DUPONT T / SPIDER'S DANCE (Ultrabolic UBR 0502 / Nocturne)
HUBERT DUPONT (b) (1959年、たぶんフランス生まれ)
YVAN ROBILLIARD (p) (1978年、フランス生まれ)
CHANDER SARDJOE (ds) (1970年生まれのインド系、アムステルダム在住)
RUDRESH MAHANTHAPPA (as) (1971年生まれのインド系アメリカ人、NY在住)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)