STEFANO BOLLANI QUINTET / ライヴリポート | 晴れ時々ジャズ

晴れ時々ジャズ

日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。




第2回ギンザ・インターナショナル・ジャズ・フェスティバル2006の催しのひとつ、STEFANO BOLLANI QUINTETのライヴを聴いてきた。
会場となった時事通信ホールは、こじんまりと200席あまり。ステージ下手側にピアノ(YAMAHA)のSTEFANO BOLLANI。上手側にドラムス(Pearl)のCRISTIANO CALCAGNILE。中央奥にウッドベースのARES TAVOLAZZI 。中央手前の向かって右側にクラリネットのNICO GORI(美味しそうな名前だ)。左側にサックスのMIRKO GUERRINIという配置。演奏したのは全てアルバム I VISIONARI からで、アンコールを含めて全部で6曲(たぶん)、1時間ぐらいのステージだったと思う。

登壇し、聴衆の拍手に笑顔で応えて一息つくなり、ボラちゃんがボケを一発。

STEFANO BOLLANI 「えーと、ここは確かブラジルだったよね。うん、ブラジル人がいっぱいいるもん(と客席のほうへ手の平を差し出すしぐさ)。えーと、ポルトガル語の挨拶は...。」
MIRKO GUERRINI 「おいおい、ここはニッポンだよ。ニッポン!僕たちは今、トウキョにいるのっ!」(怒っている)
STEFANO BOLLANI 「あ、ここ、トウキョなの?ホントに?そいつぁーうっかりしてたな~。」
MIRKO GUERRINI 「ったく、しっかりしてくれよな、ボラちゃん。前にも来たことあるだろ、トーキョに。ニッポンのお客さん、ヘソ曲げて帰っちゃったらどうすんだい。」
STEFANO BOLLANI 「ニャハハッ、僕みたいにツアーで世界中を飛び回ってるとつい混乱しちゃって。んじゃ、改めまして、コニチハー!!」(と屈託のない笑顔でご挨拶)

実はイタリア語なのでよく分からず、上記はほとんど想像だが(;^_^A まあ、こんな感じで軽く聴衆の緊張を解してくれたボラちゃんは、例のふわふわカールの髪を無造作にポニーテイルにし、白っぽい長袖の襟付きシャツ、ラフなズボンに鋲のいっぱいついた黒いベルト、革のスニーカーといったいでたち。
ツッコミ役(?)が板についてるMIRKO GUERRINIは、立派な体格と立派なお腹の持ち主。
知的で物静かなNICO GORIは、スレンダーでなかなかの男前。
メンバーのなかでは飛びぬけて年長と思われるARES TAVOLAZZIだけは、アルバム I VISIONARI 録音時のメンバーではないけれど、BOLLANIとは数多く共演してボラちゃんとのデュオ作品もある気心の知れたベーシスト。
CRISTIANO CALCAGNILEは、面立ちといいヘアスタイルといい、ちょうどJEAN-PIERRE COMOをひとまわり若くしたような感じ(笑)
それにしても、ステージ上のジャズミュージシャンて、なんでいつもこういう地味~な黒っぽい服装なのか?もう少しお洒落してもよさそうなものだが。ドラマーのCRISTIANO CALCAGNILEは“AH UM”という大きな文字がプリントされた半そで黒Tシャツだし(何でジャズドラマーはいつも決まって黒の半そでTシャツなのか?謎だ!)ベーシストのARES TAVOLAZZIも黒い長袖Tシャツ(それも無地の洗いざらし)だった。

演奏は私の予想どおり、LA SICILIAで始まった。イタリアントラッドふうの流れるような牧歌的メロディが印象的な、ゆったりとリラックスして聴ける曲。気楽なムードではあるけれど、演奏に軟弱さは一切無くメリハリが効いている。CDよりずっとゆるやかなテンポで演奏しているように感じた。

確か1曲目が終わったところでボラちゃんがメンバー紹介をしたが、名前が聞き取れたのはARES TAVOLAZZIとNICO GORIだけで、サックス奏者とドラマーの名前が全然分からなかった(笑)うーん、これは困ったと思ったが、帰宅後、アルバムにクレジットされていた名前でGoogleのイメージ検索をしてみると、顔と名前が一致して難なく解決(笑)こういう時、イメージ検索は実に便利なんである。

2曲目は、IL FIORE CANTA E POI SVANISCE。概ねは3拍子ながら、異なる二つのメロディが同時進行し、変拍子を伴い、意表をつく激しいアクセントが入るというけっこう複雑なテーマを持つ楽曲だが、ぴたりと息の合った演奏はさすが。CRISTIANO CALCAGNILEの少々手数の多いドラムスもなかなか良いと思った。

3曲目は、VISIONE NUMERO UNO。陰鬱で少々アブストラクトな趣。特に、ドラムスティックを立ててヘッド(あるいはリム?)に直角に押し当てながらゆっくりと円周運動させ、グイーンというか、キーンというか、なんともいえない不思議な金属的摩擦音を出しているのが面白かった。
と、ここまではアルバム I VISIONARI のA1~3の曲順どおり。

が、これ以後、私の記憶は曖昧だがお許しいただきたい。曲順はあやふやだが、4曲目はANTICHI INSEDIAMENTI URBANIだったかな?激しいビートと、うねるベースが印象的だが、メロディの端々にトラッド風味が感じられる曲。ボラちゃんとARES TAVOLAZZIの二人が顔を見合わせ、「ババババッ、ババババッ、ババババッ、バーーン」とリズムを口で唱えて楽しそうにリズムを合わせていたのが印象的だった。

またまたボラちゃんとMIRKO GUERRINIのコント(?)が始まった。今から、僕たちでイタリア語の歌詞を日本語に訳すから、会場のみんなも一緒に歌おうよということらしい。
ボラちゃんがイタリア語の歌詞をワンフレーズ「♪Mi chiamo Franco」(♪ミ キャモ フランコ)と歌うと、今度はMIRKO GUERRINIが紙切れに書かれたのを「ワタシノォ ナマエハァ フランコォ デース」と、たどたどしく読み上げるという具合。要するに、歌詞は全て「ワタシノォ ナマエハァ ○○ デース」という繰り返しのようだ。滑稽な共同作業が一段落すると、今度はボラちゃんがイタリア語で全歌詞をペラペラと早口言葉のごとく一気にまくし立て「さ、皆さんも一緒に歌ってね。」って...そんなもん、私らに歌えるわけないやん!(笑)
このQUANDO LA MORTE VERRA' A PRENDERMI は、ドタバタ喜劇みたいなユーモラスな曲調で、ところどころに管楽器のブキャ、とか、ビャーッというユーモラスな雑音が入り、そのほかの楽器もいろんなところで思いきりヘンテコリンな音を発する。歌はメンバー全員による陽気なコーラスで、とても楽しい。客席からは手拍子も。

アンコールは何だっただろう?間違っているかもしれないが、アルバムでいうとBの3、VISIONE NUMERO DUEだったかもしれない。どこか子守唄を思わせる優しいメロディのゆったりとした曲だったことは覚えている。
イントロはごくごく静かな雰囲気で、ボラちゃんのピアノに合わせてMIRKO GUERRINIがピアノの弦を弾いて繊細で可愛らしい音を出すというものだったが、そのうちボラちゃんがピアノの上に置かれていた紙(楽譜?)をマイクの近くでグシャグシャ、バリバリとやって面白そうにふざけ始めると、見咎めたMIRKO GUERRINIがつかつかと戻ってきてボラちゃんの手から紙をサッと奪い取り、「もう、ボラちゃんたら!ちょっと油断してるとすぐ遊び始めるんだから。はるばるニッポンまで来たというのに、もうちょっと真面目に演奏してよね、ホントにぃ。」(怒っている)という感じで、ポイッとステージの端っこへ投げ捨ててしまった。ボラちゃんは、一瞬、オモチャを突然取り上げられた幼児のような悲しげな表情になるが、すぐに気を取り直し、そこらにあったタオルをマイクの前で一心に振り回すが、紙みたいな楽しげな音は出てこない(笑)紙のバリバリいう音、私はいいと思ったんやけどなー。
こんなふうに面白いパフォーマンスで聴衆を笑わせてくれるとても楽しいステージだった。

ステージの雰囲気は楽しいものだったが、もちろん曲自体はどれも単純で気楽に演奏出来るようなものではなくて、けっこう複雑である。いわゆるバップフィーリングというものは前面には出てこないけれど、イタリアントラッド色が濃厚で、その上にラテン、タンゴ、クラシック、現代音楽が複雑に交錯する独特の世界。だけど、聴き手が感じようと思えば、ジャズがちゃんと感じられる音楽になっていたと思う。

演奏は各人とも本当に素晴らしかった。なかでもボラちゃんが一番楽しそうに演奏しているように見えた。時には、げんこつや肘打ちを素早く繰り出したりもするやんちゃぶり。が、フロントがソロの時は、ピアノの音量に細心の注意を払い、ちょっぴり真剣な顔を鍵盤にぐっと近づけて繊細なバッキングをつけているのがとても印象的だった。
NICO GORIは、クラリネットが主で、たまにバスクラに持ち替えるが、綺麗な音が出ていたと思う。何度か熱いソロを聴かせてくれて、そのたびに聴衆から大きな拍手をもらっていた。
MIRKO GUERRINI はテナー1本だったが、超高音までなめらかで、よどみなく力強いソロを聴かせてくれた。フロントの二人は相性も良く、息の合ったところも見せてくれて、なかなかのテクニシャンだったのではないだろうか。
ベースのARES TAVOLAZZIだけが譜面台を使っていたが、もともとのメンバーではなく来日のために加わったからかもしれない。だが、そこはやはりヴェテランらしく余裕の素晴らしい演奏をしてくれたし、彼の穏やかな表情には年季というものが感じられた。曲によってはけっこう自由奔放な弾き方もしていたように思う。
JEAN-PIERRE COMO似のドラマーCRISTIANO CALCAGNILEは、手数の多いドラミングに加えて、鈴のいっぱいついた紐を振り回す、シェイカーを振る、カウベルを叩く、ほかにも名前の分からないパーカッションを演奏しなくちゃいけないのでとっても忙しい(笑)始終真剣な表情で口元を真一文字に結び、常に一所懸命という感じの彼は、それぞれの曲の雰囲気に合ったとても良い演奏をしていて好感が持てた。

開演前に、ホール内での録音はもちろん、写真撮影などは禁止というお達しが放送されていたので、今回のライヴについては開演前の会場の写真さえもも無い(T_T)
終演後のサイン会も無かったのです。さびしーっ!

御用とお急ぎでないかたはボラちゃんのHPをご覧ください。
http://www.stefanobollani.com/

ボラちゃんのお守り役 MIRKO GUERRINIのHPはこちら。
http://www.mirkoguerrini.com/

こちらはNICO GORIのHP。
http://www.nicogori.com/


*追記(11月22日)
忘れてました!
I VISIONARIのウェブ・サイトは↓こちら。
            http://www.ivisionari.net/
分かる人の分だけでも生年月日と出身地を書いておきましょう。
  STEFANO BOLLANI(1972年12月5日、ミラノ生まれ)
  MIRKO GUERRINI(1973年、フィレンツェ生まれ)
  NICO GORI(1975年9月13日、フィレンツェ生まれ)
  CRISTIANO CALCAGNILE(1970年6月3日、ミラノ生まれ)

出演 : STEFANO BOLLANI QUINTET
STEFANO BOLLANI (p)
MIRKO GUERRINI (ts)
NICO GORI (cl, bcl)
ARES TAVOLAZZI (b)
CRISTIANO CALCAGNILE (ds, perc)
日時 : 2006年11月3日(祝) 午後3時45分開演
会場 : 時事通信ホール(東京都中央区銀座)