それは雨がよく降る日の夕暮れ時だった。学校から帰って来た中3の息子が「ただいま」も言わずに玄関で叫ぶ。
「お母さ~ん、こっち来てー!ほら、見て!」
その一言を聞いたとたん、まだ見ないうちから、なぜ私はそれが子猫だとわかったのだろう?
玄関へ行くと、息子が抱えるカバンの中から顔だけ出してこっちを見ている。可愛い!!
「雨に濡れてかわいそうやったから連れて来た。」
と、息子が言った。
「お母さ~ん、こっち来てー!ほら、見て!」
その一言を聞いたとたん、まだ見ないうちから、なぜ私はそれが子猫だとわかったのだろう?
玄関へ行くと、息子が抱えるカバンの中から顔だけ出してこっちを見ている。可愛い!!
「雨に濡れてかわいそうやったから連れて来た。」
と、息子が言った。
ニャーニャーいう子猫の足を二人がかりで雑巾で拭いて、床へ下ろしてやると、子猫はさっそく家の中を探検し始めた。軽々とした足取りと身のこなしで階段を駆け登り、廊下の突き当りまで行き、各部屋のあちこちをまわり、くまなく匂いを嗅ぎまわって点検する。
脚、腹、顔の中心は白く、そのほかは黒っぽいグレーのシマシマ模様で、わき腹の斑点模様が「ワイルドで行こう」(なんじゃそら?)の綺麗な猫だ。生後3ヶ月ぐらいだろうか。黒いアイラインに縁取られた金茶色の目をしたかなりの男前で、将来が楽しみだ。身体をなでてやるとゴロゴロと喉を鳴らし、尻尾をピーンと立てているので機嫌が良いと分かる。この家が気に入ったのだろうか?
食堂のテーブルにはすでに晩御飯の支度が整っていたので、二人と一匹は応接間に閉じこもった。息子が子猫を連れて帰るときの話に耳を傾けながら、子猫の可愛らしい仕草をうっとり眺めていると、早くも私の頭の中では、キャットフード、エサ入れ、猫用トイレ、猫用キャリーケース、赤い首輪、猫じゃらしだのといった買い物リストがぐるぐると渦を巻き、子猫に予防注射を受けさせる動物病院までリストアップしている始末(笑)
ああ、とうとう我が家でも猫を飼える日がやってきたのか?いつかこんな日がやって来るのではと思っていたけれど...。そう思ったとたん、嬉しさで急に胸がドキドキしてきた。と、そのとき、
「ただいまぁ~。」
と、夫が帰ってきた。
「ただいまぁ~。」
と、夫が帰ってきた。
「お帰りなさ~い!」
と言ってドアを開けると、夫が食卓に着くのと子猫がテーブルに飛び上がるのが同時だった。マズイ!
夫はすぐさま
「こら!」
と言って、猫を追い払った。
私:「ねえねえ、この猫、飼ってもいい?」(ちょっと上目づかい)
夫:「だめ。」(私と目を合わそうともしない)
息子:「やっぱりな。」
と言ってドアを開けると、夫が食卓に着くのと子猫がテーブルに飛び上がるのが同時だった。マズイ!
夫はすぐさま
「こら!」
と言って、猫を追い払った。
私:「ねえねえ、この猫、飼ってもいい?」(ちょっと上目づかい)
夫:「だめ。」(私と目を合わそうともしない)
息子:「やっぱりな。」
子猫:「ゴロゴロ...」(もうこの家に住むと決めている?)
子猫は人に慣れているし毛並みも綺麗で健康そうなのでノラではないだろう。きっと飼い猫に違いない。このまま家で飼うと、元の飼い主を悲しませることになるかもしれない。たとえノラであっても、これだけ元気で可愛らしい子猫だもの、そのうち親切な人が拾ってくれるだろうし、たとえ誰も子猫を拾ってくれなかったとしても、ここまで元気に育った子猫なら、独りでたくましく生きて行けるだろう。
そんな理屈で無理やり自分を納得させて、私は息子に言った。
「もといた場所に子猫を返して来なさい。」
二人で子猫をカバンに入れようとするが、するりと抜け出してしまい、なかなか入ろうとしない。ニャーニャー鳴いていやがる子猫を優しくカバンへ押し込むようにしてようやくファスナーを閉めた。
子猫は人に慣れているし毛並みも綺麗で健康そうなのでノラではないだろう。きっと飼い猫に違いない。このまま家で飼うと、元の飼い主を悲しませることになるかもしれない。たとえノラであっても、これだけ元気で可愛らしい子猫だもの、そのうち親切な人が拾ってくれるだろうし、たとえ誰も子猫を拾ってくれなかったとしても、ここまで元気に育った子猫なら、独りでたくましく生きて行けるだろう。
そんな理屈で無理やり自分を納得させて、私は息子に言った。
「もといた場所に子猫を返して来なさい。」
二人で子猫をカバンに入れようとするが、するりと抜け出してしまい、なかなか入ろうとしない。ニャーニャー鳴いていやがる子猫を優しくカバンへ押し込むようにしてようやくファスナーを閉めた。
子猫を見つけた場所の近くに息子の友達の家があるそうで、友達が子猫にメロンパンのかけら(笑)を与えている間に、息子はダッシュで帰ってきたという。
人間が保護してやらないと生きていけないほど幼かったとしたら、あの子猫はきっと我が家か、あるいは誰か他の人の家で飼われる事になっていただろう。
あれから一週間が過ぎたけれど、今でも思い出すと、夫の前で、わざと未練がましく、ため息混じりに口に出してみたりする。
「あの猫、可愛かったな...。今頃どうしてるかな~。」と。