FLORIAN ROSS(1972年、ドイツ生まれ)のリーダー作には、決まってタイトルに“and”とか“&”がついています。何故でしょうか???
1作目はSEASONS & PLACES (Naxos) (お気に入り。二管クインテット)
2作目はSUITE FOR SOPRANO SAX AND STRING ORCHESTRA (Naxos) (これだけ持っていないのです。)
3作目はLILACS AND LAUGHTER (Naxos) (あまり聴き込んでいない。大編成のブラスが入る)
4作目はBLINDS & SHADES (Intuition) (お気に入り。ピアノトリオ)
5作目はHOME & SOME OTHER PLACE (Intuition) (お気に入り。二管クインテット)
予想通り、新作のタイトルBIG FISH & SMALL PONDにも“&”がついていました(笑)全13曲のうちGIANT STEPSの1曲を除いてすべてFLORIAN ROSSのオリジナル。これまでの作品でブラスが入る編成では概ね4ビートが中心で、新感覚のハードバップのスタイルでキメてくれたりもして「うひゃー、かっこいいー!」とか「う~む、爽快!」となるのですが、4作目のBLINDS & SHADESや本作でのピアノトリオという演奏形態のときは、いわゆる4ビートではなく、変拍子系で少々先端を行く斬新で個性的な楽曲が多いです。
FLORIAN ROSSは、凄腕のピアニストであることはもちろんですが、まずなんといっても作曲とアレンジのセンスが素晴らしい!作品を追うごとにソリッドで完成度が高くなってきている感じさえ受け、本作などは何度繰り返して聴いても全く飽きないです。内省的で心象風景を表現しているかのような叙情性もあり、ただ甘美なだけで終わらない奥行きの深さとアイディアやイマジネーションも感じられて、彼の才能の豊かさと独創性にはいつも驚かされます。
DIETMAR FUHR(1964年、ドイツのケルン生まれ)は、1作目のSEASONS & PLACESから参加しているベーシストで演奏はなかなかの素晴らしさ。個人的にお気に入りの辣腕ドラマー、STEPHANE HUCHARD(生年不詳、モルディヴ生まれ)は、前作のHOME & SOME OTHER PLACEから起用されています。4作目のピアノトリオ作品BLINDS & SHADES も素晴らしかったのですが、本作のトリオの演奏も前作と甲乙つけがたくタイトで聴き応えがあり、高品質なアルバムになっています。
では、お気に入りの曲について簡単に感想を。
1曲目のPUDDLES - SWIM Ⅰは水の揺らぎを思わせるピアノの音が印象的。これと4曲目、8曲目、10曲目は組曲になっていて、表現力も豊かです。
2曲目のLUCKY FOR A QUARTERは、牧歌的で爽やかな印象。FLORIAN ROSSの即興のセンスとフィーリングは素晴らしい。ベースソロもなかなかです。親しみやすいメロディでリラックスして聴けますので、7曲目、ゆったりとした3拍子のCOMPARED TO WHAT ? とともに一般受けもしそうな感じ。
一番のお気に入りは3曲目、TIZZIE WHIZZIE。奇妙でユーモラスなタイトルですが、どういう意味なんでしょうか。「ツンツン、ビュンビュン」っていうようなニュアンス?(笑)複雑なリズムや変拍子の面白さが堪能出来る楽曲の構築美といい、タイトでスピード感みなぎるアンサンブルといい実に素晴らしいです。特にFLORIAN ROSSのピアノ、STEPHANE HUCHARDのドラムスには目を見張るものがあります。これ聴くときは、ちょっとだけヴォリュームを上げて演奏にのめり込みたい。
4曲目のSMALL POND - SWIM Ⅱは、やはり水を連想させる音です。次々と水面に現れては消えてゆく波紋を表現するピアノ。水面を伝わってくる反響音を表現するかのようなドスの効いたベース(おそらく5弦ですね)。そして力強いベース音がクローズアップされるとピアノの特殊奏法も相まって不気味なムードを醸し出す。この池の底には何か得体の知れない生き物(大きな魚?)が潜んでいそう。
6曲目のHEADS UPなどで次から次へと紡がれるピアノの様々なフレーズを聴いていると、FLORIAN ROSSがいかに優れたひらめきを持つアドリブ奏者であるかが良く分かります。
8曲目のBIG FISH - SWIM Ⅲは無調でスリリングなアップテンポがリタルダンドして終わる。フリーフォームのようにも聴こえますが、綿密に計算された演奏のようにも聴こえます。
9曲目のPETIT PAULは美しいメロディが印象的。清新さと内に秘めた力強さを併せ持つ素晴らしい曲で、何度でも繰り返して聴きたくなります。STEPHANE HUCHARDの少々音数の多いドラミングも光る。
これらのほかにも良い曲があります。
日本におけるFLORIAN ROSSの知名度、人気、評価といったものがどの程度なのかいまひとつ分かりませんが、作曲、アレンジ、演奏ともに卓越しており、コンスタントに質の高い作品を創造し続ける彼には“才気煥発”という言葉が似合っています。現代のジャズシーンにおいてFLORIAN ROSSは逸材の一人として数えられるべき人物ではないでしょうか。彼のような優れた若いミュージシャンたちが活躍することで、ジャズの未来は明るいと考えています。ジャズは決して死んでなどいないのですよ。
御用とお急ぎでないかたはFLORIAN ROSSの↓HPへどうぞ。
http://www.florianross.de/
■FLORIAN ROSS TRIO / BIG FISH & SMALL POND (Intuition INT 3396 2 )
FLORIAN ROSS (p)
DIETMAR FUHR (b)
STEPHANE HUCHARD (ds)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)