JULIEN LOURAU / FIRE & FORGET | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

JULIEN LOURAU(1970年生まれ)の5作目(?)でしょうか。JULIEN LOURAUのリーダー作を聴くのは初めてなのですが、どの曲も刺激的で面白くて最後まで一気に聴いてしまいました。購入の動機はBOJAN ZULFIKARPASICの参加で注目していたところ、たまたま運良くCD屋さんで見つけたから。気になるCDは、あとで後悔しないように実物を見つけたら迷わず買っておくことにしています。

10曲すべてオリジナル。8ビートや16ビートを主体に、ジャズロック、プログレ、クラブミュージック(ハウスミュージック?)的なアプローチ、はたまたボサノヴァ、ラテンロック、ミュージックコンクレートふうまで様々な表情を見せていますが、散漫な印象にはなっておらず、変拍子やリズムの面白さもあって最後まで飽きさせません。70~80年代の音楽を聴いて育ったJULIEN LOURAUがジャズで“現在”を表現するとこうなるのかもしれません。

本作で一番のお気に入りはJOHN GREAVESとJULIEN LOURAUの共作の2曲目、A STITCH IN TIME。変拍子を組み合わせた複雑なリズムパターンが面白い。DANIEL GARCIA-BRUNOの凝ったドラミングが光っています。
5曲目はJULIEN LOURAU作曲。一定のリズムパターンとリフが妙に気持ちよく、エレクトロニクスサウンドが飛び交い、CX3の音(懐かしい)、ハンドクラップなど様々な音が入り混じるなか、狂ったように炸裂するギターとミステリアスに響くサックスがフリージャズっぽくてかっこいい。
6曲目のLA BOUCLEは、JULIEN LOURAUとJ. GRAVESという人の共作。けだるい暗黒ムードに乗せてMINA AGOSSI(1972年生まれ)が囁きますが、フランス語ですし、歌詞が記載されていないので意味が全く分からないのが残念。エレクトリックギターのディストーションサウンドが破壊的なまでに炸裂し、MINA AGOSSIも狂ったように絶叫しているという凄まじくも異様な雰囲気の曲。ウッドベースのVINCENT ARTAUDは特に目立った凄い演奏をしている訳ではありませんが、アルバムの全編に渡っていい仕事をしていると感じました。
7曲目、JULIEN LOURAU作曲のLISA ET FLAVIOは気楽な感じのボサノヴァ調。アルバム中で唯一、無垢な心や、善良なものを連想させるメロディアスな曲になっていて、しばしほっとするのですが、終止形にならずに一抹の不安感を漂わせる余韻を残して終わります。
8曲目、BOJAN ZULFIKARPASIC作曲のRELAXIN' @は、9拍子(私はなぜか9拍子が好き)で、ギターも炸裂せずにちゃんとリズムを取っているし、アルバム中最もジャズを感じる曲になっています。BOJAN ZULFIKARPASICは本作では効果音的な演奏が多いものの、この曲ではフェンダー・ローズでソロを演奏しています。JULIEN LOURAUのサックスソロも余計な力が入っていなくてなかなか良い音を出しているのではないでしょうか。
JULIEN LOURAUは、今後の活躍にもぜひ注目したいミュージシャンの一人です。

*この作品は、ただ音楽として聴くぶんには大変面白く聴くことが出来ます。確かに刺激的で面白いですが、それは心躍るような、楽しい、希望に満ちた音楽ではなく、邪悪な何かによってもたらされた絶望のなかに、ようやく光を見つけたと思って安堵したとたん奈落へ突き落とされてしまうような不安感が付きまとっています。
アルバムタイトルの“FIRE & FORGET”の“FIRE”が戦争(イラクやアフガニスタンにおける)を意味していると理解するならば、この作品の聴き方も違ってくると思いますが、歌詞(英語、フランス語、その他の言語で書かれており、歌詞が書かれていない歌もある)の内容を理解するには限界がありますので、怒り、恐怖、傷ついた精神、二度と取り戻せない何か大切なもの、それらが頭をよぎるものの、私は本作に込められたメッセージをちゃんと受け止めることが出来ていません。ですが、たとえ内容を理解出来たとしても、突きつけられたメッセージはあまりに重過ぎて私には受け止められないかもしれません。
音楽なんだから理屈は抜きにして楽しめばよいと思う一方で、聴き手の一人としては想像力と感性を働かせ、作り手が音楽に込めたメッセージや表現しているものをいつも自分なりに感じ取りたいと思っています。

■JULIEN LOURAU / FIRE & FORGET (Label Bleu LBLC 6670)
ERIC LOHRER (el-g)
BOJAN ZULFIKARPASIC (Fender Rhodes, CX 3)
VINCENT ARTAUD (b)
DANIEL GARCIA-BRUNO (ds)
JULIEN LOURAU (ts, ss, Fender Rhodes on 2)
Vocals / JOHN GREAVES (2, 3)
MALIK MEZZADRI (2, 9, 10)
ALLONYMOUS (4)
MINA AGOSSI (6)
SEBASTIEN QUEZADA (8, 9)
録音:2004年6月、10月、STUDIO 440 (MONTREUIL)
リリース:2005年
入手先:タワーレコード金沢店