前回のブログ では、2023年8月14日のNHKスペシャル枠の戦争ドラマ「アナウンサーたちの戦争」を観て、福島原発事故当時のNHKの報道を思い出した件を細かく書いた。


(改めて少し紹介しますが、『原発の中は600℃になってる』と発言した学者は二度と呼ばれなかった事や、

当時NHKアナウンサーだった方が退職後に書いた本を引用して『大丈夫です』としか言わない御用学者ばかり出演させてた事を書いてます)


今回は「アナウンサーたちの戦争」という(事実を基にした)ドラマの感想を書きます。ネタバレあります。


※敬称は略させていただきます


ドラマは90分間と長かったが、普段ドラマも映画も観ない私ですらあっという間に終わった感じがした。それぐらい内容が濃く興味深かった。


一話完結とはいえ90分間のドラマは長い方だが、太平洋戦争の開戦直前から終戦直後まで4年以上を描くには短すぎた。


しかし視聴者が太平洋戦争の開戦から敗戦までの流れを大まかにでも掴むには、また本題である「NHKが軍の統制下で太平洋戦争を積極的に宣伝し国民を煽り、外地(今の東南アジア諸国)を日本化しようとしてきた過去」を大まかにでも掴むには90分間に詰め込んでちょうどよかったかもしれない。


しかし、私には短すぎた。

特に学徒動員以降の展開は早すぎた。


神宮外苑競技場(今の新国立競技場)での行進が終わったと思ったらいきなり館野守男(アナウンサー。演・高良健吾)がインパール作戦に同行している。


館野が戦場の現実を目の当たりにしてアナウンスで人々を扇動してきた事を現地で後悔したかと思えば、次の瞬間はもう日本に帰っている。


かと思えばマニラ支局に配属された米良忠麿(アナウンサー。演・安田顕)が日本に残した妻に手紙を書くシーンになっている。


12月だと思ったらもう2月になっている。


マニラ市街戦があって米良達マニラ残留組も脱出しようとしているシーンに飛んでいて、追いつくのが大変だった。


その次は東京大空襲の直後。かと思えば8月15日、玉音放送の直前に飛んでいる。


本当にあっという間だった。


各エピソードに90分あってもいい、いや少なくとも各エピソードに60分は欲しい。


また、作中では和田信賢(森田剛)、館野守男(高良健吾)、そして和田の妻となる実枝子(橋本愛。語りも兼任)の3人のアナウンサーを中心に描いた。


しかし脇を固めるアナウンサー達も興味深い。

でも90分ドラマだからあまり各人の人となりや人生を掘り下げることができていなかった。


上述の米良忠麿マニラ支局のナンバー2になったが、フィルムを空輸する飛行機に妻子への手紙を運んでもらっていたため検閲を受けずに済んだ公式サイト 


より)。


貴重な一次史料も残っているのだし米良がマニラに赴任してから現地で死ぬまでどんな事して何を思っていたのか、史実に忠実にドラマ化してくれたら是非観たい。


チャーリー吉井という人物は英語アナウンサーであり、敵国のラジオ放送を傍受する任務に携わっていた。日系アメリカ人2世で戦前、NHKが国際放送を開始するので就職したという。


出番が少なかったが、この人の人生にもすごいドラマがありそうだ。

英語アナウンサーといえば朝ドラのカムカムエヴリバディに出てきた平川唯一も戦時中は英語アナウンサーだった。

玉音放送の英訳をアナウンスした人物である。


ドラマでは反乱軍が(日本語の)玉音放送の阻止を試みて館野や和田が彼らと対決するシーンがあるが、英語版玉音放送の放送までも色々なドラマがあったことだろう。


志村正順というアナウンサーは神宮外苑競技場で行われた学徒動員の壮行会の実況中継を担当した。

本来は和田の担当だったが直前に体調不良となったため急遽志村が担当した。

この人も出番が少なかったがドラマがありそうだ。


川添照夫というアナウンサーは開戦後も「アメリカへの憎悪を煽るような放送は良くない」と局内のみんなの前で発言した


公式サイトには「苦言を呈し続けた」とあるのでずっと言い続けていたようだが、戦時中にすらこんな勇気ある人がいたことに感動した。


しかし1945年3月に戦死。

戦争を煽るアナウンスを続けた和田、館野が徴兵されることはなかったが(館野がインパール作戦に同行したのは放送局開設のためである)、この人は徴兵されてしまった。


しかしドラマでは徴兵と戦死のくだりは全く描かれず、登場も開戦直後にとどまった。残念でならない。


作中の実枝子は当初から戦争に懐疑的で、人が死んでいく現実を考えて世間の熱狂ムードに乗れないでいた。


しかしなぜか和田と結婚する。

史実どおりに描いたのだけど、戦争を肯定してアナウンスで人々を煽る和田より川添の方が気が合ったんじゃないか?


個人の恋愛や結婚を掘り下げると番組のテーマとそれるからできなかったんだろうけど、もし実枝子の日記や回顧録があるならその通りに恋愛や結婚の過程を描いて欲しい。次にドラマ化があるなら。


実枝子が「なぜ(和田を)好きなのか分からない」と言ったら

同期の赤沼ツヤから「好きな理由が分からないって事は、本当に好きなんでしょ」と言われた。

本当にそういうやり取りがあったのかも気になる。


ツヤから「結婚しても子ども産んでも仕事を続ければいい」と言われたが、実枝子は結婚後退職する。


ドラマではなぜ退職したのか描かれなかったが、次にドラマ化があるなら退職に至るまでの過程も丁寧に描いて欲しい。


和田実枝子もアナウンサーとして興味深い人物だ。

戦後、NHKに再就職して1988年までアナウンサーを続けた。女性アナウンサーのパイオニアである。


まさにアナウンサーとして昭和を生き切った。昭和という激動の時代が、女性アナウンサーのパイオニアとしてどう見えたのか気になる。


和田信賢は東京オリンピック(返上)のアナウンスができなくなり仕事への情熱を失っていた(今で言うバーンアウト?抜け殻?)ところに太平洋戦争が開戦する。


戦後、ヘルシンキ五輪の実況中継の担当後にヘルシンキで死亡する(これは描かれなかった)。


戦前から戦後を生きたオリンピック好きの報道人、というのは2019年大河ドラマの「いだてん」の主人公の一人、田畑政治と共通する。

もし次にドラマ化があるとしたらオリンピック実況中継に懸ける情熱も観てみたい。


。。。とまあ、こんなふうに興味深いアナウンサーが多い。

そんなアナウンサー一人一人の半生と、開戦から終戦までの価値観の変遷を史実に忠実に、より丁寧に描いてくれるなら是非連続ドラマ化して欲しい。


朝ドラか大河ドラマ化も歓迎したい。

しかし連続ドラマ化されることで脚色されたり、史実にないことが描かれるなら連続ドラマ化はしないで欲しい。


NHKがこの題材を脚色すること、ましてや史実にない内容にするのは許されないはずだ


ドラマだから少しは脚色も必要だろう。

実際、このドラマにどれだけ脚色やフィクションのエピソードがあるか知らない。

でも脚色は必要最低限に留めるべきだ。

「NHKが自身の黒歴史を薄めてドラマ化した。実際にはもっとひどい」という批判を避けるためにも。


最近は太平洋戦争のドラマもあまりやらないみたいだ。

多分、今年8月の民放で戦後ドラマは全くやってない。


そんな中、このドラマがあってよかった。

有名俳優が多数出ているので、今後新しく彼らのファンになった人々の間にも広まっていきそうだから。


90分が短すぎるぐらい内容が濃かったです。