リンパ腫とは、免疫細胞であるリンパ球の悪性腫瘍(ガン)です。
化学薬品(工業地域、塗料、除草剤など)がリンパ腫のリスクが高めるとも言われていますが、はっきりとした原因は不明で中高齢の全犬種に発生する可能性があります。
リンパ腫は血液細胞の腫瘍であるため、外科手術で完治させる事は出来ません。しかし化学療法(抗がん剤治療)によく反応してくれることが多い腫瘍です。
残念ながら、現時点では完治する事はほとんどありませんが、QOL(生活の質)の回復を維持しつつ、生存期間の延長が望めます。少数ながら2年以上生存することもあり、積極的な治療が勧められています。
その他の治療法として放射線療法、免疫療法、遺伝子治療が研究されています。一言で化学療法といっても、様々な薬剤と、その組み合わせ、また使用間隔や期間が研究されています。
~症状は?~
免疫細胞のガンであるため、身体中の様々な場所に腫瘍塊が発生し、それに伴って食欲、元気減退などの全身症状がみられ、貧血、敗血症、多臓器不全等で命を奪われてしまいます。
~予後因子~
リンパ腫といっても、様々なタイプに分類されます。またタイプにより抗がん剤の反応、生存期間などが大きく変わります。
①発生部位
発生する身体の部位によって、様々なタイプに分けられます。
犬で最も多くみられるタイプである多中心型は抗がん剤に反応する事が多く、消化器型や皮膚型の方が予後が悪いといわれています。
・多中心型リンパ腫(体表リンパ節)
・消化器型
・皮膚型
・縦隔型
・節外型(腎臓、鼻腔内、眼内、心臓など)
②臨床ステージ分類(WHO)
ステージⅠ | 単一のリンパ節または臓器のリンパ組織に限局した浸潤 |
ステージⅡ | 複数のリンパ節への浸潤 |
ステージⅢ | 全身のリンパ節への浸潤 |
ステージⅣ | 肝臓や脾臓への浸潤 |
ステージⅤ | 血液や骨髄、あるいはその他の臓器への浸潤 |
サブステージa(全身症状なし)、b(全身症状あり)
診断は触診だけでなく、血液検査やレントゲン検査、超音波検査で体内のリンパ節やその他の臓器、また血液中への腫瘍の浸潤の有無を判断します。
※ステージⅤは予後が悪い場合が多い
※サブステージbはaに比べて予後が悪い
③免疫表現型
リンパ球には元々いくつかの種類があり、それらの違いにより腫瘍のタイプを分類しています。そのため採取した腫瘍細胞を用い、遺伝子診断(クローナリティー解析)を実施します。
・B細胞性
・T細胞性
・Non-B,Non-T性
※B細胞性の方が抗がん剤の反応が良く、生存期間が長い。
※猫では免疫表現型が犬ほど予後と相関しない。
④細胞形態(組織学的グレード)
顕微鏡で観察される腫瘍細胞の特徴で分類されます。当院では専門機関の病理診断医に判定してもらいます。
簡単にいえば、細胞の大きさが小型なものはlow grade、中型はintermediate grade、大型はhigh gradeに大別されます。
※一般的にlow gradeの方が予後がよいとされるが、報告はまちまちであり、免疫表現型の方が信頼性が高い。
⑤ウイルス感染
猫では、猫白血病ウイルス(FeLV)感染で62倍、猫免疫不全ウイルス(FIV)感染で6倍、両方の感染で72倍、リンパ腫の発症率が高まるとの報告があります。
またFeLV感染では抗がん剤の反応が悪い事が多いようです。
このように一概にリンパ腫といっても、発生場所やステージ、細胞形態や免疫表現型など様々な因子により、抗がん剤の反応や生存期間などが異なります。
出来る限り早期に発見する事は大前提ですが、より正確な診断を下し治療を開始する事が大切です。
しかし抗がん剤には様々な種類のものがあります。そして反応がよかった薬でも耐性が出来て徐々に効かなくなっていきます。またある程度の副作用も免れません。
さらに抗がん剤治療では治療にはある程度高額な費用がかかります。
それらをふまえた上で、病気になった犬や猫たちそして飼主様にとって何が最善の治療法であるか、飼主様と動物病院とが十分に話し合っていく必要があります。