「健ちゃん、お願いだからもう夜比治山に行くのをやめて」
由紀子は涙ながらに健太にこう訴えた。
「分かっている。ぼくが夜比治山に行きそうになったら止めてくれ。ぼくが言う事を聞かなくなったら、なぐってもいいから」
健太も必至だ。
ため息をついて、
「とりつかれた」
由紀子の顔を見てこう言うのである。
「夜私の家に遊びに来ていたらいい」
「そうする」
幼稚園から一緒だった健太と由紀子はいつも一緒だったのだ。
だが、夜になると健太は人が変わったようになり、
「どいてくれ、ぼくは行かないといけない」
こう言って由紀子を押しのけて比治山に向かって行った。
由紀子も後を追う。
健太の行先は分かっている。
由紀子が比治山につくと、そこには広島市立袋町国民学校六年生の中川恵子の霊が待っていた。
「健ちゃん、会いたかった。やっぱり来てくれたんじゃね」
恵子の霊は、はしゃいでいる。