6/11付 日本経済新聞に「上場企業の担当監査法人、準大手・中小のシェア上昇」との記事が掲載されていました。
大手監査法人(新日本、トーマツ、あずさ)3社の監査報酬の値上げが厳しく、顧客企業が準大手(あらたなど)や中小の監査法人へ切り替えの動きが出ているというのです。
大手3法人を含む監査法人間のシェアは、
新日本: 27.3%(▲1.1ポイント)
トーマツ: 24.9%(▲0.4ポイント)
あずさ: 20.4%(▲0.4ポイント)
準大手・中小: 27.4%(+1.9ポイント)
というように変化したようです。
日経新聞が、3月期決算企業の会計監査人の変更案を集計した結果、変更を発表した企業数は226件にものぼっているそうです。
変更理由で多いのが、
「監査費用の増加」
だといいます。
記事で、例に挙げられているのが、川口金属工業(6/6にリリース)。
■川口金属工業 会計監査人の異動に関するお知らせ
http://www.kawakinkk.co.jp/corp/pdf/2008_kaiji08.pdf
まぁ、ひとつ、読んでみてください。
新日本監査法人から提示された監査日数が、240日から820日へ増加(実に3.4倍)
(240日だの、820日だのって、1年365日を超えているじゃないかってツッコミはなしね 人工(人日)換算ですよ、もちろん。)
これに伴い、監査報酬のほうも、24百万円が82百万円(@10万円) と、ちょうど3.4倍に。
同社は、リリースのなかで「当社と新日本監査法人との交渉過程において、新日本監査法人は実質的には当社との監査契約継続の意向がないものと当社は判断」した結果、新日本監査法人から東陽監査法人に乗り換えました、という経緯を明らかにしています。
なかなか、ここまで書いちゃうリリースも見たことないです
川口金属工業にしてみれば、よほど腹に据えかねていたとみえます・・・。
(監査法人にはちょっとかわいそうですが、クライアントとの守秘義務がありますので、なかなか反論できないのでしょう。)
確かに今期の監査は、内部統制報告に伴う監査や四半期報告に伴う監査が新規で必要になります(その分、半期報告書の監査がなくなって、四半期の監査が3回、というイメージです)。
やっぱり、正味の監査日数では大幅プラス、というのはやむを得ないところでしょう。
しかし、それにしても、値上げ幅が3倍以上とは
みなさん、他人事だから平気な顔しているでしょうけれど、自分の会社がそのような大幅値上げを迫られているとしたら、どう思います
あるいは、自分が投資して現在株主である企業が、監査報酬の値上がりを理由に下方修正したら・・・
一発で何千万円か違う話ですから、新興企業を中心に利益の規模があまり大きくない企業だと、ホントに下方修正理由に該当しかねない額ですよ・・・。
川口金属工業は早めに金額提示を受けていたようですけれど、監査法人によっては、人のアサインがなかなかできなくて、有報の監査が終わってようやく1Q以降の監査予定が立てられるようになり、ここにきて監査報酬の提示をしてきているところも多いと思います。
個人投資家のみなさん、自宅に送られてきた招集通知をよく見てくださいね。会計監査人に支払う報酬の額が書いてありますから。
今期の監査報酬はその2倍以上はかかると思っていたほうがいいですよ。
そして、連結P/Lの営業利益などと見比べて、監査報酬の値上りを吸収できるかどうか、よく判断してください。
ヤバイかも・・・、と思ったら、いったんはずすのも手かもしれませんよ。
監査報酬の請求方法は各社まちまちかもしれませんが、基本的には月ごとに期間配分するとすれば、期が進むに連れて、じわじわ利益を圧迫することになりますので。
私なぞ、へたに企業内にいる同業なもんですから、監査報酬が軒並み値上りして、監査法人が潤い、また今年も公認会計士試験で大量合格が続いてくれるのであれば、それはそれで業界のプレゼンスが高まることになるので、望ましいことではあるなぁと思う反面、当然のように、ウチの会社にも値上げ要請が来るわけですから、
いや、それはちょっとご勘弁を・・・
と言いたいのはやまやまなんですが。
うーむ、悩ましいです・・・・・。
と同時に、問題なのは、中小の監査法人にくら替えした会社は、会計の質や監査の質が劣っているとみなさんは思うでしょう
決してそんなことはないですよ。
最近じゃ、中小の監査法人も金融庁から厳しくチェックされていると思いますし、監査結果の法人内の審査も、監査部門から独立した人たちがやっているはずですしね。
基本的には、現場に出ている会計士1人1人のやる気と人柄とセンスの問題じゃないでしょうかね。
中小の監査法人は、大手ほど体力がないし、ブランド力もないので、おそらく2007年の大量合格といっても、十分に人が採用できていないはず・・・。
したがって、くら替えしたいんだけど、という顧客企業がいたとして、まずはそのクライアントをゲットして売上を少しでも増やしておかないと、今年の合格者の採用原資が作れないというのが実際の問題じゃないでしょうか。
それまでは、移ってきたクライアントの監査は、現有人員でやるしかない。
問題といえば、そうした、いっぱいいっぱいの中で行われるであろう監査の質がどうか?ということなのかもしれません。
(かといって、大手監査法人の会計士さんたちが、のんびりゆったりやっているかというと、全然そんなことはなく、へたすると4月や5月の間は、1日も休めませんでした、なんてことが珍しくないと思います。まぁ、どっちもどっちだと。)
とするなら、クライアント企業からすれば、中小監査法人だからといって、監査の品質は金融庁のチェックを満たす水準である=資本市場で必要とされる最低限は確保されているはず、と考えると、あとは監査報酬が安いほうがいいに決まってる、ということになりますわな。
かくして、もうしばらくは、監査報酬の値上げに伴う監査法人の異動が続くのではないかと予想されます。
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