株主優待引当金の計上企業が増加 | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

6/10付 日本経済新聞に、「株主優待引当金計上企業が増加、企業間で処理に差、ルール設定の必要も」という記事が掲載されていました。


株主優待制度の実施企業は1,100社を超え、上場企業の1/4にまで達しているとしています。


野村インベスター・リレーションズ(IR)の「知って得する株主優待2008年版」では1,056社、昨年11月に発刊した大和IRの「株主優待ガイド2008年版」では1,081社、上場企業の27.1%が導入としています。

これらから更に増加しているんですねぇ。


■野村IR 知って得する株主優待2008年版

 http://www.net-ir.ne.jp/shittoku/magazine2008.html


■大和IR 株主優待ガイド2008年版を発刊

 http://www.daiwair.co.jp/pdf/pr071127.pdf



日経の調べでは、2007/3期~2008/2期において、貸借対照表(B/S)に株主優待引当金を計上した企業は18社となり、1年間で11社増加したとしています。


こうした株主優待引当金は企業の会計処理に委ねられており、統一的なルールがないのが現状です。


一方で、株主優待をポイントで付与したりしている場合には、ポイント引当金の会計処理を導入している企業もあるようです。


■企業のポイント発行は負債計上が国際的な流れに

 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10041064832.html


株主優待の会計処理は、おおむね次のような会計処理をしているケースが多いとされます。


(1) 利用時に売上高から控除

(2) 利用時に販売費及び一般管理費として費用計上


(1)の場合は、通常の値引販売と同様に考えているものと思われます。一方、(2)の場合は、株主に対する交際費ととらえるのか、広告費ないし販促費としてとらえるのか、いろいろ考え方はあるかもしれませんが、まぁ販管費(費用)と考えるという意味では(1)とは異なる考え方をとるわけです。


これに対して、株主優待引当金として会計処理する、ということは、


(3) 優待券発行時(株主に対して株主優待を付与した段階で)当期の費用としておき、株主が優待を利用した段階で引当金を充当することで売上のマイナスまたはその時点での費用計上を穴埋めする、ということになります。


考え方としては、記事でも紹介されていましたが、企業会計原則注解【注18】の引当金の4要件を満たすのであれば、引当金として計上するべきであるということを根拠にしていると思われます。

(記事では3つしか要件を挙げていませんでしたけど・・・。どんな誤りが含まれているか述べよ、なんちってあせる


① 将来の特定の費用または損失であって、

② その原因が当期以前の事象に起因し、

③ 発生の可能性が高く、

④ その金額を合理的に見積もることができる場合


には、引当金を計上することになります。


ただ、一概に、会計的に株主優待も引当金計上すべし、ということになるかというと、私はそうでもないように思います。


例えば、設定時期の問題。


ふつう、株主優待が株主に付与されるのは、株主総会が終了した後というケースがほとんどだと思います。

ということは、3月決算会社だと6月末頃。

その時期、もうすでに会計期間としては翌年度に入ってしまっているんですよね。


現実問題として、終わった期の決算(ex.2008/3期)に織り込めないか、というと、4月中旬くらいには信託銀行から株主名簿の速報版が届きますから、総株主数何人、所有株数別に優待にランクをつけていたとしても、株数別に何人、というような内容がわかるといえばわかります。


しかし、決算発表が早い会社さんですと、10何日~20何日には発表してしまいますから、株主優待を終わった期の決算に取り込まなければならないということにすると、ちょっと厳しい、というのが現実的なところだろうと思います。


また、有効期限の設定の問題で、6月末に発行したとしても、その優待券などの有効期限が9月末決算に関して優待を付与する12月末まで、などとしているケースも多々あります。

その場合には、6月末付与の優待は当年度中に使用されるか、期限切れとなってしまうため、引当計上するほどの意味があるか、というとそんなでもない、ということになろうかと思います。


せいぜい、9月末決算→12月付与の分が来6月末まで有効期限があったとすると、3ヶ月ずれるとかそういう話です。もちろん、四半期決算で考えていくと、多少、事情は異なってきますけど・・・。


あとは、金額の大小はあるかもしれません。それほど大きな金額でなければ、わざわざ引当計上するという方向を選択しないこともありえますね。

しかし、金額の大小は、会計理論的な、というか、保守的な考え方で迫られると、弱いかもしれません。


それから、実務面。


確かに、飲食業で○千円分のお食事券といった優待券の場合、最大で発行券面総額分使われる可能性があるわけですから、その額を引当計上するのがよい、という考え方に抗しきれない面もあるかもしれませんが、自社製品の○%割引などという場合には、最大金額が分からないので合理的な見積りができない面もあります。


それでも、過去のデータにより実勢としての割引相当額を引当計上することが妥当である、という考えもできます。


それらに対して、実務的には、使用時に売上高控除という会計処理は、圧倒的に簡便で、多くの従業員がレジ処理に関わるような場合には、メリットがあると考えられます。

勉強でよくでてくる「実務上の便宜」ってやつですな。


などなど、理由をいろいろ挙げましたが、会計基準で強制でもされない限り、引当計上するつもりはないよ、という会社さんも多いのではないでしょうか。

初年度は費用負担がかさみますしね。



新聞では、引当計上が増加した契機となったのは、会社法で規定が設けられたからとしていました。


これは、改めて調べてみると、こういう規定があるんですね・・・。


<会社計算規則>


(負債の評価)第6条

負債については、この省令または法以外の法令に別段の定めがある場合を除き、会計帳簿に債務額を付さなければならない。

2  次に掲げる負債については、事業年度の末日においてその時の時価又は適正な価格を付すことができる。

一  次に掲げるもののほか将来の費用または損失(収益の控除を含む。以下この号において同じ。)の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該事業年度の負担に属する金額を費用または損失として繰り入れることにより計上すべき引当金(株主に対して役務を提供する場合において計上すべき引当金を含む。


(以下、略)


となってまして、企業会計のほうで何も言っていないものを、なぜ会社計算規則でここまで言うのか理解に苦しみますが・・・。


株主優待に関する会計処理も、徐々に一定の処理に収斂していくんでしょう。



ともあれ、以前にも書きましたが、私は優待分の金額を配当に回せ、と株主さんの多くが主張するのであれば、それもまたありと考えていますので、単にクオカードや図書カードを振舞うタイプのおカネばらまき型優待には反対です。


■株主優待の効果

 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10087324923.html



自社製品の割引や自社製品のプレゼントのような、その会社に愛着があったりファンだったりする株主が楽しみにするような優待なら、いいんじゃないかなぁと思います。そういう品物であれば、個人株主さんと機関投資家さんとの間で利害の対立はあまり起きないと思いますし。




例えば、2008/3期のタカラトミーの株主優待


100株~1,000株未満: トミカヒーロー、ヤッターマンデザインのオリジナルトミカセット

1,000株以上: トミカヒーロー、スピードレーサーデザインのオリジナルトミカ 各1台と

 ヤッターマン2号(アイちゃん)デザインのオリジナルリカちゃん


こりゃ、すごい!!

銀座・博品館のリカちゃんショップに行ったって、こんなの売っていないんじゃはてなマーク


リカちゃんワールドツアーシリーズかなと思いきや、これは嬉しい誤算です。


(え、何でそんなに詳しいかってはてなマーク 

 いや、子供の分ですってばあせる )




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