とりあえず、ビール | I Pray For...

I Pray For...

ショートショートやナチュラルストーンのハンドメイドアクセサリーなど、
何かを書いたり作ったり。羽生結弦選手について勝手に語ったり。
好きな音楽や芝居のことなども時折熱く語ります?

いわれてみればなるほど、本当にひどい顔だ。


「おまえ、笑っちゃう位ひどい顔だぞ、とりあえず顔洗ってこいよ」

の声に慌てて覗き込んだ鏡の向こうには、マスカラは涙で落ちて目の下は
真っ黒で、ファンデーションも流れ、崩れきっている。


エキサイトしていたケンカの続きも忘れ、慌てて洗面所に飛び込み、
あぁ、ウオータープルーフは水には強くても女の涙には弱いらしいわね、
なんて訳のわからないことを一人ブツブツとつぶやきながら
何度も何度も顔をゴシゴシ洗った。


初めての大喧嘩だった。そもそもの原因は何だったっけ?確か、すごく
ささいなことだったはず。なのにこんなに泣いて叫んで罵り合ったのは、
今まで押さえてきたお互いの感情が爆発してしまったんだろう。


スッピンの顔が鏡に映る。頬も目も人の顔はこんなに赤くなるのかと
ほれぼれしそうな鮮やかな赤。そして、パンパンに腫れた顔。

まるであんぱんマンみたいな自分の顔を見ていると、なさけないかな、
自分で自分を笑ってしまう。あぁ、もう、なんだか力ぬけちゃった。


「ふぅ、泣いて叫んで怒ったら喉渇いたよぉ。」

同じく妙に力のぬけた感じのアイツの背中に向かって話し掛ける。


「おいおい、そうくるかぁ?」

振り向いたアイツは、のろのろと立ち上がり冷蔵庫へと手を伸ばした。


「まったく、おまえらしいことで。それっ」

ポーンと投げられた缶はすっぽりと私の手に納まる。
缶を頬にあててみた。キーンと冷たくて、すごく気持ち良い。


「シュプッ!」

缶を開けるとビールの泡が勢いよく溢れ出した。
慌てて缶からこぼれそうな泡をすすり、ぐいっとビールを喉に流し込んだ。


「あぁ、おいしい~」

からからに乾いた喉にビールの炭酸の刺激がたまらない。
ひんやりとしたビールが体の中の熱を冷ましてくれる。

もうさっきのケンカなんてどうでもいいからとりあえず、ビールだ。


「ほんと、うまそうに飲むやつだね、俺も飲むかなぁ」

アイツはもう一度立ち上がって、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。


「パシュッ!」

なぜか腰に手を当てて「牛乳一気スタイル」で飲む癖があるようだ。
その姿がなんともおかしくて思わず吹き出してしまった。


「なんだよ、こうやって飲むとなぁ、うまいんだぞぉ」

あぁ、だめだめ、笑いは止まらない。今度はアイツも顔が真っ赤に
なっている。そして、あきらめたように笑いはじめた。


「さっきまであんなに泣いてたくせにまったく変な女だなぁ」
「さっきまであんなに怒ってたくせにまったく変な男だねぇ」


お互い同時にくすくすと笑い出す。どうやら私たちは「雨降って地固まる」
ではなく「ビール飲んで地固める」仲らしい。