山科から京の都を目指す旅人が、最後に向かえる難所が日ノ岡峠である。
とは言え、それほど急な勾配ではない。‭無理さえしなければ、労せず上りきれる。
さすがに牛馬車の通行は厳しく、その為に車石が敷かれてあった。
峠の山科側には大きな地蔵堂がある。後白河天皇の勅命により、
京洛に出入りする主要街道に安置されたうちの一つである。
地蔵は全部で六つ、これを指して六地蔵と呼ぶ。
安置、と書いたのには理由がある。京は帝がおわす土地であり、
それゆえに標的になりやすい。
現に今、長州藩の暴発組が狙っている。
が、怖いのは武力による攻撃ではない。真に怖いのは霊的攻撃。
だからこそ据えられた地蔵であった。

その地蔵がいきなり足蹴にされた。
目撃した人々は心底から驚いた。
元亀二年、織田信長によって滅ぼされた筈の群れであったからだ。
地蔵堂を取り巻く数、およそ五十。
黒の法衣を太い石帯で結び、白の袴に黒い脛当てを履き、腹部を覆う鎧、足元は高下駄。
腰には太刀、手には薙刀を持つ。白い五条袈裟で覆った顔から、目だけが覗いている。
その瞳は墨で塗りつぶしたように真っ黒であった。
群れは、地蔵堂を一薙ぎに打ち倒すと峠に向かった。
と、立ちはだかる影がある。


「こりゃ珍しいもんを見た。比叡山の僧兵ですな。いや、違うか。恐ろしげな化け物どもかな」
ぶらぶらと徳利を提げ、殊更呑気に話しかけたのは油すましであった。
全ての僧兵が一斉に顔を上げ、光の消えた瞳で睨みつけてくる。

初めて来られた方に簡単な御説明を。
当ブログは、いわゆる読み物系のブログであります。
つくね乱蔵という熊親父が書いたお話がメインです。
申し訳ありませんが、auone blogから引っ越してきたばかりで、
カテゴリーの整理がなかなか進んでいません。

ショートストーリー、怖い話、バカ話、猫の話、犬の話。
長い話、当ブログで一番人気の『先生』という猫の話。
柳生十兵衛・竹とんぼという話は、先生シリーズの『風の侍』を
先に読んでくだされ。
現在進行中の『約束の時』は竹とんぼの続きです。
『山崎』は作者の憧れの人でもあります。
そうそう、『つくね亭の熊』と『都伝隊』もよろしく。

では、どうぞごゆっくりお楽しみください。
気に入られましたら過去記事でもかまいませんから、
コメントをくださると嬉しいです。
このの一番の好物は皆さんからのコメントですから。

とは言うものの、現在は記事アップがメインで
コメントをなかなか返せない状態が続いております。
これもまた、誠に申し訳ない
しかも公的な執筆活動が忙しく、こちらにはあまり書けてません。
今のところ予定しているのは『約束の時』『イランカラプテ』
『ボキンちゃんシリーズ』『山崎シリーズ』『都伝隊シリーズ』
でございまして~
ああ、時間と体が欲しい。

哲司は待合室のソファーに座り、ぼんやりと外を眺めた。
枯葉の海をかき分けて子ども達が遊んでいる。
孫と同じ年頃だな、あと二年もすればランドセルだろう。
だが俺は―


先ほど聞いたばかりの医者の言葉が頭に蘇り、哲司は膝を叩いた。

「何もしなければ、あと二年。でもね、中井さん。今、癌は治せる病気です。どうか私達にお任せください」
ご家族の協力も必要ですと言われたが、既に妻は他界している。
嫁いでいった娘は正月に顔を見せるが、松の内に帰ってしまう。
哲司を待つものと言えば、十年前から飼っているクサガメの伝次郎だけだ。


「ああそうか。いかん。いかんな、これは」
伝次郎の存在に気付いた瞬間、哲司の顔が曇った。
亀は長生きだ。伝次郎は今、十歳。おそらく後五年は余裕で生きる。
己よりも亀の行く末を憂慮し、哲司の思いは堂々巡りから抜け出せずにいた。


哲司のもとに来た時、伝次郎は僅か7gしかなかった。
水カビ病を患っており、娘よりも手が掛かったものだ。
掌の上で、もぞもぞと動いていた伝次郎は、今や両手に収まらない。
亀は賢い。
齢十年を経た亀ならば尚更である。
伝次郎は、重い足取りで帰宅した哲司に向かい、どうかしたのかと首を傾げた。


「伝次郎。必ず治して帰ってくるから、少しの間待っててくれるか」
差し出した指に甘えるように、伝次郎は頭を摺り寄せてきた。
亀にとって必要なのは餌だけではない。

掃除や日光浴など、細やかな世話が必須である。

哲司は慣れぬ手で携帯を取り出すと、娘に電話をかけた。


「もしもし、父さん?どうしたの今頃」

久しぶりに聞く娘の声は、相変わらず朗らかだ。
背後から孫の声も聞こえてくる。この家は、いつも明るい。
ここなら、伝次郎を大事にしてくれるに違いない。
随分と心が軽くなり、哲司はまるで世間話のように自らの状況を語りだした。


「てなわけでな。父さん、癌であと二年と言われた。はっはっは、遺産はないが借金も無い。でな、すまんが亀を預かってくれんか」

返事がない。

「朝美? どした」
受話器の向こうから、子ども達の心配そうな声が聞こえてきた。

「お母さん、どうしたの泣いてるの?」

入院の朝、哲司は伝次郎の甲羅を丁寧に磨き、頭を一つ撫でると朝美に渡した。
「いいか、食欲が落ちたら魚肉ソーセージをあげてくれ」

手の中でじたばたと藻掻く伝次郎を持て余しながら、朝美は無理矢理微笑んだ。

「安心しろ、父さん、お前に嘘ついたことないだろ?必ず治して帰ってくるから」


それが最初で最後の嘘であった。


浅めに張った水面から、のっそりと首だけを出して伝次郎は餌を待った。
クサガメ特有の黒い甲羅は水に濡れ、その色を増している。
大好きな魚肉ソーセージが来ない。
そして何よりも大好きな哲治の指が降りて来ない。
伝次郎はしばらく待ち続け、暗くなってからようやく諦めた。


そのまま首も手足も甲羅に引っ込め、二度と出すことはなかった。

今日の記事で最後ですな。

いろんなことがありましたが、俺に文章を書く切っ掛けをくれたauoneに感謝。

いつも来てくださった皆様に感謝。

ここの記事はlivedoorに移行します。
そちらで続きを書いていきます。


本当にありがとう。

じゃあまた
今日、久しぶりに皆さんからいただいたコメを読み返していたのですが、お名前が黒字になっている方が沢山おられました。随分沢山の方がブログを閉鎖されたのですね。


乱蔵一筆啓上はこの先もずっと続けますよ、ええ。

俺はlivedoorにしようかと思います。

『乱蔵一筆啓上』として小説はそちらにあげ、日常編は現行通り『乱蔵一筆啓上・日常編』としてアメブロで。

一旦、livedoorに移動してからアメブロにまとめようかとも思いましたが、やはり小説と日常は分けた方が読みやすいなと結論。


終わっちまうものはクドクド悩んで惜しんでも仕方ありませんからね、新しい場所で頑張りましょうぜ。