これまでに実際に使ってみた感じでの効果を書いてみたい。
1) 弓に均一の圧力が掛かりやすい
このバンドの一番大きな効果は、既に説明した通りで弓先へ行った時に自然と小指が伸びた状態になると、ゴムの力で人差し指を支点として圧力が自然と掛かるので無理せず弓先まで均一の力が掛かる点だろう。
一言で言えば「音が抜けない」と言う事だ。
実際にやってみるとハッキリ分かるが、身体に近い反面太い為、しっかり鳴らすのが難しいC線などは音量が全く変わるし、A線も自然と弓が吸い付く為、弓先まで倍音の多い良く響く音になる。
これは師匠にバンドを使ってる時と使ってない時で違いを聴いて貰って「全然違う!」と言われたので間違いないし自分自身もそう言う風に聴こえるが、何より長い弓を使うのが非常に楽になった。
普通は人差し指と親指だけでこれをやらないといけないが、これをそれ程意識せずに無理なく出来るのは大きい。
ドン・キホーテの映像でもクヴァントが小指をガッツリ伸ばしてゴムが伸びてるのが良く分かるが、あの力は全て弓へ伝わってる筈で、元々素晴らしい奏者のクヴァントがベルリン・フィルでソロを弾くには充分過ぎる音量の筈だ。
2) 音量が出る。(良く響く音が出る)
何故倍音が増えるか?と言うのはもうひとつ理由がある。
それは弓をしっかり掴む必要が無い為だ。
人間の身体は振動吸収性がある。
しっかり持つと言う事は弓を持ってる指先だけで無く手や腕にも力が入る事を意味する。
一流の奏者はこの力を極限までコントロールして他の場所へできるだけ力が入らない様にしている為、身体が常時リラックスして、これらが繋がっている時間は一瞬だが、初心者などは腕が棒の様になって力が入ってるので振動を楽器の駒だけで無く自分の身体でも吸収して固い音になってしまう。
よく響く音を出す為にはしっかり押さえつけるよりも速い弓を使った方が良いのは同じ理由だが、それと同様の事がこのバンドでも言える。
バンドへ引っ掛かってると自然とバンドが働いてくれる為、腕にそれ程力を入れなくとも良く、右手がリラックス出来る為、一流奏者がコントロールしているのと同様の働きをしてくれる。
持たなくて良いと言うのは2度めの投稿で説明した通りで、親指と人差し指でしっかり挟む必要が無いので腕にも力が入りにくい。
3)弓の軌道が崩れにくい。
小指が一定以上離れない為、弓を持つフォームも崩れにくい為、無理せずに弓の軌道に注意を払うことも出来る様になる。クヴァントの右手の軌道が美しいのは言うまでもない。
4) 弓元のコントロールが容易になる。
弓を持たなくても良いと言う事はアップの長い音の場合、弓元へppで運ぶ時も小指に弓がぶら下がってるので非常に楽に運べるし、fの場合でも、あまり力が無いって無い為、人差し指と親指の空間が広く、弓元までしっかり弾く事が出来る。
先日のコンサートで、彼が演奏してる時に手の中を望遠鏡で見ると、時々、親指は何処に当たってるの?と言うほど、緩んでる状態があったがppなどでは親指の働きがそれ程重要では無くなるのだろう。
普通は弓元では、逆に小指で弓の重さを支える事になるので初心者は非常に難しいテクニックとなるが、ゴムでぶら下がる形になるので全くその様な力が要らない為、リラックスして弓元がコントロール出来る。
5)刻みや飛ばしで、音が乗りやすい。
ゴムで繋がっていると、刻みや飛ばしが楽になることは想像つくだろうが、それ以上に刻みの時など、1)の効果で僅かに弓が弦に残る(ねばる)為、変に短くならずに音が乗って均一になる効果もある。
良く、モーツァルトなどの刻みで音が短くなりやすいが、普通は長年時間を掛けて培ったテクニックでこれをコントロールするが、自然とそう言う音が出せる様になるし、弓の返しの際にもゴムの弾力は効果的なのは言うまでもない。
6) 移弦が楽になる。
ちょっと考えると小指と繋がっていると移弦がやり難くなると思われるが、これは逆だった。
どうやら、移弦の際に積極的に小指を使うことで、小指を移弦のガイドとする事が出来る様だ。
通常だと、小指には弓が下から当たる力しか働かず、その力の強弱でコントロールするが、指にゴムで弓が繋がっている為、素直に曲げ伸ばしすればそのまま移弦が出来る訳だ。
低い方へ行く場合は、小指を伸ばし、高い方へ行く場合は縮める方向になるのはそれまでと同じだが、通常より簡単に弓が追従してくれる。
7) ピチカートの幅が広がる
ピチカートの持ち替えで弓が落ちないと言うメリットもあるし、親指を離しても落ちない為、積極的に親指やその他の指を使うことが容易になる。
ただ、デメリットも無いことは無い。
レッスンやオケの練習の時に書き込みをしたい場合、いちいち外さないと鉛筆が持てないし、オケのプルトが裏の場合に右手で譜めくりができなくなると言うデメリットもある。
また、気にしなければ気にならないが、平たい形状のバンドだとピチカートとアルコを切り替える際に小指に掛かってるゴムが捩れる場合がある様だ。
最後に最も大きなデメリットは、これを使い出すと、使っている状態が心地良すぎて、無い状態が非常に不安になる事だろう。
ただし、外した時にフォームが綺麗になっている効果があるので、ある程度訓練用と割りきって使っても良いかもしれない。
多分、今からプロフェッショナルになろうとする人や、しっかり練習する時間がある若い人には絶対勧められない小道具だし、もちろん、既に技術が出来上がった人にも不要なものだろう。
バンドはあくまで技術を補完する為の小道具だと思うし、そう言う人達は時間を掛けて自分のテクニックを磨いて貰えば良い。
ただ、僕の様な高齢のレイトスターターは、後何年も弾ける訳ではなく、可能な限り楽に出来るのが良いのは言うまでも無い。
他の人が10年掛けて覚えたテクニックが3日で、それも大してお金を掛けずに出来るのであれば、その分は他に使えるんだから楽な方を選択した方がよいと思っている。
「今は非常識でも後から常識となることもあるよ」と師匠が言われていたが、ガットでは無く金属で弦を作ることも昔は非常識だったろうし、エンドピンやテールピースにしても同様で、クヴァントのこのバンドがあっと言う間にチェロに広まる事だってあるかもしれない。
最後に、簡単な巻き方を見つけたので以下に手順を説明する。
※写真の弓はコントラバスのフレンチ弓だが、チェロも同じ。
1) 弓を左側へ向けて後ろから輪ゴムを掛ける。
2)フロッシュの前を通して後ろへ回す。
3)そのまま、同じ様に後ろへ回す。
ちなみに、コントラバスのフレンチ弓でイタリア式で持つと親指が当たる場所にゴムが来るので、この輪ゴム1本で滑り止めとクッションの役割も果たしてくれると言う一石三鳥くらいの仕事をしてくれる。