「左手の甲の向きがおかしい」「広い形にする時に無駄な動きがある」「左手は丸く」「人差し指が伸びてる」「小指が伸びてる」etc.と、弾いてる時にあれこれ注意を受け、それが二週間に一度チェックされるんだから、これで上手くならなきゃそもそも止めた方が良い(笑)
ビブラートも最初は全く足りなかったのだが、かなり掛かる量が増えて来てそれらしくなって来た。
プロのチェリストなど「そげん掛けんでもよかろーもん」と思うくらい掛ける人も居るが、実際の音を聞くと、そのくらいやって丁度良いくらいで、やはり弦楽器はヴィブラートが上手い下手がそのまま楽器の上手い下手に繋がって聴こえる。
それと同時に気がついたことがあったのが右手の重要性だ。
それがタイトルの「魂は弓先に宿る」だ。
実はこれはTフィルの首席コントラバス奏者のKさんが、公開レッスンで言ってた「魂は右手に宿る」のパクリ(笑)
Kさんには僕も何度かレッスンを受けたが、非常に右手を柔らかく使って弾くタイプ。
本人が言われていたが「右腕に毛筆の刷毛を付けて墨をタップリつけて弾くイメージ」と言われていた。
そう言うイメージでは当然弓は直線的には動かず円運動になるのだが、弓が入る角度を手首や指先で絶妙にコントロールしながらスッと弦に接して太極拳の様な柔らかい動きで味わい深い音を出される。
そのKさんがレッスンの時に「弓先へ行く時に押し付けると音が固くなるので、弓先は圧力で無く、量(スピード)で音を出すようにした方が良い。」と言う様な事を言われていた。
これは特にコントラバスのジャーマン弓に言える事で、ジャーマン弓の場合は弓の構造が手元と弓先がイーブンで無い関係で弓先で圧力が抜けやすい反面、持ち方の関係で弓先で圧力を掛けるのは比較的容易な為、長い音などはつい押し付けて圧力を増やして我慢するが、そうなると音が固くなってしまい良い音が出ない。と言う事だ。
奏法的に言えば、手元付近ではゆっくり弓先に行くに従ってスピードを上げる(量を増やす)と言う事になる。もちろん上げ過ぎはクレッシェンドになるが(笑)、クレッシェンドにならない程度にそのバランスを上手く取りながら音を出すと弓先まで生きた音がすると言う事だ。
トルトリエの「現代チェロ奏法」には弓先から始めてダウンアップの動きに伴い徐々に弓を増やしながら全弓まで広げると言う練習方法があるのだが、こう言う練習は役に立つ。
このジャーマン弓での真ん中より弓先のコントロールが絶妙なのが僕のコントラバスの師匠でもあるY響首席のIさん。
ジャーマン弓でフレンチ弓に近い構造の場所を上手く使うことで、美しいデタッシェを作りバッハの無伴奏などの音作りをされる。
ジャーマン弓を使い弓元で圧力掛けてガーッと弾くのはある意味誰でも出来る事で、比較的簡単な為、アマチュアのジャーマン奏者は殆どが弓元付近ばかりで弾くので、大抵の場合立ち上がりは大きな音だがその後が尻すぼみ(子音がハッキリしない)の音になったり中身の詰まってない音になりやすい。
結局難しいのは弓先で、アマチュアでもそこを注意すれば随分音は良くなる。
実はチェロのレッスンでも先のKさんと同じような事を言われた。
フォーレのシチリアーナのレッスンだったと思うが、ターラ/ターラと言うスラーが掛かってる音で、音符の配分は付点四分音符+八分音符なので頭の音が長いのだが、ダウンでの弓の配分は逆にする様に言われた。
弓先まで使う場合、最初はゆっくり使い、後から量を増やして行かないと弓先へ行くと抜けるので音が小さくなりターラのラが聴こえなくなる。と言う事で、その為に、スラーのフレーズをゆっくり止めながら弾いて弓の配分を考えると言う練習もあった。
この弓の配分を考えて弾くと言うのはレッスンでも良くあり、弓の量(スピード)は非常に重要な要素で、コントラバスのフレンチ弓やチェロ以上の楽器は手元と弓先の高さがイーブンとなっているので両端でそれ程差は無いのだが、持ち方の関係で弓先の圧力が抜けやすい。
まさにジャーマン弓とは全く正反対。
圧力が抜けない様に弓先まで使うのと言うのは重要なテクニックの一つで、その為、弓先では人差し指と親指だけで腕の重みを掛けると言うテクニックも必要となる。
弓の重みが使える様にヘッドが大きな弓も多く、僕もチェロの弓は敢えてペカットタイプ(マサカリ型)のヘッドが大きな弓を選んで手に入れた(安いけど(笑))
プロが弓先まで綺麗に使えるのは最小限の圧力だけで、後はスピードでコントロールしてる為で、力を入れて押し付けてると絶対に全弓は使えない。
そこで最初のビブラートに戻るが、ビブラートが重要なのも実は真ん中より先で、真ん中より先は上から掛かってる重さが少ない分、ビブラートが良く反応する。
軽い物が良く振動するのと同じで、重みが乗ってない分、ビブラートも掛かりやすく、駒を通した楽器そのものへの振動も伝わりやすい。
弓元は楽な反面、腕の重さもガッツリ乗ってるのでビブラートを掛けても実はそれ程楽器(駒)が反応せず、弓先へ行くに連れて徐々に重みが抜けて来てビブラートの効果が出てくる。
ケース・バイ・ケースだが、掛け方でも、演歌の様に最初からガーッと掛けるよりは、最初は正しい音程を鳴らして後から揺らすと言うスタイルがクラシック的であり上品だ。
その時に重要なのが右手であり、弓先で抜けないことに一生懸命になって力が入ると左手のビブラートをつい忘れてしまい、掛からないので良い音にならず、余計に右手で押し付けるので益々ビブラートが掛からずに固い味気ない音になってしまうと言う悪循環となりる。
ビブラートと言うのは右手、それも弓先までちゃんと使える右手があって初めて有効になるので、ビブラートが上手くなりたいと思うなら実は先ず弓先まで使える様になるのが早道と言う事になる。
ビブラートと言うのは音楽の魂とでも言えるが、結局、それが宿るのは弓先と言う訳だ。