
チェロ弾きなら皆、弾きたい(らしい)「鳥の歌」


サポージニコフ編纂、井上頼豊翻訳「チェロ基礎教本」


チェロ基礎教本 R.サポージニコフ 編著/井上 頼豊 校訂・注/全音楽譜出版社

- ¥1,890
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僕は知らなかったが、この「チェロ基礎教本」はレイトスターターもかなり使っている様だ。
既にドッツアーの教則本2巻の中盤まで来てるので「今さら感」があって迷ったが、この値段が安いお得感と、内容のバランス良さに負けた
ドッツアーの場合、難点は左手のテクニック重視で、右手のテクニックが系統立って習得出来ないこと
僕もコントラバスでフレンチを使ってるので右手は割りと自信はあったが、それでも全てのサイズが半分のチェロの場合テクニックの繊細さは倍になる
又、コントラバスとは肘の使い方が決定的に違い、チェロの様に構えてチェロの様に弾いてる人も居るが、僕の場合は完全にイタリアンスタイルなので腕は殆ど真っ直ぐで肘は殆ど使わない。
その為、チェロや他の弦楽器も含めて肘から先の動きを使うことが殆ど無く、ボウイングをやってると肘が動き過ぎて肩が上がってしまう癖があり、必然的に弓が真っ直ぐ動かないので、レッスンではそれを良く指摘されていて今でも気をつけないと肘から先が動いてない
又、移弦や弓の返しは弦も細く、コントラバスよりも角度が浅い為、想像以上に繊細でちょっとした事でアクセントが付いてしまう(らしい=レッスンで指摘される)
この辺りが、最近少し良くなって来たのだが、ドッツアーの2巻は♭や#も沢山出てきて音程が難しく、つい左手に注意が行きがちになる為、特に右手のテクニックや左手のヴィブラートへ比重を置いて練習する為の素材として買ってみたが正解だった
全体では100くらいのエチュードがあって、一つ一つはある程度弾ける人間にとってはそれ程難しくなく、買って2日程で半分の50曲近く弾いてみたが良く出来ている
難を言えば、エチュードがあちこちからの寄せ集めの為、統一感が無い事と、曲としてそれ程魅力的では無い点
この辺りは昔コントラバスでやったシュトライヒャーの教則本に似ている。
技術的には非常に良い練習素材なのだが、曲と言うにはお粗末と言う物で、その点、ボッテジーニのエチュードはローポジションでも立派に曲となっていた
これまで、ウェルナーやリー、ドッツアーの教則本を見たが、ウェルナーはどうか知らないが、リーやドッツアーは自作のエチュードなので、エチュードの統一感があり、リーなどは曲としても出来が良いのが多いが、このサポージニコフの場合、補足的に自身のエチュードはあるものの、色々な人のエチュードを技術的な進度に合わせて持って来てる為、ごった煮的な感じは避けられない
恐らく、これだけやってると面白くないだろうから、スズキの曲集などと併用する方が良いだろう。
ただ、技術的な進度(=右手と左手のテクニック両面)や右手の技術の種類で適度に並べてある為、特に練習時間が取れないレイトスターターの場合、順次進めて行けば、非常に効率良く、基礎技術を習得できる感じがする
これまでコントラバスではエチュードや実際の曲の中で数多く弾いている1対2のボウイング、スラーの付点等初心者の場合、この手の教則本できちんとやっておかないと身に付かないだろう。と思える物がちゃんと用意されている。
ドッツアーやリーはその辺りの流れが左手中心となっていて、途切れがちなのが気になるし、僕もチェロのテクニックとしてあらためて流れに沿って弾くのは非常に良い練習となる。
まだ全部弾いてないので分からないが、ひと通り弾けば、デイリーとしてやるのに良いエチュードも見つかるかもしれない
ちなみに、最近のレッスンでは、12の旋律的練習曲 Op.113と平行に夏に「愛の挨拶」をやったのを切っ掛けにバッハの「アリオーソ」を弾き、今フォーレの「シチリアーナ」を弾いてて曲中心のレッスンとなっていて、その中で様々な「表現する」レッスンを受けている。
僕の場合、オーケストラではコントラバスを弾いてて、チェロを弾きたいと言う気がない。
チェロでやりたいのはコントラバスで弾きたかったソロ曲を弾くことなので、その為、今は「表現する」ということが大きなテーマとなっている。
「表現する」と言う点ではやはり右手のテクニックや音程が重要で、オーケストラの難しい楽譜に追われ、管楽器がバンバン吹くうるさい状態で、音程が合わないTuttiで合奏をやっていては、何年弾いてもそう言うテクニックは上達しないだろう。
僕もコントラバスのエキストラが多くてTuttiの時間が増えると「音が荒れた」感じになるのが嫌だったので良く分かる。
先日、エキストラで行った弦楽合奏の団体はもう10年以上行ってるところで、チェロも二人は僕の大学の後輩だ。
大学の後輩なので僕と同じように楽器歴は30年以上なのだが、残念ながらこの後輩二人、腕前は中々厳しく、先日、スークの弦楽セレナーデの練習で、2楽章のトリオでチェロが美しく歌う場所があるがあまりにチェロの音程が酷いので、練習後に少し居残りで練習をしてるのを見てると、とにかく音程の取り方が悪い
♭が6つもあって、ハイポジションが出てくるので難しいのは分かるが、左手をズラしながら4、4、4とか1、1、1と1本指奏法に近い状態で、耳で探って音を取っているので、一人で弾いてると音が取れても合奏で音が取れる筈もない。
先ず、耳で聴いて音を探ってポジションを決めるのを止めて、ある程度正しく取れるシフトをやらない限り上手くなれない。
もちろん、完璧に取れる訳では無いが、耳で微調整するのはその後で、最初から耳で取ろうとするのは良くない。
取り敢えず、「替え指」の考え方(と言うかそれも分かってないのに驚きだが)とシフトの考え方を教えて「こうやって弾くんだよ」と実際にチェロを借りて弾いてみせた。
チェロ歴数十年の後輩よりもチェロ歴1年未満の僕の方が音も大きく音程も良いので、一緒にやっていたヴァイオリンの連中が驚嘆していたが、楽器はある程度は理屈(考える事)で克服できるところもある。
プロは理屈を長い時間の練習で不要としているが、それでもその裏には「こうすれば正しく取れる。」と言う理論がキッチリある。
それを自分達レイトスターターのアマチュアが身に付けるにはやはりレッスンを受けるしかなく、彼らと僕の違いは、そう言うレッスンを受けている量で、それだけは圧倒的に差がある。
例えば、離れた音を取る場合で、その前に同じ音が続いている時は、4から4へそのまま上がるより、4から1へ一度指を替えて、1から4として、少しでも距離を近くすることで正しい音が取れる確率をあげるのは大きな楽器では必須であり、コントラバスでもチェロでも似たようなものだ。
残念ながら、日本で多く使われているシマンドルと言うコントラバスの教本ではそう言う考えが無いので、コントラバスでそう言う考え方をしている人は少ないが、僕の師匠はアメリカでチェロ奏者にもレッスンを受けていた人で、僕も師匠のレッスンを受けて「替え指」はコントラバスで随分練習して自然に使えるようになっていた。
又、ハイポジションの場合、左の肘の位置も非常に重要で、音と肘の位置を合わせて覚えると言うのは先日あったFさんのチェロクリニックを聴講した際に聞いた話で、人間の身体は大きな筋肉や動きの方が再現性が高い。
その様に、先ず身体で正しい音程が取れる工夫をする必要があるが、アマチュアオーケストラなどは弾かなければいけない音符の量も多く、技術的にも難しい物が多い為、そんな事をゆっくり考えている暇はない。
音程が合って様が合ってまいが、取り敢えず手が止まらない様に弾いてるだけの時間が増えれば、そんな配慮が出来なくなるのも当然だ
先日の件は、別に驚く事では無かったが、「今さらこんな事を言うのは申し訳ないんだけど。。」と言いながら左手のExtentionの形が悪いとか右手の移弦の方法が悪いとか基本的な事まで指導したが、後輩だから許されても普段一緒にオケをやってるチェロのメンバーには中々言えない事だ
本来、オーケストラの場合、様々なテクニックが出来上がった人間が集まってやるものだが、残念ながらアマチュアオーケストラではそう言う状況では無いので、余程メンバーを厳選しない限りチェロパートが厳しいオーケストラは多い。
それでもやはりチェロを弾いてたらオーケストラで弾きたいと思うのだろう。何処でもチェロパートは人気で人が多い様だ
ただ、僕はチェロと言うのは一人でも楽しめる数少ない弦楽器だと思っている
バッハの無伴奏チェロ組曲など、やはりチェロで弾くのが一番で、コントラバスでそれをやるのがどれだけ大変なのかはやってみて良く分かっている。
又、チェロの小品を幾つか弾いてみた経験では、そこまで仕上げるのにコントラバスでやるとしたら(実際に「アリオーソ」や「愛の挨拶」はコントラバスでも弾いたが)先ずその5倍以上は掛かるだろうというくらいの時間で仕上がる。
それで、残りの時間を使って更に音質やダイナミックスなど音楽を充実する時間に充てる事が出来るので完成度も高くなる筈だ。
走る専用のレーシングカーと荷物を運ぶトラックで速さを競う様なもので最初から勝負は見えている
昔はそう言うオールマイティのトラックを目指していたがすっかり興味が無くなった
もちろん、チェロで楽しめる曲も多く、音域も聴きやすい音域で楽器の音を聴いてるだけで心地良い
これがヴァイオリンだといささか高い音が耳につくかもしれないし、ヴィオラはちょっと地味で、コントラバスでは音が低すぎる。
オケに入るなとは言わないが、自分の音と相対する時間を作るのも大切な事で、チェロと言うのはそれが充分楽しめる楽器だと思う