トルトゥリエ「現代チェロ奏法」 | iPhone De Blog

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「現代チェロ奏法」は近代の名チェリストであるトルトゥリエの著述を高弟であるチェリストの倉田澄子さんが邦訳した名著だ。


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実際に出てくるエチュードなどは破格に難しいので初心者には全くもって論外だが、最初の部分はトルトゥリエ本人の写真により構え方から弓の持ち方、左手のフォームまで非常に詳細に解説していて、ここだけでも、初心者、特に大人のレイトスターターは購入する価値がある書籍だと思う。

基礎的な解説は全てにおいて参考になるが、ここでは僕自身が苦労した左手に関する事を紹介したい。


トルトゥリエの左手に関する解説で特徴があるのが親指に関する解説だ。


これはトルトゥリエ自身の序文にも


『(前略)・・まず第1に、両手の親指と、親指に関する規則を非常に重視した。

チェロ演奏の技術全体のなかで、ひそかに不可欠な役を演じている、この「黒幕」的な親指の・・(以下略)』

と書かれている。


全くもってその通りで、左手の正しいフォーム(右手もそうだが)もテクニックも実はこの親指の状態1つで決まってしまうと言っても過言ではない正に黒幕だ。


僕はコントラバスのフレンチ弓は芸大をフレンチで卒業してイタリアで勉強されたSさんに師事したが、その時に教わった親指の形(当て方、角度)でそれまでの壁を乗り越えた経験があるので、ここは非常にヒットした。


ちなみに、トルトゥリエの右手の親指に関する記述を見ると僕がSさんから教わった形(状態)となっていた。


トルトゥリエは親指に関して詳細な状態を「正しい形」「誤った形」など、写真入りで解説している。


『親指の基本的なポジションは中指の真下にあって、中指と輪を描くことにある。


親指の果たす役割は中指と一緒に動いて手の中心部の力を増強してイントネーションをコントロールし、他の指に比べて発達していない薬指と小指を助けることにある。


親指は曲げたまま、チェロのネックに対して斜めになるように、指の先端、爪の脇を当てる。
この形は右親指をナットの角においたポジションと似ている。


このようにすると、親指以外の指が弦に対して垂直になる助けとなる。


親指の肉の部分をチェロの下の方から近づけたり、何か物を握るようにチェロのネックを締めつけたりしてはならない。


親指は手がポジション移動する時の案内役となる。』



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補足として解説図が入っているが、この図は弾く弦によって親指の位置が変ることを示している。


『親指の位置は、どの弦を弾いているかによっても変わるので、手と前腕はモンキーレンチの形をして、チェロのネックのまわりを回転する。


(モンキーレンチ=自在スパナのような手の動きを想像すればよい。)』


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この前提となるのが、左肘の位置である。


つまり、左肘が一定の位置で上記の様に弦に応じて変えようとするならば手首の角度を変えなければならなくなるが、トルトゥリエは『どのポジションにおいても、ひじと手の間はまっすぐな線でつながっていなくてはならない』と書いているので、肘の角度を変えることによってこれを実現すると言う事だ。


これは『左手』に関する解説の一番最初『腕とひじ、手首のポジション』と言う記述されている。


『腕は一番低い位置へ下りたときでも体に触れてはいけない。


左腕の高さのレベルは5つあり、そのうち2つはA線用で、後は各弦につき1のレベルである。


ひじは常に軽く、動くようにしておき、手の動きを妨げるのではなく、手と協力するようにしておく。』


『腕は一番低い位置へ下りたときでも体に触れてはいけない。』


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つまり、A線を弾く場合がこれに相当するが、体に触れるほどひじを下げてはいけないと言う事だが、そうならない程度に親指の位置に応じてひじを下げると言う事になる。

この移動範囲はそれ程大きくは無い。


各弦の間隔とネックの中心軸からイメージすると、最大でも凡そ70度くらいの範囲だろう。


そして『手の動きを妨げるのではなく、手と協力するようにしておく。』とある様に、ひじが先と言う訳でも無い。


『そのうち2つはA線用』と言うのはハイポジションが含まれる様で、ハイポジションが最も高い位置となる様だ。

僕がもっとも素晴らしいと感じたのは


『親指は曲げたまま、チェロのネックに対して斜めになるように、指の先端、爪の脇を当てる。

この形は右親指をナットの角においたポジションと似ている。』

と言う部分だ。


この「右親指に似ている」と言うのは言い得て妙であり、確かにチェロの場合、右手も左手も同じ形をしている。

何故左手の親指がこう言う方向と形にしなければならないかは、詳しく書いてあるが、もう一つ付け加えるとすれば、この形は前回に難しいと書いた「拡張」を非常に楽にする事に繋がる。


他のチェロに関する説明でも見たことがあるし、同じオーケストラのチェロのメンバーからも親指は「2の裏」と言う表現は聞いたが、ここまで詳細なあて方、曲げ方までは初見だった。

つまり、何となく「2の裏辺りにあれば良いんだろう」と言う事では無く、明確に2の裏で『親指は曲げたまま、チェロのネックに対して斜めになるように、指の先端、爪の脇を当てる。』と、この形を作った場合に手のひら側から人差し指と親指をの方向を見ると、上下方向に対して自然と反対方向の角度を形成する。


これは通常のフォームでは分りにくいが、人差し指と中指を拡げる「拡張」の形を作るとハッキリ分かる。

人差し指はネックの上方向、親指は自然と反対方向となる筈だ。


そして、人差し指と中指を拡げるのでは無く、「人差し指と親指を拡げようとすれば」人差し指と中指を拡げようとするよりも楽に拡がる。


これは、以前書いた、234が親指と一緒に移動する難しい拡張であるForward Extensionと全く同じ動き(親指が先行してそれに234が着いていくと言う動き)になる。


僕自身も、このトルトゥリエの記述で「拡張フォーム」の壁を乗り越えた感じがした。


楽譜も書籍もそうだが、見落としや読み間違いと言う事がある。


実は僕もこの数カ所の記述を読み間違いしていた為に、スッキリしなかったが、書かれていることを正しく理解出来た為、左手に関することが非常にスッキリした。


まあ、一番楽なのは優れた先生に師事する事だが、習う事は良いが、最も大きな弊害は「慣れる」事だ。

習う事に慣れると、自分の頭で考えなくなる。言われた通りにする事に専念して何の為にそれをやっているのかを見失いがちだ。

子どもであれば、それでも後から取り戻す時間は沢山あるが、大人のレイトスターターとなるとそうは行かない。

僕は自分で考えることは非常に重視しているが、かと言ってレッスン(人から教わること)を軽視している訳では無く、これまでもコントラバスでは国内外数十人の一流奏者にレッスンを受けてきた。


そのクラスとなると、当然、それ程頻繁にレッスンを受けられる訳ではないので、その間は自分で考える時間が多い。

もちろん、考えて答えが出るわけでなく、場合によっては誤った考えとなっている場合もあり、1回のレッスンのたった一言で、瞬間に氷解する事もある。

しかし、そこまでに長い時間考えているのは無駄な時間ではない。


無駄と言うなら、言われたことを自分の頭で考えずに単純にやっている事を無駄というべきだろう。

長い時間自分の頭で考えているから、たった一言で氷解して二度と忘れない。身体(頭)に叩きこむ。1を聞いて10を知る。と言う事に繋がる訳だ。

単純にレッスンへ通う(教わる)ことだけで安心すると、大切なことを言われているのに聞き流してる場合も少なくないだろう。


もしそうだとしたら非常に勿体ない事だ。