シベリウスと言えばフィンランドを代表する作曲家だ。
彼の交響曲で番号の付いたものは全部で7曲あるが、アマチュアでは2番が最も良く演奏されその次が1番、7番と言う辺りだろう。それ以外の曲は僕も弾いたことが無い。
1番はシベリウスが30代の頃の作品だ。
Wikipediaによると
『本作に着手する(1898年4月)直前の1898年3月にシベリウスはベルリンでベルリオーズの幻想交響曲を聴き、大きな感銘を受けたことを記している。
そしてシベリウスは滞在先のベルリンで早速交響曲の作曲に着手したのだった。
この頃のシベリウスは酒におぼれ浪費癖をおぼえ、自堕落な生活を送っていたのだが、この作品の作曲当初は酒も葉巻も控え作曲に集中した。
しかしそれも長続きはせず、酒に酔ったあげく乱闘騒ぎまで起こしている。5月にはフィンランドへ帰り、国内各地を移動しながら作曲を進め、1899年の初めに完成させた。』
とある。
「フィンランディア」などのイメージからストイックな愛国者かと思ったら意外にそうでも無く人間臭い。
確かに、1番の4楽章には「Finale (quasi una Fantasia)」とある。「幻想曲風」と言う事だが、ちなみにこの「quasi una Fantasia」と言うのはベートーヴェンのピアノソナタにも使われている。
Klaviersonate Nr. 14 op. 27 Nr. 2 cis-moll "Quasi una Fantasia" に使われているが、これは実は有名な通称「月光」ソナタで、本人が付けたタイトルより通称「月光」の方が有名になってしまっている。
ベートーヴェンは何を思って「Quasi una Fantasia」と付けたのか分からないが、曲のイメージからするとその雰囲気を表しているのかもしれない。
一方で、このシベリウスの1番の4楽章はベートーヴェンのピアノソナタと比べると全く異なる物で、中々ドラマチックで壮大な曲だ。
ベルリオーズの「幻想交響曲」を聴かれた事があれば、幻想交響曲に影響を受けたと言われても、なるほどと思ってしまう。
どちらかと言えば1楽章のこの部分など実際に弾けばベートーヴェンの幻想風になるだろう(笑)
静かな箇所でオーボエとフルートが朗々と歌うところなのだが、その後ろで八分音符を静かに刻むティンパニーに対して弦が延々とシンコペーションを刻む。
幾つか動画で見ても如何なプロオケでもピッタリ合ってるところなど見当たらない。
何故、ズラしてるんだ??と思うが、このズレた部分を何とかしようとするけど何ともならないピッタリハマらないと言うところが中々苦しくモヤモヤした雰囲気を醸しだす。
言い訳では無く、逆に合わないところが良いのかもしれないと思ってしまう。
ちなみに、1楽章ではとても合いそうに無いテンポなのだが、4楽章でもこのリズムが出てくる。
この箇所ではコントラバス以外の弦楽器が朗々と旋律を奏でる下でコントラバスとホルンがこのシンコペーションを弾くのだが、この箇所は1楽章と違い人間技で充分何とかなる速さなので、モヤモヤした感じでは無く、常にリズムが旋律より半拍先へ進むので、どちらかと言うと「進行感」「高揚感」に近いものを醸しだす。
話を戻して、1楽章の合いそうに無いテンポの方だが、この先の方には実はこの様にリズムが全て揃う所が出現する。
Hでやっと足並みがそろったと言う訳で、ここには「達成感」がある。
和音では不協和音、協和音などと言うものがあるが、このリズム版とでも言えよう。
このテクニックは次の第ニ交響曲でも顔を出している。
混沌とした3楽章から雄大な4楽章へ変わる場所で同じ様にコントラバスとホルンを半拍ズラす事で同様の効果を出している。
僕はリスナーでは無いので聴いた感じでは良く分からないのだが、こうして楽譜を眺めていると作曲家と言うのは色々個性があって面白い。
「幻想」と言うのは夢幻の如きものでモヤモヤしたモノだが、最後までモヤモヤしたモノでは無く、最後にはそれが形となって表れる「達成感」は「何か色々あって大変だけど頑張ろうぜ~」と言うシベリウスのエールの様だ。
しかし、実を言うとこの交響曲は「ホ短調」だ。
つまりEmで終わるのだ。
「めでたしめでたし」で終わるのかと思いきや最後に嵐の様な刻みが出現して、最後は暗くピチカートで終わる。
それも単純なEmのコード(ミソシ)では無く、一小節前ではしっかりEmを聴かせて、最後はビオラだけに「ソ」の音を配置してそれ以外は全て「ミ」だ。
コードの性格というのは第三音(短三度、長三度と言って短三度になるとマイナー=暗い響き、長三度になるとメジャーコード=明るい響きになる)で性格が決まるのだが(まあ、実際はもっと複雑だけど)、第三音の「ソ」がビオラにたった一つだけと言うのは渋い。
ビオラと言うのは中音域なのでヴァイオリンと比べるとそれ程ハッキリした音色では無い。
そこに、この第三音を置いてると言う点と、このソ一個に#が付けばすぐに長三度(E)となって明るいメジャーコードに変わると言う辺りが渋い。
要するに「お先真っ暗と言う訳じゃないんだよね」と言う響きだ。
う~ん。何か奥が深いと言うか「人生色々あるから油断すんなよ」と言うことなんだろうか(笑)
一方で第二交響曲の方はニ長調なので、例のシンコペーションが解決するテクニックも使って華やかにDで終わる。
Dというのは弦楽器が最も良く響くキーであり、弦楽器群だけでもD(レファラ)が良くハモる様に書いてあるし他の楽器も全部入ってゴージャスな響きだ。
まさに「あ~めでたしめでたし」と言う感じだ。
どちらの曲が好みかは人それぞれで、音楽なんて実利は何も生み出さないが音楽から学ぶことは多い。
ちなみに、6月に、ルーマニアで活躍中の指揮者O氏の棒でこれを弾く。
O氏は25年前から数年間そこのオケを振られていて僕もその間お世話になって以来なので20年ぶりだ。
そのオケの最近の映像をご覧になって僕が客演としてまだ乗っていて驚かれていたらしい(笑)。
その再会も非常に楽しみだ。