ラヴィリティアの大地第80話「愛嘆に軋む天井」後編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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神々に愛されし地エオルゼアの長い長い歴史の中で流星のように一瞬で消える火花のような戦争があった。砂の都『ウルダハ』水の都『リムサ・ロミンサ』森の都『グリダニア』の三国からなるエオルゼア同盟が巻き込んだ、小国ラヴィリティアとガレマール帝国との諍いは思ったよりも甚大な被害を双方に生んだ。後に旧ラヴィリティア史においてこの小国は、最後の大戦と言われた帝国とのこの戦以前に参戦した『カルテノーの戦い』で国土の半分が焼け落ちていた。諸外国からは以前のような強くしなやかな国には再起不能と囁かれ始めていた。そんな暗い影を落とすラヴィリティア国内で、ラヴィリティア国の為に命を賭し意識不明だったふたりの英雄が次々に目覚めた。その男達の名は斧術士(ふじゅつし)の獣人オウ・クベルニルと槍術士(そうじゅつし)のルフナ・ククだ。先に目覚めたのは獣人のオウだった。斧術士の余りある体力のおかげかルフナよりも先に起き上がった。だが、ラヴィリティア城に運ばれて来た時は全身の血管から血飛沫が止まらず、片目が飛び出していた。常人ならとっくに死んでいてもおかしくはなかった。彼もまた最強の冒険者だったと言えるだろう。一方でルフナもまた数多い敵に囲まれた上、腕や足が欠けた瀕死のラヴィリティア王太子オーク・ラヴィリティアを担ぎ庇った。それ故に傷だらけになり、昏睡状態に陥って危険な状態にもなった。だがルフナは知らない、いつも寝所に仲間の天使が忍び込んでいた事を。その天使の少年は寝ぼけてルフナに『天使の祝福』というキスを送っていた。天使のキスを送られた人間は本来の寿命が尽きるまで死ぬ事は無いと言われている。ルフナは知らずと仲間の天使ケイ・ベルガモットに救われていたのだった。獣人オウとルフナのふたりは目が覚めたときに今の自分の状態とラヴィリティア国の事、ラヴィリティアの王太子であり自分達のクランの、本当のリーダーであるオークの事をそれぞれ聞かされた。このふたりがある程度動けるようになった折、今まだ深く眠る王太子オークへの謁見を強く願い出たが容態を理由に国側から断られそれは叶わなかった。代わりに彼らはラヴィリティアの名で名誉を与えられた。獣人オウはしばらく王室御用達の冒険者依頼を請け負う形でラヴィリティアへの登城を許される。また槍術士ルフナはオークの子を宿したクゥの様子を見届けて、彼女に付き添う錬金術師のマリーにオークへの伝言を残してラヴィリティア城を後にしたのだった。


しかし王太子オークの本当の妻クゥクゥ・マリアージュの妊娠経過は芳しくなかった。先の戦において心労が重なった事、また妊娠における体調の変化に心が追いついていなかった事、そして自身の瀕死の夫の事も気がかりで、みるみる内にやせ細っていった。憔悴が見て取れる程になり宮廷医から母子共に危険な状態である事を進言されたのはラヴィリティア国内現最高権力者ハーロック卿。ハーロック卿は承知の上でクゥクゥと第三王女ハンナと、数人の侍従を連れて立ち入りが禁止とされているラヴィリティア国王の寝室へと赴いた。クゥクゥと、その手を引いたハンナ王女のふたりを部屋の真ん中に立たせたハーロック卿は先に準備をしていた宮廷メイド達に目配せをしてから口を開いた

「お前達に見せたい物がある。本来なら例えハンナ王女といえどここに立ち入る事は許されない王の私室だ。世話役のみが立ち入る事を許されているがそれ以外は頑なに禁止されている、私であってもそれは例外ではない」
「では何故私達をここへ?ハーロック卿」
「ああ、ハンナ。この壁を見せよう」
「壁…?」

ハンナ王女に身体を支えられ、言葉少なになっていたクゥがハーロック卿へ最後に言葉を漏らした。ハーロック卿に先に指示を受けていたメイドが部屋の壁に貼り付けてあった壁紙を引き剥がすとそこにはクゥとハンナが目を丸くする程の光景が、壁一面に広がっていた。壁にはこう書かれていた

『いやだ、戦いたくない、死にたくない』
『逃げるな!もう止まることは許されない』
『妻よ、永遠に愛している、どうか忘れないでくれ』

日記のような冷静な内容や言葉も並ぶが、その殆どは悲鳴のような殴り書きだった。また黒いインクの筆のようなもので書かれたものもあるが、色が赤黒くまるで人の指を血で染め直接擦ったようなもので書かれた歪な文字も在った。文字の大きさはまちまちで、年代違いもあったようだった。クゥ達は壁から目を離せず一瞬絶句するも、ハンナ王女が先に言葉を発した

「ハーロック卿、これはオークの、王太子ひとりの所業ですか?」
「否、違うな。オークの文字はどこにも無い、それは彼女の方がよく分かるだろう」
「…はい、彼の筆跡は一つもありません…」
「クゥ殿…」
「この壁は王の壁、通称“嘆きの壁”と呼ばれている。代々ラヴィリティア国王になった者が長い戦乱の中で、この壁の存在に気付いてどうも書き足していったものらしい。筆跡が全て別人だからな」
「なんて惨たらしい…何故壁がずっとこのままなのですか?ハーロック卿」
「これは恐らくだ、ハンナよ。この壁をそのままにしておく事で様々な事情で王位を継いだ心優しき国王達を、その立場から逃げ出させぬようにする為。戦の恐怖に耐えかねて壁に本心を書き込もうと見つけた際に、自分の省みさせて踏みとどまらせる為だろう」
「!!」
「ハーロック卿、これはあんまりではないですか…!まさかこれをオーク王太子に見せたのですか!?」
「私は教えても見せてもいない。オークは自分で気付いたのだろう、壁の彼らと同様にあやつも頭の切れる男だったからな」
「たぶんオークは自分も知らなくて、でも内密で書き留めようと壁紙を剥がしたんだと思います…」

また最後に言葉を発したクゥの両肩を、優しく抱いてやったのはハンナ王女だった。クゥはハンナ王女に背中を擦られながらも覚束(おぼつか)無い足取りで、凄惨な嘆きの壁に近付いて自身の指である文字をなぞった。その文字はどの国王の文字よりも美しく綺麗で、力強く優しさに溢れた言葉だった

『お前は逃げろ、生き残れ。そして愛する者と共に人生を歩め』

どの国王かはわからない。それでも比較的新しい筆跡のようにも見えた。見間違いかもしれない。でも真実はその場に居る誰もに知る由はなかった。涙ぐみ視線を落とすクゥの横顔に更に声をかけたのはハーロック卿だった

「見せたいものはこれだけではない。天井の準備は整ってるな、皆の者」
「ハーロック卿?まだ何か…」
「ハンナ、クゥクゥ・マリアージュよ、目を逸らすなよ」
「…?」

バサッ!

部屋の隅に待機していたメイド達が、窓側の壁に立て掛けてあった脚立を登って天井の壁紙を勢いよく剥がした。すると天井から桜の花びらのようにひらひらと、小さな紙切れが落ちてきた。ハンナ王女とクゥの足元に散らばる紙切れ。ゆっくり落ちてきたのはその紙が製図などで模写する半透明の軽い紙だったからだろう。軽すぎてまだ天井に張り付いている物も沢山ある。ハンナ王女はその場に屈んで数枚の紙切れを手に拾い上げた。直ぐに何かにはっと気が付いて、その紙をしっかりとクゥに握らせた。それはどうやら手紙のようだった。ハンナの様子にしきりに戸惑うクゥはその手紙に目を走らせると、気づいた。それは見まごうことはない、自分の愛してやまないオーク・ラヴィリティアの筆跡だった。手紙にはこう書いてあった

『クゥ、今でも愛してる。生涯、君を忘れない』

クゥの瞳は一瞬で潤んだ。他の手紙にもこう書いてある

『俺の人生の汚点で君を巻き込んでしまった。済まない、でもクゥを諦めきれない』
『こんな国、クゥを連れて逃げてしまおうか。彼の言葉に縋りたい』
『クゥの体は大丈夫だろうか、少し前から具合が良くなさそうだった。後悔が尽きない』

オークの言葉はクゥ自身にも向けられていたが、何か自分自身への懺悔にも見て取れた。クゥは手紙を持つ手とは違う片方の手で口を覆った。そうでもしないと嗚咽が漏れそうだった。その様子を伺って静かに視線を落としたハーロック卿は、一度目を伏せてから寝室の窓に視線を移した。再びハーロック卿が語り始める

「外を、空を見上げてるものだとばかり思っていた。何度かオークをこの部屋へ迎えに来た際、いつもこの窓際の隅を気にしていた。それは天井の化粧を剥がして手紙を差し込んだ重みで、上から剥がれ落ちてこないか心配しての事だったのだろう。この王の壁だ、ここに書き込めばいずれ私や周囲に気付かれると考えた筈だ。メイドから何処にも手紙を出していないのに、特定の紙がいつの間にか消えているとは聞いていたがまさか天井だったとは…本当に頭の回るやつだ」
「…っ、オークっ」
「こんな事を繰り返していてもいずれ天井の化粧が落ちてくる事は分かりきっていただろうに…」
「ハーロック卿、それでもオーク王太子は彼女に、クゥ殿に想いを伝えたかったのでしょう。それ程までに彼女を愛していた」

ハンナ王女の最後の言葉にクゥは膝から崩れ落ちた。それでも天井からまだ落ちてくる手紙の為に天を仰いだ。見上げる事ではらはらと、舞い落ちる手紙がクゥの額や頬を優しく撫でた。それはまるでオークがいつもクゥの顔や頬に、優しくキスを落としていた事を思い出させる様だった。クゥの瞳から大粒の涙が流れ始める。クゥは手元にある手紙を強く握りしめて、その場で身体を丸くした。声を出して泣き喚くクゥを、ハンナ王女は強く抱きしめた。クゥは最後にこう言った

「お願いオーク、目を覚まして…」

オークは未だ怪我の高熱で目覚める様子を一切を見せない。倒れてから一度たりも意識を取り戻していない。その間クゥはずっと後悔していた、一瞬でもオークとハンナ王女の関係を疑ってしまった。彼は自らの孤独な運命をひとり耐え続けて妻の自分の事を想い、言葉を積み重ねてくれていたのに。クゥは心の中で何度も何度も、許してと彼に詫びた。愛嘆に軋んだ天井はクゥの心に深く重く伸し掛かったのだった。


それから程なくしてクゥは無事にオークの子供をこの世に産み落とした。ハーロック卿の計らいによってオークの本当の願いを知り、心を持ち直したクゥは母子共に健康な出産を終えたのだった。元気な産声と時を同じくして目を覚ました男がいた。それはこの国から逃げ出さず己や敵国と戦ったラヴィリティアのひとりの戦士、王太子オークだった。この時、月日は小国と帝国の終戦から半年程が流れていた。未だ消息の分からない仲間の面影を置き去りにした年月は、無慈悲に時を刻むのだったー。


(次回に続く)
 

 

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