ラヴィリティアの大地第47話「眠れぬ旅行」前編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

☆人物紹介はこちらから→

●オーク・リサルベルテ

小国『ラヴィリティア』王家貴族の四男。

冒険者クラン、ビカム・サムワンのリーダー

祖国で官僚になる為日々奮闘中

 

●クゥクゥ・マリアージュ

冒険者クランビカム・サムワンの

ヒーラー(回復士)。亡き父と同じ

勇者になりたい女の子

 

【前回のお話はこちら】

 

 

 

「素敵…オーク見て、リムサ・ロミンサのモラビー造船所がもうあんなに遠くに見えるよ!」
「こら、あんまり乗り出すと危ないよクゥ。でもそうだな、風が気持ち良いな!」


この物語のヒーローである褐色の肌を持つ青年オーク・リサルベルテと、その新妻でありこの物語のヒロインであるクゥクゥ・マリアージュは彼らのクランチームがある冒険者居住区ラベンダー・ベッドを離れ、水の都リムサ・ロミンサを経由して海路でこのモラビー造船所にて慎ましい結婚式を挙げてから、その足で新婚旅行に出掛けていた。リムサ・ロミンサの国を形作る港街の一つ、モラビー造船所の位置を往来する船に伝える“モラビー灯台”がクウクゥ達の乗る船からもうまもなく姿を消そうとしていた。ここで時は結婚式の前に遡るー。


オークとクゥクゥはエオルゼアのしがない1人の冒険者たちだった。冒険者は意外と多忙で売れっ子になればその冒険依頼は絶えない。一時的に国のお抱え冒険者になることもあるし、二人も先のリヴァイアサン討伐により水の都リムサ・ロミンサの総督であるメルウィブ提督のお墨付きを得て目まぐるしい毎日を送っていた。充実はしていたがこの新婚旅行を逃すと今度はいつ二人きりになれるかわからない。オークが束ねる冒険者クランBecome someone(ビカム・サムワン)クランメンバーの面々もさっさと行ってこいとせっついて現在に至る。また、

「ええ?新婚旅行は各国を巡る旅だけ、ですかオークさん」
「はい、そのつもりですウォルステッドさん。クゥもそれでいいって、ふたりで決めました」
「そうですか。でも…うーん」
「ウォルステッドさん?」

それはBecome someoneの冒険者お抱え行商人ウォルステッドが、冒険者必需品を届けにオークたちラベンダー・ベッドの家へ来た時の会話だった。ウォルステッドが自分の顎に片手を当てて再びオークに口を開いた

「オークさん、やっぱり新婚旅行なんですからここは奮発しましょう!実は俺がまた仲介を頼まれてる離島がリムサ・ロミンサの北側にありまして。そこへハネムーンで泊まったらどうですか」
「そんな、ウォルステッドさんにそこまでしてもらうなんて悪いです」
「いえいえ、その離島のオーナーは信用のできる冒険者に前から離島を丸ごと買い取ってもらいたがっていて。購入はできないまでもコテージも好きに使ってもらって構わないって好条件なんで、利用した冒険者の意見とか感想を教えてくれたらレンタルの金額も相談できると思います」
「わかりました、彼女と相談してみます」
「そうしましょうそうしましょう!」

…という会話の流れでオーク達ふたりはリムサ・ロミンサ領地の離島へハネムーンに来る運びとなったのである。冒険者がよく独り立ちをする為に乗り込む大型船に乗船しオークとクゥクゥのふたりは正に新天地に歩を進めようとしていた。この大型船では今夜一泊して明日、件の離島へ向かう為の中間地点の街へ下船することになっていたのだった。そして今日は人生に1度の大切な日になるかもしれない、そんな想いを胸にクゥクゥは気持ちよさそうに海原を見つめるオークの横顔を下からそっと盗み見をしていた。愛しい夫のオークと新婚旅行を目一杯楽しむ準備はすでに出来ている。クゥは根拠なき自信を胸に、そして完璧な夜を船で迎えるために心の中で密やかに両の手の拳を握っていた。すると不意にクゥの足元にあるパンパンに膨れ上がった手荷物を視界に入れたオークはしきりに不思議がって彼女に問いかけた

「しかしクゥ、その鞄は一体何が入ってるんだい?やたら量が多そうだけどやっぱり下のクロークに預けてこないか?重いだろう」
「別にいいのこのくらい!なんてことないし私は冒険者だよ」
「そうだけど…邪魔じゃないの?本当に」
「いいんだってば!向こうに着いてからのお楽しみ♪」
「? うん、まあそうか…」

オークにはやや納得がしづらかったが我が妻の言うことだ、今だけは好きにさせてあげたい。そんな想いから再び口を結びクゥの腰を優しげに抱き寄せた。クゥも心地よさそうにオークの肩口に頭を寄せて、またしばらく青く広く目の前に広がる海原を飽きるまでふたりで眺め続けるのだった。


その日の夜、大型船は速度を落としてゆっくりと航行を続けていた。船の中枢には気軽なダイニングが備え付けてあり、灯りは煌々と輝き冒険者や旅行者の賑やかな喧騒で埋め尽くされていた。そんな中、明日も下船の朝が早いオークたちは安い客室を押さえていたので部屋に備え付けのシャワーが無く、男女それぞれの共用シャワーを早めに浴びるため食事を終えてすぐ客室に戻る事にしたのだった。きっとゆっくり浴びてくるだろうと、オークはクゥの湯浴みの速度に気持ち時間を合わせ念入りにシャワーを浴びてきた。軽い足取りで自分の客室のドアを開けるとそこには愛しい妻が自分に背を向けて、薄着で部屋の真ん中にぽつんと佇んでいたのがすぐ目に止まる。えっ、と驚きの声を隠せずオークはドアを片手で開けたままその場で固まってしまった。すると彼の背のやや遠い方向から同じく客室に戻って来ただろう数人の客の話し声と足音が聞こえてきた。オークは部屋の中が見えてしまうかもと慌てて後手でドアを締めてクゥに向き直った。クゥはもうずっとオークに背を向け続けていて彼とは一切目が合わなかった。まだ少しだけクゥの髪が濡れているし、またいつから佇んでいたかはわからないが客室の暗がりでも心なしか彼女の肩が少しだけ震えている気もする。オークはクゥの“何か”の様子にすぐ察しがついて、彼のほうに近かった客室の椅子の背にかかるクゥの上着を持って彼女に歩み寄った。オークが先に口を開く

「クゥごめん、先に戻って着替えてるなんて思わなかったんだ」
「…」

そう声をかけながら未だ自分に背を向け続ける彼女に厚手の上着をそっとその身にかけてやった。沈黙を貫くクゥを愛しく思いながらもオークは彼女に話を続けた

「船の夜は冷えるよ、さあ上着をちゃんと羽織ろう」
「オーク、今抱いてほしい」
「! …わかった」

オークはクゥの突然の、でももうずっと前から知っていた心からの願いに、彼女の背から腕を回してクゥを自分の胸の内に優しく閉じ込めた。一瞬クゥの体に緊張が走ったがオークの仕草に心地よく身を委ねた。が、それ以上クゥの身に何も起きない。やっぱり、という気持ちがクゥの胸をまた軽く軋ませた。今度はクゥがオークに口を開く

「…こういうの、やっぱりオークは嫌なの…?」
「違うよ」
「じゃあなんで…っ」
「クゥ、闇雲なのは良くないよ。俺は君をちゃんと地上で、大地が続く場所で抱きたい」

オークはそう話しながらクゥをゆっくり自身の前へ振り向かせた。クゥが切なげにこちらを見上げている。無意味に、急かされなくてもいい気持ちを抱えきれずこちらを見つめ続ける彼女を本当なら今すぐこの場で抱いてしまいたい。だけど。オークはクゥが次の言葉を発する前に素早く彼女に口づけをする。突然の出来事で、けれどクゥにもそのオークの行為の意味にすぐ理解が追いついた。普通のキスじゃない。それはオークと今まで幾度か交わしたキスとは全く異なる唇から燃えてしまいそうな熱烈な、この先の甘美な行為を思わせる力強いキスだった。口に何かが入ってくる、そちらのほうはクゥの思考が追いつかずオークに求められるまま彼に強く抱きしめられ続けいつの間にかクゥの後方にあったダブルベッドに彼女の背が着いていた。長い長い口づけを交わした後オークは最後にクゥを強く抱きしめたかと思ったら、すぐ彼女から体を離した。その事にクゥは呆気に取られる。するとオークはクゥの頬を片手でひと撫でして彼女にこう囁いた

「君は先に良い子で寝てて、俺はクゥが安心して眠るまで甲板で散歩してくるから。いいね?ちゃんと眠るんだよ」
「オーク、あのね…っ!うそ、行っちゃった…」

オークはそう言うと足早に部屋から出て行き客室のドアがぱたんと閉まる。クゥはへなへなとベッドにへたり込んだ。さらに静けさが増した室内にクゥの、オークへの悪態がぽつりと呆気なく溶けていったのだった。


「よぉ、兄ちゃん!ここはもうますます冷えるよ、とっとと部屋に戻りなよ」
「ああ、ありがとう。でもまだここで星を見ていたいんだ」
「物好きだねぇ」

言葉通り大型船の最上階にある外甲板でひとり、真黒な夜のリムサロミンサ・ロータノ海を孤独に眺めながら優しい通行人に声をかけられたオークはさすがに冷えるなと小さく呟いて大型船の甲板で星は綺麗だけれどこの母なるエオルゼアの大空に白い息を吐きながら自身の内に宿った猛る熱を冷ます。オークは心の中で穏やかに想う、

(さすがに色々もう限界かも…)

彼は自分の頭を甲板の緣(へり)に擦り合わせ両の手で真っ赤になった首筋を撫でつけて、再び顔を上げてつまらなそうに星を瞳に捉えた。今すぐに部屋に戻りたい、でももう少しだけ、本当にもう少しだけ、つまらない男だけど最後のその“刻”まで格好良い男で居たい。そんな切なる想いを抱えて今夜も毎夜悩ましく想い続けていた自身の最愛の妻を、優しい眠りに誘うまでその場に留まり続けるのだった。




(次回に続く)

 

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