【前回まではこちら】☆人物紹介はこちらから→★
想いを伝えて口づけを交わして、帰るべき家まで手を繋いで歩いた。それでも家は合図じゃないー。
今歩く道は森の都グリダニアの冒険者居住区ラベンダー・ベッドへ続く道。本来なら冒険者が足として使う馬代わりの『チョコボ』という大鳥に跨って帰るところだが数十分前に恋人同士になったばかりの青年オーク・リサルベルテとこの物語のヒロイン、クゥクゥ・マリアージュは想い強く固く手を繋ぎグリダニアの柔らかな大地にしっかりと足を付けて帰路に着いていた。ずっと恋い焦がれていたオークと両思いになったことに信じられず、また風車小屋の前で抱き合い分かちあった彼の熱をクゥは頬に宿し少し後ろからオークの顔を見上げ心の中で彼女は思った
(まだ顔が熱い…手も私のほうがずっと熱いよね)
オークの男性としての体温の高さも然ることながら絶対に離さないと言わんばかりのクゥ自身の手の平が、汗ばんでいることに自分で気がついていた。冒険者なのに真白で陶器の美しさを感じさせるクゥの頬は赤く染まり、然しながらオークもまた同じく自分の汗だと認識していたが彼女が気の付かないことをよいことに強かに素知らぬふりを続けていた。しかしそれは頃合いでオークはクゥに様子を確かめた
「クゥ、歩くのは疲れた?チョコボに乗ろうか」
クゥは先程から愛しい人に繋がれた手を見つめ続けていたが、オークの言葉に弾かれるように顔を上げてオークを見つめた。今離したらそれぞれ一人用のチョコボに乗らなければならなくなってしまう、それは絶対にいやだ。全く疲れなんて感じていない、オークのより近くで1秒でも長くオークと手を繋いでいたい。クゥはまさかと首を小さく横に振り短い言葉ながら本音を口にした
「まだずっと手、繋いでたい」
クゥのたどたどしい言葉にオークは目を細め口角を僅かに上げた。それと同時にクゥと繋いだ手を軽く引き恋人繋ぎに握り変え、その手を自身の顔近くにもっと引き寄せ溢れる想いを口にした
「俺もまだ繋いでいたい」
握り直した手がオークの唇に当たりそうだ、オークの妖しくも嬉しい不意打ちがクゥの真っ赤な顔を更に朱く染め上げた。クゥはもう心臓の鼓動がどうにかなってしまいそうだった、本当にずるい人だ。グリダニアの中央北部森林ベント・ブランチ牧場はとうに過ぎたがラベンダー・ベッドへの渡し船までまだ少しある。この近くもなく遠くもない悩ましい距離を二人は生涯忘れないだろうとそれぞれに思っていたのだった
オークとクゥは二人が所属する冒険者クラン『Become someone(ビカム・サムワン)』の仮宿に帰る為、鏡池桟橋で渡し船の船頭に声をかける。小さい渡し船は少し揺れるのでオークはクゥより先に小船に乗り、何時だかウルダハ王宮であった晩餐会で彼女をエスコートしたように手を差し伸べた。オークのその貴族たる出自の振る舞いに、まるで王子様のようだとクゥは見惚れた。オークと片時も離れたくないクゥの気持ちとは裏腹に、距離の長くない不定期線はあっという間に冒険者居住区の岸辺についてしまう。ここから大人の足では家まですぐそこだ。今日の幸せな一日が家の門を潜ったら終わってしまう。だんだんと見えてくる門の街灯が今夜だけは、クゥには物悲しく鈍く見えた。オークとクゥは門の前で一度止まる。船着き場からまた繋ぎ直した手をなかなか離せないのはオークとて同じだった。またラベンダー・ベッドの入口から感じていた可愛い恋人の寂しげな様子にオークは気持ちを押し図って彼女に提案を投げかける
「良かったら今夜は俺の部屋においで」
「!」
「ただし今日はもう何もしない、思ってるより疲れているだろうから」
「行く!」
食い気味に答えてしまった。淑女なら躊躇うべきだろうか、クゥは今更ながら小さく後悔したが嬉しさのあまり二つ返事で叫んでしまった。目を見張って驚くオーク、しかし愛しむようにくすりと笑ってオークはクゥに告げた
「ゆっくりでいいから着替えておいで、部屋できちんと起きてるから」
「うん、わかった!オークありがとう」
まだ一緒に居られるのだと心弾ませ家の扉を開ける為にクゥは一度オークの手を安心して解くのだった。
ラベンダーの家はかろうじて街灯が付いていたものの家の中はやけに静かだった。誰も帰っていないのだろうか、いつも賑やかな家が今はがらんとしていて夜の冷ややかな空気が少しの緊張感をはらんだ。今夜はきっとオークとクゥのふたりきり。クゥはあれやこれやと散々悩んだ挙げ句、お気に入りのナイトワンピースに着替え少し癖っ毛のある自身の髪を念入りに梳かした。オークと会う前に湯浴みもしてきていた。もうなんの準備かよくわからなくなってしまっていたが恐らく就寝前の支度はほぼ完璧だ。クゥは自分の部屋と向かい合わせの部屋へと足を進め、とてつもない緊張を胸に抱えながらオークの部屋のドアをノックした。オークがすぐにドアを開きどうぞとクゥを部屋の中へ促した。クゥはオークの部屋に入るのは初めてじゃない、ただオークに片恋をし始めた時からは足を踏み入れないようにしていた。クゥのとある頃からの変化に無論オークは気が付いていたから自分もずっと弁えていた。オークはクゥに合わせて寝支度を整えており抜け感のあるアラミガン・ガウンを緩やかに羽織る。クゥもその姿は家の中で何度も見かけていたのに胸の鼓動は鳴り止みそうになかった。外であんなに気を張っているのにガウンを羽織ればちょっと油断しているオークの姿が、クゥは好きで好きでたまらなかった。オーク本人はそんなことは露知らず、ぼうっと自身を眺めるクゥに内心かなりの気恥ずかしさを覚えながら軽く咳払いをしてクゥを更に促した
「ハーブティーを淹れるから座ってて、ソファに」
「うん…」
クゥはどきりとした、部屋の奥にあるオークのベッドを一瞬視界に入れてしまったからだ。そのクゥの途方もなくわかりやすい様子にオークはいつも気がついていた、クゥは顔にも態度にも出やすいのだ。オークは冒険者としても一人の男としてもクゥが常に心配でならない、自分の危うい想い人に今まで様々気が気でならなかった。そしてオークのスマートなハーブティーのサーブはそれさえクゥの心を掴んで離さない。気品溢れるシャーレアン風仕立ての、オーク自身が丹念に選んだであろうソーサー付きティーカップがクゥの手に渡る。クゥはそれに小さく口をつけ、オークに感想を述べた
「美味しい、ありがとうオーク」
「良かった」
少し落ち着きを取り戻したように見えたクゥの座るソファにオーク自身も腰を落ち着ける。このソファは冒険者の逞しい肉体を持つオークと座るには些か狭い、事により必然的に体を寄せ合う形になる。クゥの鼓動はまた早鐘を打つ、大きいベッドのほうがもう少し距離を取れたかもしれないとたらればがクゥの内心に過った。それでもオークに近づきたくて自然と彼の肩口にクゥはもたれ掛かった。遠い昔からまるでそれが当たり前かのようにオークも顔をクゥの額に寄せた。魅惑的な女性を思わせるオークの厚目で柔らかそうな唇が今度はクゥの髪に触れている。今夜はもう何もしないとオークに言われた、クゥはそれでもある事を期待していた。あともうちょっとなのに、それがクゥにはなんだかもどかしかった。いつまでそうしていただろう、最後まで口を付けられなかったハーブティーの湯気が消えた頃オークの部屋の振り子時計の鐘が深くなった夜に響き渡る。クゥはいつの間にか伏せていた瞳をはっと開いた。流石にもう部屋に戻らなければ。名実ともにただひたすらに寄り添ってくれる優しい彼をこれ以上困らせてはだめだ、そうクゥが小さく決心したとき一瞬逡巡したオークは思いも寄らぬ言葉を口にした
「ベッドで一緒に眠ろうか」
顔を上げられない、クゥはオークの言葉に瞳を潤ませ嬉しさが後から後から胸にこみ上げてくる。オークはクゥの手から優しくティーカップをすくい上げてサイドボードへ置く。クゥからけして目をそらさず両の手で静かに彼女の手を持ち上げた。クゥもオークから目が離せない。オークの顔を見つめながらクゥはその誘いに共鳴して緩やかにソファから立ち上がった。オークに優しく手を引かれ、華奢なクゥは花から花へ飛び立つ蝶を思わせる足取りでその場から身を移した。彼女は蝶の小さな羽ばたきによって舞い落ちる花弁のようにドレスレースをふわりと跳ね上げ、ベッドサイドに腰から砕け落ちた。クゥがベッドに座ってからオークは身を翻し、ベッドの反対側からシーツへ潜る。オークはクゥより先にベッドへ寝転んで自分の胸元をとんとん指し示しクゥにここから先の安息を導いた
「おいで」
クゥは下唇を僅かに甘咬みして恋い焦がれるままオークの胸元に顔を埋め横たわる恋人の体にそっと自身の身を添わせた。クゥからオークの背中に手を伸ばす。するとそれを合図にオークはクゥの背中にそっと触れて優しく抱きしめ返した。やっとクゥにもオークの心臓の鼓動がきちんと聴こえる。それはとても力強く穏やかでなんの混じり気もない静かな音。彼は少しだって緊張してやいない、それは恋人になったばかりの自分のことを今夜どうにかするつもりがないからに他ならなかった。クゥはちっとも寂しくないといえば嘘になってしまうが少し嬉しくもあった、オークが本当に自分を大切にしてくれる事が伝わってくるからだ。でもこれだけはオークの恋人として譲れない、クゥは一度目を伏せ見開いてオークを見つめ切なく求めた
「おやすみの口づけをして」
「ああ、いいよ」
クゥが目を閉じて感じたのは愛しい愛しいオークからの、自分の瞼への口づけ。やっぱりという想いと共に夜の帳が幕を引くようにその瞼にオークの愛を降ろしてクゥは深い眠りにつくのだったー。
恋人たちが愛を育む営みの合図はけして、踏み入れた家でも部屋でもなく記号でもないのだ。
(次回に続く)
↓他の旅ブログを見る↓
↓読者登録をすれば更新されたら続きが読める!
ぽちっとクリックしてね♪
☆X(※旧ツイッター)

☆インスタグラム
☆ブログランキングに参加中!↓↓





