ラヴィリティアの大地第31話「理想の冒険者」中編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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森の都グリダニアの冒険者居住区ラベンダー・ベッドにまた陽が昇る。陽が1番空高くなるころ武者修行にいったん区切りをつけた物語のヒロイン、クゥクゥ・マリアージュがクラン『Become someone(ビカム・サムワン)』に戻ってきた

「クゥ、お帰りなさい!」
「ただいま、ケイちゃん」

クゥの帰りを今か今かと待ちわびていた弓術士(きゅうじゅつし)である天使のケイは荷物を下ろしはしたがまだ腰を落ち着けていないクゥの腰に抱きつき縋るように顔を埋めた。その様子に目を細め、寂しがらせてしまったのだなとクゥはケイの甘栗色のショートヘアをごめんねと優しく撫でてやった。同じくクゥの帰りを一緒に待っていたのであろう、リビングに居た魔道士の女冒険者オクーベルはクゥに話しかけた

「少し早い帰りだったな、クゥ。約束の仕事はもう終わったのか?」
「オクベルちゃん、実は少し長引きそうだから一度荷物を取りに戻ってきたの」
「え、そうなの!?」
「ケイちゃんもごめんね」

クゥの思わぬ返答に大きく驚いたのはケイだった。クゥは自身の腰にいまだ抱きつくケイを優しく解きケイの目線に合わせるため腰を屈め、彼の頬をまた撫でてこう言った

「ベルナンドさんの…今お世話になってるクランのメンバーの人の、復帰が少し遅れることになっちゃってね。このままもう少し手伝ってくれないかって頼まれたの」
「そっか、じゃあクゥまたすぐ戻っちゃうんだね」
「あとほんの十日ぐらいだから、そしたらちゃんと戻ってくるからもうちょっとだけ待っててねケイちゃん」
「わかった」

ケイは自分の頬を撫でてくれたクゥの手に顔を擦り寄せにこりと笑った。ケイとの会話を一通り終えたクゥはオクーベルに向き直って切り出しにくいながらもその言葉を口にした

「オクベルちゃん、オークは帰ってきてる…?」

オクーベルは首を緩く降った

「いや、まだ戻っていない。今ウォルステッドの付き添いで東の国のクガネまで足を運んでいるそうだ」
「そっか」
「そんなわけだから特に大きい依頼も無く中休みの我がクランBecome someoneのことは気にするな、クゥ。自分の仕事をきちんとこなして来い」
「うん。ありがとうオクベルちゃん」

そうお礼を言ったクゥと相変わらず何も聞かないでくれているオクーベルは微笑み合ってクランの短い近況報告を終えたのだった。


「あれ、クゥお嬢さんもう戻って来てたんですか?」
「あれ?ウォルステッドさんも東の国から戻ってきてたんですね」

クランの副リーダーであるオクーベルに報告を終えたクゥはちょうど家から出てきたところだった。先程オークの話題で出ていた当事者である行商人ウォルステッドが、期日がとうに過ぎているであろうクランへの納入品を今まさに運び入れようと『チョコボ・キャリッジ』から荷下ろしをしているところだった。クゥは見当たらない人影に目を泳がせる。それに気が付いたウォルステッドが申し訳なさそうにクゥに話し始めた

「俺の都合でオークさんを借りっぱなしにしてしまってすみません、実は今日もウルダハに帰ってきてから溜まっていた納入品を方々配りに行ってもらってるところでして」
「そんな!お仕事大変だったみたいで…でも無事に帰ってこれたみたいで良かったです」
「おかげさまで」
「ところでなんですけど…」
「?」

先程まではきはきと受け答えしていたクゥが何やらもじもじし始めて言葉の歯切れが悪くなる。そんなクゥの様子にまったく心当たりがないウォルステッドはその様子をしきりに不思議がる。クゥは程々に目を泳がせた後、ずっとウォルステッドにたずねてみたかったことを口にしてみるのだった。


「クゥ、絶対オークに会いたかったはずだよねオクベル」
「そうだなケイ。仕方あるまい、こういうすれ違いもある。恋はすれ違うほど燃えると言うしな」
「じれったいね、ちゅっちゅしちゃえばいいのに」

ケイの言葉にオクーベルは深々と頷いた。するとそこへ無遠慮に扉を開けて納入品を抱えたウォルステッドが慌ただしく家の中に入ってくる

「いや〜遅くなってすみませんでしたオクベル姐さん。そういやさっき表ですれ違ったクゥクゥお嬢さんに『男の人ってどういう女の人が好きなんですか?』って聞かれたんで、胸がこうバーン!と出てて足もガーン!と出てる服装が好きなんじゃないかって答えてきましたよ」
「「リミット・ブレイク…!」」
「「えっ!!」」

これを読んでいる読者もわからないだろうが、これを書いている筆者もよくわからない。冒険者居住区の非戦闘エリアで、冒険者のエネルギーが溜まっていないのにゼロ距離で冒険者の必殺技リミット・ブレイクがなぜオクーベルに使えるのか。突然エネルギーを吸われた、すぐそばに居たケイの肩は跳ね上がり冒険者居住区では練習用の木人以外リミット・ブレイクはご法度ですと逃げ回り叫び倒すウォルステッドの姿が森の都グリダニアの端っこで繰り広げられていたのだった。


その日、それからクゥは冒険者である自分の懐番リテイナーから別の荷物を受け取りに会う為、拠点を移したばかりの『暁』本部がある石の街レヴナンツトールを訪ねていた。リテイナー窓口で自分のリテイナーの名前を口にした

「クゥクゥ・マリアージュです、スミス・ミランダさんをお願いできますか」
「少々お待ちください」

するとすぐにそのリテイナーがやってくる。年齢はウォルステッドやベルナンドと同じぐらい、齢三十代も半ばの背が高く耳の長いエレゼン族の男性が現れた。片手に金色の指輪が光っている。それはエオルゼアではごく一般的な既婚者の証だった。スミスと呼ばれたリテイナーが軽くクゥに会釈をする

 



「マリアージュ殿、お待たせしました」
「スミスさん、こんにちは」
「今日は何をお引渡ししましょう?」
「これとこれを…あと、スミスさんにお聞きしたいことが」
「? はい、私に答えられることなら」

スミスは楽しそうに軽い世間話もする明るい女性という印象の雇い主である冒険者のクゥの、いつもとは少し違う覇気のない様子に違和感を覚えた。しばしの沈黙の後、スミスはぎょっと驚いた。少しうつむき加減だったクゥが突然涙をぽろっと零したのだ。スミスは慌ててクゥを気遣った

「マリアージュ殿!?一体どうされましたかっ」
「男の人っどういう女の人が好きなんでしょうか…」
「は…?」

いまだめそめそとリテイナー窓口で泣き続けるクゥに成すすべもなく、日も暮れ傾き始め人通りがまばらになったとはいえカウンターで泣かれてしまってはさすがにひと目にもつく。クゥは女性だ、彼女にとってあらぬ噂が立つかもしれない。そう考えたスミスはリテイナー長でありクゥのもう一人のリテイナーである上司に早めの仕事上がりを申し出てクゥを連れ近くのカフェへ移動したのだった


「マリアージュ殿、これをどうぞ」
「…ありがとうございます」

クゥはスミスから渡されたハンカチのような真っ白できちんとプレスされた布を受け取った。余程の切羽詰まった事情があったのだろう、突然泣き出すなんて相当追い詰められていたのだとスミスはクゥに思いを寄せた。実はスミスはクゥとオークの噂を小耳に挟んでいたのだ。冒険者は噂好きだ、クゥとオークのわかりやすい両片思いは冒険者の間では有名な話だった。スミスはそんなことをおくびにも出さず素知らぬふりをしてクゥに話の水を向けた

「マリアージュ殿、先程のお話なにがあったのかお聞きしても?」
「…実は私、好きな人が居て。でもその人の事よくわからないんです。どんな女性がタイプなのかとか、どういった女性が好まれるのかとか私なんにも知らなくて。でもスミスさんは大人の男性だからもしかしたら彼の気持ちがわかるかと思って…」

そんなことを聞かれても、とスミスは正直に思った。恐らくその『彼』であるオークの心のうちなど解るわけがない。オークがクゥへ好意を抱いていることはスミスから見ても解っていたがそれをクゥに伝えることはさすがに憚られるのだった。スミスは一つ短くため息をついてクゥに向き直った

「マリアージュ殿、私はその方のお気持ちや好みがわかりませんが私見でもよろしいですか」
「はい、もちろん」
「私でしたらの話ですが、女性は見た目ではなく内面が美しいほうがより好まれるのではないかと思います」
「内面?」
「はい、私も妻とはもう十年連れ添っていますが見た目で選んだわけではなく彼女の心根に惹かれました」
「そうですか…」
「マリアージュ殿が欲しい答えではないかもしれませんが、そういう男性も居るかと存じます。その方はマリアージュ殿がお好きになられるぐらい素敵な方なのでしょう?でしたらきっと人を見た目で判断されるような方ではないのではないでしょうか」
「…」

スミスが言えるのはここまでが限界だった。きっと、と言い切ってしまったのはやはりオークの人柄を知った上でのことだった。オークは雇い主ではないもののオークのリテイナーである同僚から度々人格者だと聞かされていた。やっと泣き止んだクゥの頬に少し血の気が戻ってきたことにスミスは安堵した。クゥは最後にスミスに頭を下げる

「今日は突然泣き出したりしてすみませんでした」
「いえ、お気になさらず。冒険者殿のメンタル管理もリテイナーの仕事のうちですから」

そう冗談めかしたスミスの言動に誰かとに似ていると思いクゥは最後にスミスに少し笑顔を覗かせたのだった


その次の日、オークはウォルステッドの仕事がやっと山場を越えたことでラベンダー・ベッドの自分のクランへ戻ることができた。家の前で軽く息を整えた。ちゃんとクゥと向き合うと決心して戻ってきたのだ。東の国のクガネに行ってわかったことがある。それはラベンダー・ベッドへ置いてきたクランでもなく仲間でもなく、心に思い描くのはクゥだったということ。それは紛れもない事実で、とうに諦められない存在であると再認識させられたのだった。顔をみたら好きだとちゃんと伝えよう、そう意を決して扉を開けた。ちょうどリビングにオクーベル以下、クランの全ての人間が揃い踏みしていた

「みんな、ただいま」
「おかえり!オーク!!」
「ただいま、ケイ」
「おかえり、無事だったかオーク」
「オクベルも俺が居ないあいだ副リーダー有難う。助かったよ」
「それはいい、お互い様だ」

オークはさっきからクゥが一向に姿を表さないことに気が気でならなかった。耐えかねてオークはオクーベルに尋ねた

「オクベル、クゥは…今日はいないのか」
「…」
「?」
「オーク、あいつはここには戻らない」
「…え?」

オークは一瞬、胸がどくんと波打つのがわかった。背中にひやりと冷たいものが駆け抜けて何かの聞き間違いではないかと顔が引きつった。ちゃんと普通にしていられただろうか、オークは頭でそうぼんやり思った。クランの誰もがオークの動揺する姿を見守る中、オークはただただ言葉を失う他なかったのだったー。

(次回に続く)

 

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