ラヴィリティアの大地第30話「理想の冒険者」前編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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「過剰に回復をかけるな!自身の仲間を信じろ!!」
「はい…!」

けして折れることのない意志と剣を持つ青鋼(しょうこう)のベルナンドと呼ばれる男はヒーラーのクゥクゥ・マリアージュを叱咤激励した。


「ルフナ、本当にクゥがしばらく別クランのヒーラーをやりたいと言ったんだな?」
「そうなんだよ、一時的にな」

なんとなくの理由は察するが俄(にわか)には信じがたいクゥの言葉を、槍術士でありこのクラン『Become someone(ビカム・サムワン)』の武器職人ルフナが、問うてきた獣人オウの問いにそう答える。ルフナが続ける、

「なんでもそのクラン、所属してるメンバーに欠員が出たとかで回復士のヒーラーを探してたみたいなんだ」
「正式な加入ではないということだな」
「そうそう。確か鎖国してたイシュガルドの異端者討伐に行くとか言ってたな」
「宗教問題絡みか、イシュガルド国らしい」

クランのリビングで武器職人ルフナと獣人オウが交わしていた会話に居合わせた女冒険者オクーベルが片手に持っていたハーブティーをあおり会話に混ざった。雪の国とも呼ばれるイシュガルド国は戦争の女神ハルオーネを守護神として崇めている宗教都市国家である。イシュガルド正教を固く遵守し最高主導者は教皇とされていた。皇都にある神殿騎士団と異端者がしばしば衝突する話は冒険者であれば度々耳に入る話だ。三人は尚も会話を続ける

「そのクランと半月ぐらい回復士で同行するって約束でイシュガルドに向うってことだった。ウルダハに来る用事もあるし休みもあるからその時はラベンダーベッドに戻ってくるってリンクパールで連絡きたよ。じゃ、伝えたから俺は作業に戻るよ」
「わかった、ルフナ。ちょっといいかオクベル」
「どうした、オウ」
「クゥは大丈夫なのか?危なくはないのか」
「大丈夫もなにも見たまま聞いたままだ。なに、下手に悩まれても困る。体を動かすに越したことはない」
「そうだといいがな」
「何か気になることがあるのか」
「さっきルフナが言っていたクランの話、リーダーの名前を俺は聞いたことがある」
「どんなやつなんだ」
「リーダーは剣士のタンクで名はベルナンド、ベルナンド・オクスフォード。傭兵稼業を生業としてる者だ」
「傭兵?」
「そうだ。様々な国で足りない兵を補う為に各国のグランドカンパニーから戦のおり有志で冒険者に応援要請がある、それ専門で動いているクランだ。通常の冒険者よりも高度な仕事を求められる」
「なるほど、依頼主の要望次第で理想の冒険者を演じなければならないわけか」
「そんなクランにクゥが『今』身を投じて大丈夫なのかと聞いたんだ」

獣人オウも詳しい話は聞いていないがクゥとオークの内輪もめはなんとなく気付いていた。オウの言葉はそんな二人の心配からくるものだった。女冒険者オクーベルはオウの問いに目ざとく答えた

「その剣士の名を聞いたことがあると言ったのはお前だ、オウ。恐らくクゥの能力は織り込み済みで雇った切れ者だろう、きっと無事に帰ってくるさ」
「そうか…」

オウは少くなからぬ不安を胸に抱きながらオクーベルの言葉を信じ、クゥの帰還を待つより他なかったのだった。


露出した岩肌の山を覆い隠してしまうほど氷壁が目の前に広がるー、ここは雪の国イシュガルド。かつて遠くない過去にこのエオルゼアの地で起きたカルテノーの戦いにおいても表立った動きを見せず鎖国を続けていた堅牢な国である。イシュガルドの皇都の目と鼻の先、キャンプ・ドラゴンヘッドを見て西に抜け、イシュガルドの入り口である大審門を右手に見つつホワイトブリム前哨地を越えてさらにその先の氷壁は『スノークローク大氷壁』と呼ばれている。そしてその入口に立つのは四人の冒険者だ。氷壁から反射する光を浴びて金青(こんじょう)の剣がより一層輝きを放つ剣士の男、ベルナンド・オクスフォードがクランメンバーに号令する



「皆、今一度確認しよう。今回はイシュガルドの貴族直々の依頼だ。エーテライトのあるレヴナンツトールに届くはずだった輸送物資を賊が強奪してこのスノークローク大氷壁の洞窟に逃げ込んだとの情報が入った。賊は恐らく異端者、荷を取り返し残党を残らず皇都に突き出すまでが俺達の仕事だ」

「わかったよ、ベルナンド」
「よし!いっちょやるか!!」
「はい、ベルナンドさん!」

最後に声を上げたのはクゥクゥだった。ベルナンドはクゥクゥに向き直り声をかけた

「クゥ、段取りは大丈夫か」
「任せてください、ベルナンドさん。先にトトラクで学んだことけして忘れていません」
「今のお前ならやれる、必ずな」

ベルナンドはクゥの背中を軽く叩き活を入れた。クゥクゥの瞳にも迷いはない。一同はクローク大氷壁に足を踏み入れるのだった


話は冒頭へ遡る、クゥクゥは『自分磨き』と称して挑んだ新しいヒーラーの仕事を、あるクランから引き受けていた。それが剣士ベルナンドが率いていたクランだった。回復士としてまだまだ未熟だと理解していたクゥクゥは自分を受け入れてくれたベルナンド達の意図を測りかねてはいたがそれでも、すぐにでも戦場へ出たかった。が、クランリーダーであるベルナンドはそれをけして許さなかった。それはトトラクの千獄でクゥクゥとベルナンドのクランが初の共同任務に当たった時のことだ、

「クゥクゥ!俺の回復はしなくていい、前衛の敵に攻撃魔法を使え!」
「だけど…!」
「お前は回復対象者を異常に回復し過ぎだ、仲間の士気低下を恐れるな!お前の仲間はそんなに頼りないのか」
「!!」
「過剰に回復をかけるな!自身の仲間を信じろ!!」
「はい…!」

クゥクゥ自身、オーク達とクランを結成する以前さまざまなパーティーとその日限りのチームを組んだことがあったがヒーラーとして前衛のタンクにそんな言葉をかけられたのは初めてだった。正直なところベルナンド指揮下でのダンジョン攻略はいとも容易かった。クゥクゥは大氷壁に足を運びながらも思い出を振り返る、

(ベルナンドさんはオウや他の前衛の人よりも踏み込みは浅いけど確実に敵視を取って打ち漏らさない)

此度の強奪事件は賊を征伐すればいいだけの話ではなく賊である異端者の逃げ込んだ『先』が大きな問題だった。ここはイシュガルドの僻地、千年もの月日において人を喰らう竜と闘ってきた国だ。グリダニアやウルダハとは比べるべくもなく冒険者にとっても危険な寒冷地域だった。クゥクゥは尚も邂逅する

(ヒーラーの私や槍術士みたいな近距離攻撃手が前衛をカバーし易いところまで下がったりしてくれる、それはベルナンドさんに余裕があるからだ)

大氷壁の内側に入ったクゥクゥ達に真上から巨大な氷柱が降り注ぐ。四人は銘々に四散した

(ベルナンドさんは果てしなく強い、この人は本当に周りをよく見ている。まるで熟練のヒーラーみたいだ)

元来、獰猛な魔獣たちを打ち払うことの出来る唯一無二の前衛のタンクよりもチームメンバー全員を視界に捉えて万遍無く回復をするヒーラーのほうが冒険者として最も過酷な役割であると言われている。回復をしながら場合によっては攻撃にも回らなければならない。ヒーラーの質によって討伐の成否と早さが変わるしチーム全体においてヒーラーの役割は多岐にわたるからだ。ヒーラーが戦闘の要とよばれる所以でもある。また前衛タンクに絶対的な信頼を寄せてもらえるのが本当のヒーラーであり理想の冒険者とも言われていた。ベルナンドに熟練のヒーラーにしか出来ないような立ち回りを見せつけられてクゥクゥは尊敬の念しか抱けなかった。クゥクゥと反対方向にポジションを取った剣士ベルナンドがクランメンバー全員に叫んだ

「この先のボス、ワインディルを打破してイエティまで突っ走る、全員このまま俺について来い!」
「了解!!」

クゥクゥの思い出の中の、強く優しい勇者であり剣士だった父とベルナンドが自身の中で重なる。途方もなく強くて仲間の人望も厚い、それがベルナンド・オクスフォードという人物だった。


クゥクゥがそんな戦闘を繰り広げていた頃、オークは五日だけとの約束で商売人ウォルステッドに雇われクゥクゥとの関係について考えながらウルダハで商売の手伝いをしていた。だが今オークが来ている場所はウルダハを遠く離れ、大海が分かつクガネという東の国だった。何故こうなったかと言うと…

「不渡りが出そう…ですか、ウォルステッドさん」
「…そうなんですオークさん…」

そう、か細い声で覇気なく答えたのは絶望に打ちひしがれ意気消沈としているウォルステッドだった。ウォルステッドは小さいながらもウォルステッド商会という会社を立ち上げ今まで広く浅くでうまく商売をやってきたのだがこのクガネでは些か事情が異なり、商品の支払いは手形や小切手が主な収入源だった。なのだが最近こちらクガネで雇った連絡係によるとこの辺りを牛耳るクガネの海賊衆とエオルゼア侵略を目論むガレマール帝国との争いが遂に激化したらしく、クガネの治安が一変して悪くなってしまったのだと言う。同じ商売人のよしみで共にクガネの玄関口に館を構えるウルダハ商館の受付で、うなだれているウォルステッドにかける言葉もなく途方にくれるオークは約束の期日の最終日ウォルステッド商会に訪れた小さくないこの事件に“乗りかかった船”だと最後まで付き合うことを心に決め共にクガネまで帯同した次第だった

「ウォルステッドさん、暴動鎮圧とかはさすがに無理ですけど為替回収の目処なら俺にも手伝えると思うので諦めず一緒に納品先を回りましょう」
「オークさん…!なんて優しいウチでずっと働きませんか…」
「それはちょっと…」
「ですよね…」

ここクガネまでは例え冒険者であろうと船の移動だけで片道最低三日程はかかる。加えて全ての為替回収の目処をつけようとするならそれなりの日数のクガネ滞在を覚悟しなければならなかった。ウォルステッド商会未曾有の危機に、クゥクゥとの事は個人的なことだからと問題を置き去りにしてきてしまったことをオークは早くも少し心の中で後悔し始めたのだったー。



(次回に続く)

 

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