ラヴィリティアの大地第23話「謎の紳士」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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乾いた空気を纏い空はどこまでも青い。その青空にこのエオルゼアの空路として行き交う飛空艇が、ここ砂の都ウルダハのランディングに一隻到着する。数人の客を見送ってから旅行鞄にしては大きい、よく使い込まれた革のトランクケース片手に身なりが良く長身の初老を思わせる男性がゆっくりと搭乗手続き所に近付いて行った。一通りの手続きを終えると男性は受付職員に尋ねられた

「お荷物はこれで全部ですか?」
「ええ」
「それにしても大きいお荷物ですね、機械か何かですか」
「ええ、精密機械といったところでしょうか」

初老の男性は紳士的に振る舞い職員に微笑みかけるのだった



場所は同じくエオルゼア大陸ウルダハ領。王宮のあるウルダハザをザル大門から出て刺抜盆地を抜け中央ザナラーンから南ザナラーンへ渡り、リトルアラミゴも抜けるとその南東にこのザナラーンに蔓延るアマルジャ族という蛮族の拠点があった。そこではアマルジャ族の信仰対象であり、エオルゼアの人間たちが一様に恐怖する蛮神『イフリート』と呼ばれるものが神降ろしと称し頻繁に蛮神『イフリート』が召喚されていた。物語の主人公である冒険者達五人はその定期討伐に参加していたのだがー、

(これは死んでしまう…!)

アマルジャ族部落の入口を這々(ほうほう)の体で抜けてきたオーク達五人は肩で息をし、アマルジャ族の門に寄りかかり体を支える者も居た。オーク達の心の銀幕が叫ぶ

(途端に戦闘レベルが上がった、全然歯が立たない。なんとかイフリートは倒せたけどギリギリだった、昨日までは普通に戦えていたのに…!)

皆一様に思った

(このままでは間違いなく全滅してしまう…!)

そう思った瞬間、仰向けになって倒れていた天使のケイが唸り声を上げ手や足をばたつかせた

「うううう〜…やだやだやだ痛い痛い痛い!毎回こんな痛いのやだよぉ〜!誰かチュウしてチュウしてチュウしてよぉ〜っ!!」
「ケイちゃん…」
「ケイの言う通りだな…何か策を立てなければこの先厳しい」

地べたに座り込みそう言い放った女冒険者オクーベルはケイを自分の膝に引っ張り上げて額にキスを落とした。まだ呼吸の落ち着かない青年オークはその様子を見ながらこう呟いた

「1度ザナラーンに戻ってクイックサンドのモモディさんに相談してみよう」

一同は酒場クイックサンドのあるザナラーン王宮城下町を目指すのだった。



「レベルが足りない?」
「はい、モモディさん」

王宮のあるザナラーンに戻ってきたオーク、クゥクゥ、オクーベルは冒険者としての仕事を斡旋してくれる酒場クイックサンドのモモディ女史を訪ねていた

「おかしいわね〜ちゃんと貴方達のレベリングにあった仕事を紹介してるつもりなんだけど…」
「私達もそう思うんですけど一体何がいけないんでしょうか…?」
「そうねぇ…」

心当たりがないと困り果てた店主モモディの様子にオーク達は顔を見合わせた。するとオーク達の後方から酒場に行商で出入りをしている行商人ウォルステッドが三人に声をかけてきた

「おや三人共お揃いで、オークの旦那達。どーしました?」
「ウォルステッドさん」
「良かったわ、ウォルステッド。実はオーク達がね…」

店主モモディは掻い摘んで通りがかったウォルステッドに事情を説明した


オーク達三人とウォルステッドはクイックサンドの片隅のテーブルに腰を落ち着けた

「ああ、それはオークさん達の身に付けている魔具レベルが低いんですね多分」
「魔具レベル?」
「そうです、モモディさんもオークさん達自身のレベルに合わせた依頼を振ってるって言ってたんでしょう?だからそこは問題ないんです。問題なのは防具や武器の方だってことです」
「魔具か…気が付かなかった」
「オークさん達はなまじ強いですからね、ここまで圧倒的なパワーで乗り切れってきてしまったんでしょうけど相手が蛮神なら話が変わってくる。それなりの防具を揃えないといけません」
「魔具かぁ…お金がかかりそうだね」
「物入りだな」

オクーベルもクゥのぼやきに相槌を打った。オクーベルが続ける

「お前なんとかできないのか」
「無茶言わないでくださいよオクベル姐さん。俺が扱ってるのは基本お洒落装備です、そりゃライセンス取ってますから流通の取り扱いはしてますけど本格的な物はレベリングが足りなくて作れません専門外です」

「お前はここぞという時に当てにならないのだな…」

ウォルステッドのふてぶてしい態度にオクーベルはため息を吐いたのだった。何か考え込んでる様子のオークにウォルステッドは声をかける

「てなわけなんで、ここからは再度モモディさんに相談してみては?クラフター、装備を専門で作る腕の良い冒険者に心当たりがあると思うんですが」
「! そうか」
「確かに!冒険者なら紹介してもらえるんだ!」
「ああ」

オーク達の顔には笑顔が戻り頷き合って再びモモディの元に足を運ぶのだった



「魔法防具専門の職人冒険者ねぇ…」

冒険者名簿を見る店主のモモディの表情は硬い。モモディは話を続けた

「確かに冒険者なら紹介はしてるんだけどそういう人は売れっ子なの、仲介料も依頼費も相場が高めなのよ」
「う…」
「貴方達この間ラベンダーベッドに家を買ったばかりだって言ってなかった?」
「そうなんですよね…」
「それからそういう人は払いが良くて有名で強いクランの所の仕事を欲しがるから忙しい人が多くて、クランを結成したばかりの貴方達の依頼を受けてくれるかどうか…」
「他のクランと競合してしまうということですね」
「そうなの」

話の雲行きがだんだんと怪しくなってくる。クゥ達の顔に不安が広がり始めた頃モモディが見ていた名簿から顔を上げた

「あ、でももしかしたら…」
「?」
「一人だけ心当たりがあるわ。ただその人かなり変わった…偏屈な爺でね。報酬形態も他の人とちょっと違うから貴方達が直接交渉できるなら紹介するわ」
「! 本当ですか」
「やった…!」

オーク達はその場で紹介料を収め彼の人と会うことにしたのだった



後日、ラベンダーベッドの家でその職人冒険者と面談することになったオーク達は今か今かと待ちわびていた。クランメンバー全員が揃う中クゥが口を開いた

「まさかラベンダーベッドの、私達の所まで来てくれるなんて思ってなかったね」
「そういえば変わった奴だとモモディが言っていたな」

そうだね、とクゥはオクーベルの言葉に頷いた。続けてオークが口を開く

「どんな人なんだろうな」
「すごーく怖い人だったりして」

オークの問いに天使のケイは両手の人差し指で眉を吊り上げる動作をした

コンコンコンコンッ

「来た!」
「はいはーい!」

天使のケイが素早く玄関に走っていく。ケイは勢いよく扉を開けた。するとそこには長身ではあるが礼服と帽子を身に纏った紳士風の初老男性が右手に大きなトランクケースを携えて現れたのだった

「お初にお目にかかります。ウルダハの斡旋所から紹介を受けましたスレイダーと申します」

その男性は折り目よくお辞儀をした後、皆ににこりと笑いかけた。オーク達は中へと招き入れる。ケイはクゥにこっそり耳打ちをした

「すごく優しそうな人だね」
「本当にね、怖い人なのかと思っちゃってた…」

オークはその様子を見て軽く咳払いをした。クゥ達はごめんなさいと声なき声でオークに謝った

「ご足労頂き有難うございます。本来ならこちらから出向かなければならないのに」
「いいえ、私も久しぶりにラベンダーベッドに来たかったのでそのついでです」
「そうですか、なら良かったです。早速で恐縮ですが僕らの依頼を受けてくれる見込みがある、ということでよろしいでしょうか」
「お話はモモディさんから聞いています。なんでもお急ぎで、それもお給金があまり支払えないと」
「お恥ずかしい話ですが僕らはまだクランを結成したばかりで、ここ最近蛮神討伐にも出るようになりましたが知人に今の装備では太刀打ちできないと言われました」
「なるほど」
「これから戦う相手になるのは蛮神やそれ以上になってくるでしょう、そうなると一時的な依頼ではなく継続的にお願いすることになります。お仕事としては安定的に発注できると思うんです。ですから」

オーク達はスレイダーと名乗った男性に頭を下げた

「僕たちに貴方の力を貸して頂けないでしょうか」

オーク達の必死の想いが伝わったのか、スレイダーは話し始めた

「ご事情はわかりました。私の報酬に関してモモディ女史からは伝え聞いていないとお察しするのですが」
「はい、直接交渉してみて欲しいとだけ」
「でしたら私を此処に住まわせて頂けないでしょうか?」
「「「え!!」」」

オーク達各々は様々に驚いた。スレイダーは話を進める

「私は以前のクランでお抱えの住み込み装備職人をしていました。この通り冒険中に足をやられてしまい冒険者を辞め職人に専念することにしました。丁度以前のクランが冒険者を廃業することになりまして、クランの年齢層も高かったですし皆隠居することになったのです」
「そうなんですね」
「お給金が少ないのであれば、住む所さえ提供して頂ければ相場の三割程減額することが可能です」
「三割も!?」

クゥとケイは飛び上がる程驚いた。オクーベルや獣人のオウも目を丸くした。オークは話に応えた

「そんなことで良ければ部屋も空いていますし是非お願いします」
「良かった、交渉成立ですね」
「やったー!」

その言葉にケイは飛び跳ね、オーク達はほっとした顔で頷きあった

「ですがもう一つだけ、給金の現物支給はギルではなく貴方がたの冒険譚を私に聞かせてほしい」
「え」
「私は冒険者は辞めましたがどうしても刺激的な冒険の話が聞きたい。貴方がたは強そうだからきっと私の満足する冒険譚を語ってくれるでしょう」
「スレイダーさん…わかりました、必ず貴方の納得する冒険話を持ってきます」
「よろしい」

スレイダーは深く深く頷いた。こうしてオーク達は最強の仲間を得て冒険に挑むのだったー。
 

 

(次回に続く)

 

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