ラヴィリティアの大地第22話「コスタデルソルの夏」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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「海だな…」

水着を纏う女冒険者オクーベルのその一言で物語は始まる。


「暑い〜っ」
「窓もうちょっと開けよっか、ケイちゃん。ラベンダーベッドも夏になるとけっこう暑いのね」
「温暖化だな」

ソファでうなだれる天使のケイを慰めながら窓を開けるために物語のヒロインであるクゥクゥは窓を全開にする。そのクゥに獣人オウは相槌を打った。森の都グリダニアの冒険者居住区ラベンダーベッドは万年温暖気候であり、慢性的に忙しい冒険者が居住区にもっとも指定し好まれるナンバーワンの場所だった。通年夏も冬も穏やかな気候であったが近年の異常気象のせいで夏になると砂の都ウルダハの気候と大差がないほどの暑さになっていた

「じゃあ皆で涼みに行こうか!」
「「「え」」」

リビングで風にあたるクゥ達に主人公の青年オークは軽やかに声をかけたのだった



 

物語は冒頭へ戻る。海の都と呼ばれるリムサ・ロミンサのテンペスト門から出て北に広がるモラビー湾。その奥に広がるのは常夏の海岸コスタ・デル・ソル。その浜辺を一望できるロッジの上からある場所を眺めながら事も無げに呟いたオクーベルの姿をケイは見咎め、その名を呼んだ

「オクベルぅー!オークが集合だって〜」
「わかったぁー」

オクーベルはケイに手を振り返し飛行用チョコボに跨って砂場に降りた。水着に着換えを終えたオーク達は降りてきたオクーベルに声をかけた

「何を見ていたんだい?オクベル」
「なんでもない、ただ海を見ていた」
「すっごい綺麗だよね~僕たちなんでこんなところに来れたの?」
「メルウィブ提督がセイレーン討伐の件でお礼をするって言ってたんだ。丁度ある資産家からこのコスタ・デル・ソルのバカンスに招待されていて、でも仕事で来られないから代わりにどうかって打診されたんだ」
「僕たちが遊んでいーの!?」
「連戦が続いてたしね、たまにはいいだろう」
「やったー!!」
「メルウィブ提督って良い人だよな」
(違うな…)

なにげに呟いたオークの言葉にオクーベルは心の中で即座にツッコミを入れていた

(ここの招待はこの辺りを遊び場にしている資産家ゲゲルジュの招待だろう。あのエロオヤジめ、メルウィブ提督のあのナイスバディな水着を拝むつもりだったな…提督もそれが解ってて嫌がったんだろう。なにせ私も誘われたしな)

オクーベルも顔が広い。ゲゲルジュは暇をもて余し冒険者の依頼で顔見知りになった美人のオクーベルにも声をかけていた

(まあ昔の依頼でナメた態度を取ってくれたからちょっと脅しておいたし私達には近づかないだろ。クゥにちょっかいかけられても面倒だしな)

遠くのロッジにゲゲルジュが寛いでいるのが見える。オクーベルは先程それを確認していたのだ。頃合でオークはオクーベルを褒めた

「オクベル、その水着似合ってるな。さすがセンスがある」
「当然だ!」

 


「オクベル自信満々だ〜」

呼吸をするように人を褒める習性持ちなオークの言葉にオクーベルも満足のようだ。ケイは面白そうに笑う。しかしオークは少し顔を曇らせた

「ところで…さっきからクゥの姿が見えないんだけど…」
「ホントだね」

クゥを探していたオーク達は辺りを見回した。すると大きい椰子の木のような樹木の裏に小刻みに震える女性の手が見えた

 

真っ先にケイが指を差し叫んだ

「あそこにいるね!」
「なにしてるんだ?」
「…。全く、仕方のない奴だな」

ビキニを着こなしたオクーベルはクゥが隠れている木に近づいていった。ケイも軽やかなステップでその後に続いた。オークと獣人のオウはくすくすと笑い声をあげる

「恥ずかしいのかな?」
「きっとそうだろうな」

オークの言葉にオウはやれやれと嘆息した。木の裏に隠れるクゥをオクーベルはぐいぐいと引っ張った

「お前、一日中そうしているつもりか。いいかげん観念しろ」
「だって布が少な過ぎるよ…!私、荷物にワンピースの水着入れてきたのになんでこの水着が入ってるの…!?オクベルちゃん入れ替えたでしょ!!」
「せっかくの海だぞ弾けなくてどうする」
「だってこんなのオークに見られたら変に思われちゃうよ!」
「お前だってオークの水着見たいだろ、いいから出てこい」
「ねぇクゥ、可愛いからいっしょに海で泳ごうよぉ〜」
「〜〜っ」

散々モメた後、オクーベルとケイの言葉に背を押されて水色の可愛いビキニを着たクゥはオーク達の前に姿を現した。ケイは両手を広げクゥを目立たせた

「じゃじゃーん!」


「なんだ、いいじゃないか」
「オウもそう思うでしょ〜オークも可愛いと思わない!?」
「!!」
「うーん」

オークは視線を上げ考え込んだ。オークのその様子に耐えかねたクゥは目を泳がせる。オークは一拍置いた後、

「うん、可愛い。似合ってる」
「…!!あ、ありがとう…」

クゥは真っ赤になってさっきより深く俯いたのだった。オクーベルがしびれを切らして言った

「もういいだろ、泳ぎに行くぞ」
「いぇーい!」
「行こう」

オウも賛同して有頂天になっているケイの後ろを歩いて行った。未だに俯くクゥの手を取りオークは駆け出した

「よし!たくさん泳ごう!」
「…うん!!」

クゥはオークに手を引かれ浜辺を走り出したのだった。クゥは気づかない、褐色の肌のオークの耳が赤くなっているのを。それを見分けるのは常人には難しいのだった


陽射しは痛いぐらい肌と浜辺を照り付けるがオーク達は海を堪能していた

ケイはクゥと水の掛け合いっこをし、時には獣人のオウの背に乗り思い切り泳いでもらう。ジェットスキーのように海の飛沫を楽しんだ。そのあとを追うようにクゥはオークに手を掴んでもらい追いつこうと泳いだ。オクーベルはケイとクゥに塗ってもらったオイルをつけて浜辺のパラソルの下で水着の上半身の紐を解きうつ伏せになって寛いでいた。やはり泳ぎの早いオウにだんだん追いつけなくなっていたクゥとオークはペースを緩めた。オークは一時クゥの腕を解き泳ぐのを止める。水から顔を上げたオークは髪をかき上げ、ケイ達を前に捉えながらクゥに話しかけた

「やっぱり、オウには追いつけないなぁ。な、クゥ…」
「あ…!」

クゥが声を上げると同時にオークの前に見慣れた水色の水着の布が視界を横切った

「えっ…」

オークは咄嗟に振り向こうとしたが体がピタッと固まった

(今流れていったの水着だよな…!?これ振り向いたらいけないやつじゃ…っ)

オークは瞬時にそう思った。固まるオークにクゥは気づき慌てて声をあげた

「オークっ!ち、違うの!!あれは下のパレオが、飾り布が取れただけで…っ、振り向いて大丈夫だから…」
「な、なんだ…そうか」

だが振り向いても水でぼやける足元が魅惑的なのは変わらない。オークは恥ずかしがるクゥを直視出来なかった。お互い何が正解か解らず途方にくれていた時、オークは流されたクゥのパレオが目に止まりクゥより先に気付いた

「俺取ってくる!」
「え、いいよオーク!あ…」

オークは流されそうなパレオをめがけて夢中で泳いだ。素早く掴み取りクゥの元に戻ってきた

「一度浜辺に戻って置いて来よう、また流されたら困るから。俺が引っ張るから左手でしっかり持っていて」
「…うん、わかった」
「行こう」

オークはまたクゥの腕を掴みまた海に潜る。オークは心の中でこう思った

(海が冷たくて良かった…)

顔が熱い。オークは心底そう思ったのだった。


日は暮れてコスタ・デル・ソルの浜辺とは反対側の丘に夕日が沈む。真っ赤に染まる夕日を背に、海が一望出来るロッジでオークとクゥは体を休め話し込んでいた



「あのね、オーク」
「うん?」
「わたし海って初めてで。今日はすっごく楽しかった、連れてきてくれて本当にありがとう」
「いいよ、お礼はメルウィブ提督に言って。俺は何もしてないよ」
「でも…オークが、オークも居たから楽しめたの。本当だよ」
「クゥ…」

 



2人の間に心地よい風が吹き抜ける。海側に座っていたクゥの後ろに広がる寄せては返す波に、反対側に傾いた夕日の角度が一瞬コスタ・デル・ソルの海を輝かせた。少し気温の下がった海辺のせいでクゥの瞳が潤んでいる。そのクゥの後ろがキラキラ輝いていた。オークはその景色から目が離せなくなって無意識に呟いた

「綺麗だな…」

クゥはここ一番で心臓がどきりと脈打った。だんだんと小刻みに早くなる胸の鼓動。クゥがオークに何か口を開きかけた時ー、

「居た居た、なぁオーク。夕飯のことなんだけどな…」
「「!!!」」

オクーベルが突然オークの後ろから顔をのぞかせたのだ。オークとクゥは肩を跳ね上げこれ以上なく驚いた。オークの背に隠れてしまっていた、夕日に照らされ真っ赤に見えるクゥを見つけオクーベルはしまったと瞬時に思った。ゆっくり後ずさるオクーベル。そしてか細い声で二人に告げた


「なんか・・邪魔してすまん・・・」
「なにがっ!?なにも!?邪魔じゃないよ!?ぜんっぜんっ!!これっぽっちも…!!」
(まずい、これはなにか勘違いされたよな…)

クゥの声が裏返る。オークの耳にクゥの言葉は届いていない。オークはまたも心の中で自分の少し邪な気持ちを一人静かに恥じたのだった。オークは気持ちを切り替えてオクーベルに向き直った

「今日のディナーのことだよな」
「あ、ああ。早めに注文しとかないと運べないと言われてな」
「わかった、一緒に決めに行くよ。行こう、クゥ」
「あ、うんっ!」
「メニューを決めたら時間まで二人とも浜辺を散歩してきたらどうだ。オウはもう先に呑んでるから私とケイはオウに付き合うつもりだ」
「そうか、どうする?クゥ」
「…うん、じゃあオークと散歩してこようかな…」

クゥはまだ胸の高鳴りが止まなかった。夕日が丘の後ろに隠れたコスタ・デル・ソルの暗がりで、未だ火照る顔が二人によく見えなくて良かったと胸を撫で下ろしたのだった。


浜辺を歩くオーク達二人を遠くに見ながら酒を嗜むオクーベルと獣人オウは言葉を交わし始めた。オウが先に口を開く、

「あの二人、どうなんだろうな」
「…さあ、何にせよ色々これからなんじゃないか?」
「…そうか」
「でも、ふたりとも幸せだといいよね」
「だな」

オウとオクーベルの会話にケイが交じる。オーク達の仲睦まじい様子をクランの仲間たちは優しく見守っていたのだった。知らないのはクゥとオークの二人だけ。オウとオクーベルは優しい気持ちで酒に口をつけた。すると尚も二人を見ていたケイは突然椅子の上に立ち上がり、浜辺を指差しこう言った

「あ、ふたりともちゅっちゅしてる」


「!」
「なに!?このタイミングでか…!?」
「あ、違った。砂でつまづいたクゥをオークが支えただけみたい」
「ケイ…」

オクーベルはオウと共に深く深くため息を吐いたのだった。


「もぉ〜、ふたりとも遅いよぉ〜」
「ごめんね、ケイちゃん」
「お待たせ、ごめんな」

半分眠くなってしまったケイは目を擦り今にも寝てしまいそうだった。それを察したオウはケイを背に乗せて席を立った

「ケイを寝床まで連れて行く。あとは皆でゆっくり呑め。俺も疲れた」
「じゃあ私も天幕に戻る。お前たちも夜は冷えるから程々にな」
「え」
「おやすみ」

そう言い残しオウ達は今夜止まるコテージに向かって行ってしまった。オークとクゥは顔を見合わせ軽く眉を寄せたが、

「ちょっと遅くなったけど二人で食べようか」
「うん、そうだね」

二人は遅めの夕食にありついたのだった。朝の浜辺も綺麗だと昼間通りがかった船頭に教わっていたオークは、クゥと翌朝の約束を交わしたのだったー。



(次回に続く)

 

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