多頭飼育崩壊で蔓延する猫エイズ。その対処方法は?①ウイルスについて | 言葉を話せない動物たちからのSOS ~殺処分される命を救うために~

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3本の脚を虐待できられてしまった育生(なるみ)ちゃんをきっかけに始まったブログででしたが、
チョコママの猫レスキューをしている日常の様子をご紹介してます。素敵なご縁探しもしています。

|FIV(猫エイズウイルス)感染症とは?

 

 

猫エイズウイルス(Feline Immunodeficiency Virus:FIV)感染症は、猫にのみ感染するウイルスです。ウイルスは免疫細胞に感染し、一度感染すると、その猫は一生ウイルスを持ち続けることになります。

 

 

血液検査でウイルス感染の有無を調べることができますが、もしFIV陽性となっても、「発症」とはなりません。FIVは、免疫細胞をターゲットに感染し、その数を減らしていくことで、猫の免疫力を奪っていきます。そのスピードは、猫によってことなり、発症せずに一生を過ごせることも多いと言われています。

 

ウイルスの感染力は弱く、環境中ではすぐに感染力を失うため、かんたんな消毒で十分対応可能です。

 

 

 

|どうしてFIVに感染してしまうのか?

 

主な感染経路は、喧嘩や咬傷です。交尾による感染の可能性は低いと言われていますが、交尾の際、雄猫は雌猫の首を噛む行動を取るため、その際、感染する可能性があります。

 

猫同士での毛づくろいだけでは感染する確率が低いです。そのため、喧嘩しない猫同士ならば同居も可能です。食器の共有も感染する可能性は低いですが、口内炎や歯肉炎がある場合は、感染確率が高まります。

 

また、FIV陽性の母猫から、生まれた子猫への感染の可能性も低いとされています。子猫が感染しているかどうかの血液検査をすると陽性となることがありますが、これは、初乳で母猫から受け取ったFIVウイルスに対する抗体が反応している可能性があるため、正確な診断にはPCR検査が推奨されます。

 

 

|一般的な感染率は?

 

日本は、海外よりも感染猫の数が多いと言われています。屋外で暮らす猫を調べたデータでは、23.2%(2008年)とされていますが、海外の調査データでは5.5%(2010年)とされています。

 

たんぽぽの里では、いままで多くの多頭飼育崩壊の支援を行ってまいりましたが、直近の多頭飼育崩壊現場において、57頭中、48頭が陽性でした(陽性率:84.2%)。

 

いずれの猫たちも発症はしていない状態で、健康状態は良好でしたが、歯肉口内炎の発生、外傷の存在などが確認されており、過密な環境によるストレスで発生した歯肉口内炎は、食器の共用が原因でFIVが蔓延した可能性、あるいは喧嘩か交尾による感染が主な原因と考えられました。

 

 

|多頭飼育崩壊とFIV感染

 

たんぽぽの里では、多頭飼育崩壊の猫たちをレスキューすると、全頭で以下の初期医療を行います。

多頭飼育崩壊でレスキューした猫たち

 

ノミ・ダニ駆除 内部寄生虫駆除

身体検査 血液検査 ウイルス検査(FIV、FeLV(猫白血病ウイルス))

混合ワクチン マイクロチップ

全身シャンプー 避妊去勢手術

 

レスキューした猫たちの状態を把握し、必要があれば追加検査・処置をするためには、レスキューした当日あるいは数日以内に行うことがほとんどです。

 

この初期医療の中でも重要な検査の1つがウイルス検査です。同居していたとしても感染している猫と感染していない猫がいるため、シェルター内でも陽性猫群と陰性猫群でお部屋を分けて、過ごしてもらうためです。

 

また、陽性猫の場合、一定期間を空けてからの再検査、さらにはPCR検査を行っています。

 

 

たんぽぽの里のシェルターでは、群管理としているため、多頭飼育崩壊でFIV陽性の猫さんたちは、専用のお部屋で過ごしてもらっています。ただ、多頭飼育崩壊の場合、一斉にFIV陽性の猫たちが増えるので、シェルター内でも過密な状況となってしまいます。

 

そのため、少しでも隠れる場所や高さに変化を与えて、猫さんたちのストレス緩和に努めています。一方で、FIV陽性と猫さんたちは、陰性の猫さんたちに比べて、譲渡のお声がかかりにくいのも実情です。シェルターで過ごす期間が長くなってしまう課題もあり、多頭飼育崩壊+FIV感染は、保護団体にとって大きな難題の1つとなっています。

 

グリコちゃん FIV陽性

 

次回の新着情報では、FIV陽性猫たちを発症しないためにどのようにストレスを回避させたらよいか、FIV陽性猫と一緒に暮らす方法について、ご説明いたします。

 

【参考文献】

・Colleran EJ: Feline Retrovirus Updates. Atlantic Coast Veterinary Conference 2017.

・Yuki Nakamura, et al: An updated nation-wide epidemiological survey of feline immunodeficiency virus (FIV) infection in Japan: J Vet Med Sci.2010 Aug;72(8):1051-6.

・Ravi M, Wobeser GA, Taylor SM, et al: Naturally acquired feline immunodeficiency virus (FIV) infection in cats from western Canada: Prevalence, disease associations, and survival analysis. Can Vet J 2010 Vol 51 (3) pp. 271-276.