センセーとの約束。
『1日10回笑う事』
一生懸命守っていました。


最近センセーも、仕事の事でよく落ち込んでいました。
『結局俺は誰も救えん。俺がいなくなった方がええんや』
そんな弱気な事を口に出すようになっていました。


だからアタシは必死でした。


アタシはセンセーがいるから生きていられる。
センセーがいる意味は大きい。


それを、アタシが笑って立ち直っていく事で証明してセンセーの自信にしてほしい。

その為に毎日必死で笑っていました。


でもそれは違っていました。


病院で仲のいい看護師サンと話している時、センセーの話題になりました。

その看護師サンが、他のDrから聞いた話をアタシにしてくれました。
ナース今、○○先生(センセーの事)は難しい患者さん抱えててすごい大変らしいんよ。でもな、奥さんがうまくフォローして上手に支えてるから頑張れてるみたいよ。


痛い言葉でした。
そんな事実、聞きたくなかった。


それを聞いた瞬間、張り詰めていたものがプツッと切れたのを感じました。


どんなにアタシが頑張って笑ったところで、それがセンセーの支えになる事はない。
センセーを支えているのは、奥さんの存在だけなんや。

今も、、、これからも。


ゴメンね、センセー。
アタシもう笑えない。


頑張ったよ。
もう逃げてもいいよね?



その夜。
アタシは遠くへ行こうと思いました。


とにかく遠くへ、センセーがいない場所へ。

センセーにサヨナラのメールを送り、もう帰らないつもりで家を出ました。


家を出て少しすると、センセーから電話がかかってきました。
でも、もう出ないと決めていました。


何度も何度も電話が鳴っていました。
メールもうほっといて。
メール意味が分からん。ほっとかれんやろ!


その後も、センセーは電話を鳴らし続けてくれていました。
アタシは出ませんでした。


それでも諦めずにずっと電話をくれました。


もう逃げられないと思い、電話に出ました。
医者お前今ドコにおるん?
あたし言いたくない。
医者は?何で?意味が分からん。ドコ?!
あたし言いたくない!!
医者ええから帰ってこい!
あたしやだ!帰りたくない。
医者ぢゃードコにおるか言え。
あたしいや!アタシまたセンセーの事困らせるもん。こういう風にしか生きられんもん。
医者分かっとるよ。それでもそばにおるって言ったやろ?帰って来い。
あたしアタシの帰る場所はある?帰って、そこにアタシの居場所はある?
医者あるよ。待っててやるから帰っておいで。
あたし…………。
医者抱き締めたるから…帰って来い…


センセーの声は少し震えていました。


帰らなきゃ。
そう思わせてくれました。
医者今すぐタクシー乗って帰って来いよ。
あたし…お金ない。
医者もぉ~。着いた時に払ったるから、今すぐ乗れ。
あたしだってチャリやもん。
医者アホかお前は!ダッシュで帰ってこい!!


急いで帰りました。
もう帰らないと決めたのに、早くセンセーの元に帰りたいと思いました。


部屋に着くと、玄関の外でセンセーが待っててくれました。


外の階段にはタバコの吸殻がいくつも落ちていました。
スグにセンセーのだと分かりました。


きっと心配しながら、イライラしながら待っててくれたんや。


センセーはアタシを部屋の中に押し込み、壁に押し当てました。
医者ごめんなさい、は?


アタシは謝りませんでした。
正直声が出ませんでした。
医者ごめんなさい、は!!
あたし…ごめんなさい。


小さい声でそう言うと、センセーはギュッと強く抱き締めてくれました。

そしてアタシの頬をつねりました。
医者どんだけ心配したか、その分力込めてやろうか?


アタシが頷くと、センセーはどんどん力を込めてアタシの頬をつねりました。
あたし痛い…
医者当たり前や。まだまだ足りんわ!!


センセーはつねるのをやめて、大きく手を広げました。
医者ん!


そう言ってアタシを腕の中に呼んでくれました。
でもアタシは、その腕の中に飛び込む事ができませんでした。
医者ん!!


センセーはもう一度呼んでくれたけど、アタシはどうしてもそこに入れませんでした。

自分からセンセーの腕に甘える資格なんて、今のアタシにはないと思ったから。


すると、しびれを切らしたセンセーが自分から抱き締めてくれました。

涙が溢れてくると同時に、申し訳ないと思う気持ちもどんどん大きくなりました。


センセーは怒っていました。


それなのに抱き締めて、何度も何度も優しいチューをくれました。

その優しさが嬉しくもあり、またアタシの心をギュッと痛くしました。
あたしアタシ連休になるのが怖い。きっとまた壊れる。もうすぐセンセーの誕生日が来ることも怖い。そういう日は絶対アタシは一緒におれんから。当たり前の事やけど、センセーが幸せを感じる日は確実にアタシは1人で耐えなアカンの。アタシぢゃない誰かと思い出増やすのを想像しながら、ひたすら耐えるしかないんよ。アタシはセンセーと同じ日に、同じ幸せを感じる事ができん。それがツライ。それを1つ1つ超えていく力、アタシにはもうないんよ。やから逃げたくなる。これ以上困らせん為に。
医者うん、、でもそれはしょうがない事やろ?お前が必死で頑張ってるのは分かってるから。


センセーは、アタシが話している間も、それに答えてくれてる時もずっとアタシの頬をなでてくれていました。
ゆっくりゆっくり頬をなで、一度も目をそらさずに話を聞いてくれました。


その手も、その目もとても優しくて、
『お前が大事だよ』と必死で伝えてくれているように感じました。


センセー。


アタシはもう、センセー以外何もいらない。

そう言ったらまた困らせるね。

依存心、執着心、それを超えた気持ちがアタシの中にあるよ。


センセーといるから苦しいのかも知れない。

でも、センセーがアタシの存在を認めてくれているからアタシは今生きていられる。



アタシは、やっぱりセンセーがいい。




月曜日の夜。


当直明けのセンセーから電話がかかってきました。

センセーは、
医者お前のそばにいるから、一緒に前を向こう。

そう言ってくれました。


その言葉、嬉しかったケド…


アタシの為だけに言ってくれた言葉って事くらい分かっていました。

正直、どうしていいかアタシには分かりませんでした。

あたしセンセーはそれでええの?
医者お前には俺が必要なんやろ?俺がおる事で支えになるんやろ?
あたしうん、アタシはね。でもセンセーは違うやん。
医者そんな事は考えんでええんよ。


こんな風にしかできない事が情けない。

センセーの優しい言葉がイタイ…。



次の日センセーはまた電話をくれました。

そして会いに来てくれました。

医者大丈夫?

センセーは何度もアタシに聞きました。


アタシは今思ってる事、ユックリ話しました。

あたしセンセーが本気で一緒におる事を望んでないのは分かっとるよ。やから『もういいよ』って言ってあげたいケド、今それをしたらアタシは壊れてしまう。
医者うん。
あたし一緒におっても困らせるし、離れようとしても困らせる事しかできん。やから、、、アタシ頑張るから、今はセンセーの言葉に甘えてもいい?
医者ええよ。支えたるから。お前は自分で前を向ける強さを持ってるとは思うケド、今はそれではツライんやろ?…イッパイ苦しんだもんな。やから甘えていいよ。その代わり、もう変な事考えるな。
あたし分かった。。ギュッてして。


センセーは笑ってアタシを抱き締めてくれました。

アタシは、勇気を出して『チューして』の合図をしてみました。
医者…また今度な。


とても切ない顔をして、センセーはチューの代わりにアタシの頭をなでました。

きっとそれは精一杯のセンセーの愛情でした。


でも今のアタシには、複雑な感情のセンセーを思いやる余裕なんてありませんでした。


やっぱりセンセーは、アタシと一緒におるのホンマは嫌なんや。

また感情がマイナスに走り始めました。


アタシの泣き出しそうな表情の変化に、センセーはスグに気付きました。
医者おい、待て!笑え!!


もう無理でした。
医者泣くな。泣いたら、一緒におるって決めた意味ないやろ?
あたし………。


センセーは、涙が止まらなくなったアタシを何度も何度も抱き締めていました。


でも今のアタシは、一度スイッチが入るとどんどんマイナスになっていく。
そして止まらなくなる。

あたし何でみんな上手に生きていけるん?センセーが最後にチューしてくれた日から何が変わったの?どーしたら愛されるの?必要とされるの?やっぱりもう、センセーがアタシを求めてくれてた日々には戻れんのやん。どうしても届かん。どーしたらいい?どーしたら普通に生きていける?何でアタシは普通にできんの?…助けて。
医者助けに来たやん!お前なぁ…


センセーは、言葉を詰まらせてアタシを抱き寄せました。
医者こっち向け。目を見ろ!


下を向いて壊れたように泣くアタシを無理矢理自分の方に向けました。
医者大事じゃなかったら、今俺はここにおらんやろ?想ってなかったら…一緒におるって言わんわ。でもな、俺もそんな単純な想いじゃないから。それは分かるやろ?
あたしアタシはな、やっぱりセンセーはホンマは一緒にいたくないんやなって思ってる。
医者おい、チョット待て。
あたしん~ん、聞いて!!センセーが一緒におるって決めたのは、アタシの為だけやん?アタシの為に犠牲になったとしか思えんのよ。
医者………。
あたしやからさっきみたいに距離置かれると、『あ~やっぱり』って思い知らされる。センセーも色々考えて複雑な気持ちなんやって理解してあげられる余裕、今のアタシにはないんよ。
医者うん、そーやな。
あたしさっきメッチャ勇気出して言ったんよ。でもセンセーはしてくれんかったから。やっぱアタシは必要とされてないって思ってしまう。センセーも色々考えての行動やって分かってるケド、今だけは『センセーも望んでアタシのそばにおる』って思わせて欲しい。そうじゃないと苦しいよ。嘘でもいいから。全部信じるから。
医者分かった。やから、必要とされてないなんて言ったらアカン。ホンマはそんな事ナイって分かってるやろ?
あたしん~ん、今はホンマにそうとしか思えんのよ。
医者そっか。今はそうでも、俺が元に戻したるから。一緒にいて支えたるから。やから笑え!無理にでも笑え!これから毎日、1日10回ずつ笑え。笑顔ってスゴイで。俺もしんどい時そうしてるから。最初は無理矢理でも、6回目くらいからホンマに笑えてくるから。ほら、笑え。
あたしアハハ、何それ。変な人やん。


そう言ってアタシが笑った瞬間、、

センセーの唇がアタシの唇に重なりました。

長い長いチューでした。


センセーの優しさにまた涙が出そうでした。
医者泣くなよ!


唇を重ねたままセンセーが言うから、必死で我慢しました。



センセーは、当直と呼び出しで2日間ほとんど寝ていないようでした。


それでも時間を作ってアタシを助けに来てくれました。



帰って行くセンセーの疲れた後姿を見て、『ゴメンね』と言いたくなりました。


でも、今言うべき言葉はこれぢゃない。

センセーはアタシが謝ると辛そうな顔をする。

そんな顔をさせたいわけぢゃない。
あたしセンセー、ありがとう。


そう言って、精一杯の笑顔で手を振りました。
医者おう。『ゴメン』は言うなよ。


センセーは、アタシの気持ち全て分かっていました。
あたしうん。ホンマにありがとう。



ありがとう…
そんな言葉ぢゃ絶対に足りない。


直接は言えないケド、やっぱり『ゴメンね』。


イッパイ背負わせてホンマにゴメン。

センセーだって、あんまり余裕ないのにね。


アタシ、毎日ちゃんと10回笑うから。

せっかくセンセーが支えてくれるんやから、アタシは頑張って生きるね。



心配かけてごめんなさい。


電話にもでなくてごめんなさい。



今、声がなかなか出なくて…
話すのがキツイ。



でも、ちゃんと耐えてます。


2人の存在はホンマに支えです。



いつもコメントや連絡ありがとう。




アタシも、センセーの為に離れてあげられるような強い人間になりたい。


センセーの幸せを願ってあげられるような優しい人間になりたい。




でもね、今それをしようとすると自分が壊れてしまう。


自覚がなく壊れていく自分が怖い。



センセーをこんなに苦しめてるのに、まだそばにいたいなんて。


アタシきっと自分の事しか考えてナイんだよ。




でもね、ミッチャン…。


アタシやっぱり今でもセンセーが好きだよ。



自分も相手もこんなにツライのに。


それでもまだ、センセーを愛してる。



バカだね。。