【米中貿易戦争は、アメリカの措置に対抗して中国が反撃し、米中双方に多大の経済的損失が生じたのち、合意に至るであろうことについて】

米中貿易戦争が過熱化しています。アメリカは、貿易不均衡を問題視し中国からの輸入品に25%の高関税をかけるとともに、通信機器大手ファーウェイを狙い撃ちにし、締め付けをかけています。

アメリカは、先端通信技術分野での優位性を維持するため、あらゆる手を使うつもりのようです。現在、アメリカは、情報通信分野での優位性を背景に、NSA(国家安全保障局)が世界中の電話を盗聴し、SNS、Eメールなどを傍受していますが、逆に、中国に情報通信分野を握られると、アメリカのあらゆる通信・情報が中国に筒抜けになり、国家安全保障に関わるという認識のようです。



かつて、1980年代に、アメリカと日本の間でも、情報通信分野での先端技術争いがありました。当時、日本の情報通信革命を先導していたのは、NECでした。NECは、独自規格のパソコン「PC98」シリーズを開発して日本のパソコン市場を席巻、さらにコンピューターとコンピューターが通信を行う「C&C」という先駆的取り組みを提唱していました。



これに対し、アメリカは、PC/AT互換機とマイクロソフトのウィンドウズを投入してNECの「PC98」シリーズを圧倒、さらに軍事用に開発されていたインターネットを民生用に開放し、NECの「C&C」の取り組みを粉砕しました。NECは経営不振に陥り、売り上げは半減、本社ビルの売却に至りました。日本の自民党政権・政府は、NECを守りませんでした。

しかしながら、中国は、日本と違います。日本と違い、中国はアメリカに対し、反撃を行うことが可能です。

まず中国は、アメリカの関税措置に対抗し、アメリカからの輸入品に対し報復関税をかけました。

また、中国政府は新しい法律を制定し、中国企業が外国企業から通信ネットワーク機器や通信サービスを購入する際、安全保障の観点からこれを制限出来る準備をしています。アメリカの情報通信企業を狙い撃ちにすることが出来ます。[1]

そして、ファーウェイは、自社のスマートフォン用に、グーグルのアンドロイドに頼らない、独自のOSを開発する予定です。[2]



次世代の高速通信規格である5Gの分野においても、中国はすでに主要特許を押さえており、後発のアメリカは中国に特許料を支払う立場にあります。

また、アメリカや日本はファーウェイの通信機器を排除しましたが、イギリスやドイツは、中核的機器でない限り、ファーウェイの通信機器を排除する必要はないという立場です。

そして、何よりも、高性能・低価格のファーウェイの通信機器は、アジア・アフリカ市場を制覇するでしょう。たとえば、インドは、ファーウェイの5G機器を排除しない方針です。中国とインドは、世界のスマートフォン市場の1位と2位を占めています。今後、通信機器需要が急拡大するのはアジア・アフリカ市場です。[3]



マレーシアのマハティール首相は、中国の通信技術の優越性を認め、マレーシアはファーウェイの通信機器を可能な限り多く使うと明言しています。そして、アメリカは中国と話し合いをすべきだと主張しています。[4]

アフリカ諸国も通信インフラを求めています。これまで欧米諸国はアフリカの通信インフラ整備に無関心でした。アフリカの通信インフラ整備を迅速かつ低価格で、資金協力を提供しながら行っているのは中国だけです。[5]



アフリカでは、銀行によるサービスが根づく前に一足飛びに電子マネーが普及しており、給料の振り込み先は銀行口座ではなく携帯電話に行われるようになっています。もしファーウェイがアンドロイドなどと互換性を有しない独自のOSを開発し、アジア・アフリカの電子マネー市場を制覇すれば、アメリカやヨーロッパの金融機関は、アジア・アフリカの個人向け取引市場から締め出されることになります。

そして、さらにアメリカが貿易戦争を激化させれば、中国はアメリカの財務省証券売却で対抗するでしょう。アメリカの国家財政が行き詰ることになります。

今後の米中貿易戦争の見通しとしては、アメリカの関税措置やファーウェイ排除に対し、中国が強力な反撃を行い、双方に多大の経済的損失・損害が生じたのち、ようやく双方が歩み寄り、何らかの妥協策が考案され、和解・合意に至るということになると思います。

ただし、合意はあくまでも一時的なものにとどまり、その後の通信技術の発展や市場動向にともない、第2、第3の米中貿易戦争が起こるでしょう。AI、電気自動車、自動運転技術、先端医療、国際通貨制度などの分野でも米中対立が起こるでしょう。

アメリカは、アメリカ・ファーストというナショナリスティックな立場を止め、中国・ロシアやEUとの間で妥協を成立させ、多極主義に基づく、新しい世界秩序を構築して行くことが必要であると思います。

実際、中国がアジア・アフリカで通信インフラを整備すれば、それをベースに欧米諸国も様々なビジネスを展開することが可能となります。対立していたら、アメリカはビジネス・チャンスを失います。

国連で、人類運命共同体の観点から、対立でなく妥協を通じ、共存共栄のルールを定めて行くべきです。


参照資料:
(1) "Huawei: Beijing Retaliates, New Cyber Law Could Block U.S. Technology From China", May 25th 2019, Forbes

(2) "Huawei may be building an Ark (OS) as it prepares for life after Android", May 28th 2019, TechRadar

(3) "US ban unlikely to impact Huawei’s India telecom business; India may allow it for 5G field trials", May 20th 2019, ET Telecom

(4) "Mahathir urges US to talk with China, accept its greatness", May 30th 2019, The Mainichi

(5) "African countries should stay loyal to China’s troubled Huawei—regardless of Trump", May 28th 2019, Quartz


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。