ナースキャップはかぶりません -21ページ目

基礎実習のはなし その2



3日目。

1日の始まりはまずバイタルサイン測定から。


昨日怒られたので呼吸音の予習はバッチリ。
ベッドで横になっている鬼瓦さんの所へ行き血圧などを測ったあといよいよ呼吸音を聞くことに。


聴診器をいきなり胸に当てると冷たいので自分の手のひらで少し温めてから鬼瓦さんの胸に当てる…。



音は…?



グゴゴゴゴゴ…     !?


     グガガガガガ…    ?!!!!





ヤバい。
これは昨日教科書で見た異常な音ってやつだ!
イビキみたい音がしてる!!!


これは異常だ!と思い呼吸音をメモに記入する為に聴診器をはずす。


グゴゴゴー


聴診器を外しても聴こえるイビキ音。



お鬼瓦さん…?


ぐがーぐごー…


ね、寝てる~!?
ただのイビキだった。


この人ホント一瞬で寝るんです。実習中同じ事が何回もあった。


のび太くんには負けるとしても10秒あれば寝ちゃう。


そんな感じ。

『お、鬼瓦さん?ちょっとだけ起きててもらえますか? 』 

「え?あぁスマンスマン。寝てしまったわ。」

気を取り直して再び聴診してみる。





例えにくいんですが敢えて言うならダースベイダーの呼吸みたい音が聴こえる訳ですよ。    シューコーって。
(異常は…なさそうだな。)


そんな感じで測定終了。なんとか鬼瓦さんの呼吸音を聞き取ることができたのでした。

もろもろのバイタルサインの測定があるわけですが話しながらゆっくりやっても20分もあれば終わります。
鬼瓦さんって身の回りのことはほとんど自立しておられるので今のところほとんど援助することがないんですよ。

とりあえずバイタル測定だけ。


あとは何するかって??

何もしません(笑)


入院生活で困ってることがないか聞いたり入院前の生活だとか聞いたりするわけですけどそんな話ばっかりじゃ鬼瓦さんも、もちろん僕も面白くないから世間話とかするわけです。


するわけですけどなかなか会話が弾まない…



鬼瓦さんは何十年も一人で暮らしてる人で買い物くらいしか外に出ないそうで家にいてもテレビ見るくらいしかしないらしい。
人との関わりってのもあんまりないみたいけど今はそれがちょうど良いんだとか。


それにしても会話が弾まない。



や 『ご飯はどんなの作るんですか?』

鬼 「簡単に作れるものやねぇ」
  (ベテラン主婦みたいなこと言うんですね)

や 『へー、例えばどんな?』

鬼 「肉とか…」

や 『肉料理ですか、 僕も好きですよ』

鬼 「焼くだけ」
  (そりゃ簡単ですね)

や 『そうなんですか。野菜は食べないんですか??』

鬼 「野菜はあまり食べん」
   (に、肉だけなのか?)

や 『好きじゃない?』

鬼 「うん。」
  (肉だけみたい)

や 『他にはどんな料理するんですか??』

鬼 「別に…」
  (沢尻エリカ風)

や 『一人だとめんどくさいことありますよね、僕もよくスーパーの惣菜で済ませたりしますよ』

鬼 「…。 えっ?なに?」
   (話聞いてねぇ…)


鬼瓦さんってホントに無口なんですよね。質問してもだいたい一言でしか返ってこない。
というか目も合わせてくれない。


自分のことあまり話したくないのだろうと感じました。
この人は誰かに干渉されないで自分の好きなことやってるのが好きなんだろうなって、なんとなくわかった。

もし僕がこの病院で看護師として働いているならば鬼瓦さんに対してそんなに関わらなかったんだろうと思います。
関わらなくてもしっかり“見守る”それも重要な看護だと思うのです。

それが重要だと思うのです。



でもね、今の僕は学生であり実習生であり学ぶためにここにいるわけです。
ほっといてほしい気持ちも良くわかりました。
わかっちゃいるけどほっとけないよ。



女 『ほっといてよ!あなたには関係ないでしょ!?』

男 「ほっとけるわけないだろ!!」

女 『なんでよ!? いいからほっといて!!』

男 「ほっとけないよ!!お前のことが好きなんだよ!!!」

女 『え?(ポッ…)わ、わたしも…』


ずいぶん無理がありますがとにかく僕も鬼瓦さんのことほっとけなかったのです。

つづく。


基礎実習のはなし  その1




※准看1年生のときの基礎実習でのことです。



今回の僕の受け持ち患者もやはり高齢者。85歳の男性でした。
一応名前付けときますか。仮名で。





鬼瓦 権左衛門(おにがわら ごんざえもん)  85歳。



僕だってね曲がりなりにも介護の仕事をやっていたわけでちょっと変な言い方ですけど高齢者の方とのやり取りは得意だと思っているわけです。

今回の実習ではそんなしょうもない自信を粉々に砕いてもらいました。もちろん鬼瓦さんによってね。





さて、細かい病名とかはめんどくさいので省きますが鬼瓦さんの病気というのが『胸が苦しい』 っつー思春期の女の子が同じ症状を訴えたらまず恋を疑えというもの。


実際に85歳の鬼瓦権左衛門さんがそんな甘酸っぱい苦しさで入院するわけなくてほんとは胸に炎症があるからその近くに水が溜まってて呼吸が苦しいとか熱が出たりして苦しいわけ。



初日は実習病院についての説明とか何とかで鬼瓦さんに挨拶をしただけで終了。



第一印象は物静かな優しそうなおじいちゃん。(名前は仮名ですから)
耳は遠くなくて会話も成り立つし、ADL(日常生活における食事とか歩行とかの動作一般)はほとんど自立してらっしゃる。


これと言った不安要素もないように思われました。


2日目。

まずは患者の情報を収集することに。
カルテや看護を行うに当たっての必要な記録類を見たり患者さん本人に話しを聞いたりします。



『鬼瓦さん、おはようございます。』

「ああ、おふぁひゅおう」

!?  い、入れ歯が飛び出しそうになっている…

「ちょふぉまっほっふぇ」(訳:ちょっとまっとって)


そう言って引き出しから何かを取り出す鬼瓦さん。タフグリップだった。
おもむろに自分の入れ歯を口から取り出しピンク色の歯磨き粉みたいのを搾り出したあと再び口に戻す。

「これで喋れるわ。最近入れ歯が合わんくなってきてねぇ」

入れ歯安定剤とはよく言ったものでカポカポと今にも飛び出しそうだった入れ歯もすっかり安定してくっついてる。
よかった…あのまま『学級文庫』なんて言おうものなら大変なことになるとこだったと安心しながらイロイロと話をしてみる。


病気のこととか昔の仕事や趣味とか病院での生活についてだとか話すことなんか山ほどある。
一遍にたくさん聞いても疲れちゃうだろうから話を適当なところで切り上げ、次はバイタルサインの測定を行うことに。

基本は体温・脈拍・呼吸・血圧の測定を行って患者の状況に応じてあんなとこやこんなとこも見るわけです。
鬼瓦さんの場合は呼吸音も聴診します、聴診器を使って肺の音を聴くんです。


呼吸音なんて自分のだって聴いたことないのに人のが正常かどうかなんてわかりませんよ。
聴診したあと看護師さんが聞いてきます。

『呼吸音どうだった??』

「え?あの、よくわからなかったんですが…。異常な音ってどんな音ですか??」


みるみる看護師の顔が曇るわけです。

『そういうことは自分で調べてきて。常識でしょ!?』


あなたにとって常識かも知れませんが僕は呼吸音童貞なわけでそんなに怒らなくてもいいじゃない…


その日の夜は自分の呼吸音はもちろん家族みんなの呼吸音を聞きまくったのです。



ちなみに呼吸音の異常音というのはパリパリとかブツブツとかいびきみたいな音が聴こえることがあるみたいです。
肺の中で小さなオッサンがポテトチップス食べながら会社の愚痴でも言ってフテ寝してるんでしょうきっと。




つづく。



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実習のはなし その3