病棟でのできごと
今日ね、ある患者さんにナースコールで呼ばれたので病室に行ったんですよ。
その患者さんは60歳台で脳梗塞で入院してる方。
まだ若いです。
この人のが入院してるのは知ってたんだけど話をするのはこれが初めて。
いちおう名前つけておきましょうか。
鳩山さん(仮名)。64歳。病名:脳梗塞
鳩山さんの病室に行ってみるとベットから起き上がろうとしている鳩山さんの姿が見えた。
やす 「鳩山さん、どうされました??」
鳩 『オシッコしたい。』
そう言ってもぞもぞとベットの上で動いている鳩山さん。
なかなか起き上がれない様子だ。
両方の腕には点滴のラインがつながれており、それが絡まって余計に起き上がる邪魔をしている。
やす 「大丈夫ですか??」
鳩 『大丈夫じゃない。』
ブラックジョークにも本音にも聞こえる鳩山さんのつぶやきにうまく反応できなかったがとにかく鳩山さんの身体を支えて起き上がることを助けた。
僕は鳩山さんのことを “脳梗塞の患者さん” ってことしか知らないしどの程度動けるのかどうやってオシッコをするのかも知らない。誰か他の看護師に聞いてこようかと考えたけど鳩山さんが教えてくれた。
鳩 『それにするから、それ取ってくれる』
鳩山さんの視線の先には尿器があった。僕はそれを鳩山さんに渡し、ベット周りのカーテンを閉める。
ベット柵につかまりながらゆっくりと立ち上がった鳩山さん。
右手に尿器を持ちその右手でズボンを下げようとしてる。
鳩 『左手が動かないんだよ、手伝ってくれる?』
鳩山さんは脳梗塞のため左半身が麻痺していたことをこのとき初めて知った。
あわてて鳩山さんの身体を支えながらズボンを下ろすのを手伝う。
左足にもうまく力がはいらないのだろうか、排尿中も鳩山さんの身体が前後に揺れる。
オシッコを終えるとゆっくりとベットに腰をおろす。
鳩 『くそ、なんで力が入らんのや…』
突然の脳梗塞、突然の入院、突然の左半身麻痺。
正直言って鳩山さんの気持ちは僕はわからない。
経験したことないし年齢も生活してる環境も違う。
それでも「大丈夫?」と聞かれて 『大丈夫じゃない』と答える人の気持ちは考えなくちゃいけない。
大丈夫じゃない。
辛いのか、苦しいのか、痛いのか。
この人に『大丈夫じゃない』と言わせている原因はなにか?
それを少しでも和らげてあげることが僕の仕事じゃないのか。
結局、鳩山さんに何をしてあげれば彼の苦痛が軽減されるのかはわからない。
今の僕には。
ただ患者さんについてもっと考えることを多くしたいと思ったんだ。
そしてこの鳩山さんとのやりとりの中で一番気になったことは―――
鳩山さんのカツラが思いっきりズレていたことだったんだ…
おわり。
追伸。入院中くらい外しとけばいいのに…そんなわけにいかないんだろうね。



