[戦争の歴史] 国際法から、武力行使を考える。 | 国際法と国際政治から読み解く現在

国際法と国際政治から読み解く現在

アメリカ在住。国際法が専門分野。話題の政治ニュースを分かりやすく解説。国際政治、憲法、哲学、地域、国際関係学幅広く対応。

国際法上、武力行使は段階を踏みながら規制されてきたと言えます。

では、歴史的展開を見ていきましょう。

 

正戦論

武力行使、戦争は、歴史上、許容されていました。一方、戦争の正当性(中世キリスト教の神学者)や戦争の発生をできるだけ防ぐための理論化が議論されていました。

13世紀のトマス・ファクティナスを始め、国際法上の権利の維持や防衛を理由にすることで、戦争を法的に合法化させる正戦論が展開されました。

 

17世紀にグロティウスは不正な戦争と正しい戦争を区別しましたが、キリスト教の普遍的超越的権威が衰退したことで、正戦論の具体的な適用が困難になったことで、16世紀にビトリアが「克服しえない不知」という概念を用いて正当な原因がある戦争が不当なものになりかねないと懸念しました。

 

無差別戦争観

中世のキリスト教普遍権威が衰退し、独立・平等の主権国家からなる主権国家体制(ウェストファリア体制)になると、主権国家より上位の権威の判定者が存在しなくなったために交戦当事国の正・不正を客観的に判定できず、正戦論が適用できなりました。

 

18世紀後半にヴァッテルは戦争を正当な理由に基づく手段ではなく、権利侵害をされた当事者に利用可能とされた手段であると位置づけ、また、戦争が開始されれば、当事者は、平等な立場になるためと考えました。(正戦論の実質がここで失われる)つまり、戦争に正・不正はなく、交戦当事国の立場は対等とみて、いずれの交戦国も自らの開戦を正しい戦争として正当化し、それを客観的に判定する権威者が不在であるため、正・不正を判定できないとするものです。主権を根拠に戦争は国家の権利・自由であり、戦時国際法の許容する範囲で武力行使をすることが出来ます。無差別戦争観の下では、戦争開始局面の規制(ユス・アド・ベルム)は宣戦布告など手続き的なものに限定され、具体的な戦闘行為の規制(ユス・イン・ベロ)に関心が移りました。従って毒ガス規制などの国際人道法が発達し、特定の戦争を禁止しようと条約が結ばれていきました。(ボーダー条約、ブライアン条約)

 

国際連盟の展開

WWIでは戦争犠牲者が増加し戦争観を変化させ、国際連盟規約や不戦条約はすべての戦争を違法としました。

 

連盟規約:国際裁判や連盟理事会を通じた紛争の平和的解決義務を課し、これに違反して戦争に訴えることを禁止

 

問題点

・連盟規約は平和的解決が実現しない場合の戦争の余地を認めてしまっている

・国際紛争を解決する代替手段を提示しない

・違反の際の制裁をする機関が不在

・提唱国アメリカの不参加

 

不戦条約:国際紛争の解決の手段として戦争に訴えることを禁止し、国家の政策の手段として戦争を行うことを禁止(連盟の枠外で戦争を禁止する条約)

 

問題点

・国際紛争を解決する代替手段を提示しない

・自衛戦争か否かを判定する機関を設置しない

・戦争以外の武力行使の余地を残していた

 

1928年 不戦条約

米国とフランスの2国間条約であったのが、、WW2前には、日本も含む63カ国の多国間条約となった。これは、1条で、戦争を国際紛争の手段に使ってはいけない2条で全ての紛争の処理を平和的手段以外に求めてはならないとして、戦争の違法化を規定しているが、自衛のため(集団自衛のため)の戦争が容認されるなかで、条約規定にある戦争に至らない、事実上の戦争を正当化させてしまうことになる。

 

その他:連盟の集団安全保障制度を補完する条約 

相互援助条約案やジュネーヴ議定書など未発効の物が多い

1925年 ロカルノ条約、ヨーロッパの国々によってて行けるされ、戦争禁止を一般原則にし自衛権や国連が規定違反と認めた国に対する武力行使を認めた。

 

国際憲章による規制 

武力不行使原則

第2条

3項

すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。

紛争の平和解決義務

 

4項

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

一般的な武力行使の禁止原則

 

これまでとの違い

 

・戦争ではなく「武力の行使」と明記することで、各国の主観的な意思に関わらず幅広い戦争の規制を可能にした

・規定違反に対する制裁

 

武力不行使原則は、友好関係原則宣言などで繰り返し取り上げられ、

ニカラグア事件では慣習国際法条の原則として成立しているとICJでも認めています。

 

認められる例外

 

第42条 国連決議に基づく強制措置

安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

 

第51条 集団的自衛権

この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

核兵器使用の合法性勧告的意見では、武力不行使原則を前提に、例外として、上記の国連憲章条項をあげました。

 

53条 地域的機関による強制行動

  1. 安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
  2. 本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。

107条(旧敵国に対するもの)は死文化

 

具体的な適用(許容される武力行使の限界)

 

領土保全または、政治的独立を侵害しないこと

例)主権国家に対して、自国民救出活動を行った場合

領土保全または、政治的独立は武力行使を禁止するための規定ではないとした。(テヘラン人質事件)

 

領海は国内法基準であるとされるが、実力行使に関しては可能な限り回避し、回避できない事情があった場合にのみ合理的な手段で行う。(アイムアローン号事件) 

例)拿捕による相手戦の沈没はセーフだが、相手戦を沈没させるのはアウト

 

間接的武力行使 

単なる武器の供与は許されるとする(ニカラグア事件)

 

係争地域や海域の武力行使禁止 

例)自衛権を正当化できない(エリトリアエチオピア事件)

警告射撃などの武力による威嚇(threat of force)は係争海域で行われたという特殊性により違反とされた(ガイアナスリナム海洋境界確定事件)