自民党憲法改正草案シリーズ
憲法改正に向けてその突破口となる緊急事態条項(98~99条)。
前回は、憲法9条の解説をしました。
今回は、緊急事態条項の条項を一つ一つ検証していきたいです。
国民主権と国家緊急権(権限)
まず、前提となる憲法における基礎知識は、
人がいた→国家を作った→人は国家を日本国と名付けて、日本国民になった→
国民が権力を発動して政府を作った→政府は国民から権限を与えられ、その代わり人々の幸せのために働く契約をした→それを達成するために一定の法律をつくって、国民の権利を制限することにした
国家は、個人間の価値観の違いから生まれる争いから生じる人権侵害から個人を守り、国民を取りまとめる機能が期待されます。
そこに憲法が誕生します。
人権が全国家的性質をもち(人がうまれながらにもつ)、国民がその人権を国家に信託する代わりに憲法をつくることで国家がその人権を保障することを誓います。
憲法はその人権を文言で保障し、国家の政治活動を拘束します。
つまり、国の政府は、憲法に忠実に動き、憲法に書かれていないことをする権限などは与えられていないのです。
現在、国家は国民に与えられた権限を行使することによって憲法改正を目論んでいます。
また、それが国民の意思に反しているとすると、権力の乱用にあたります。
そして、今問題視されているの緊急事態条項というもの。
憲法を誠実に遵守すると、国民を守れないような事態がある場合に、内閣は、憲法の例外となる権限を行使できることを認めた条項と言えます。
しかし、草案を見てみると、問題点がいくつか浮かび上がります。
早速、条項を見ていきましょう。
第九章 緊急事態
(緊急事態の宣言)
第九十八条
内閣総理大臣は、我が国に対する 外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必 要があると認めるときは、法律の定めるとこ ろにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
まず、緊急事態の判断は内閣が行います。憲法の外側で行動して良いか否かの判断を内閣ができるようになるのです。先ほど説明をしましたが、政府は憲法に書かれていないことをする権限などは与えられていないのです。
緊急事態の宣言による効果は憲法に規定されている、三権分立を脅かします。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところに より、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
次に、問題なのは国家に制御装置のような仕組みが存在するのかです。
与党が大多数をしめる立法機関と与党の党首が務めている行政機関の現状から、このような条項を規定したとしても、内閣総理大臣の裁量に国会からのリミッターがかかる保障はないに等しいです。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不 認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態 の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、 閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なけれ ばならない。
つまり、政府のフリーハンドで、緊急事態の宣言が解除期間の100日よりも延長される場合があります。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とある のは、「五日以内」と読み替えるものとする。
そもそも、東日本大震災などのが起こった際に、権限を強めなければならないのは、内閣総理大臣なのでしょうか?このような、災害に俊足な対応を、求められる人々は、その災害地域に住み、住民の生活に密着している地方自治体なのではないかと思います。
中央に権限を集中させることばかり考えて、実践的で、効果的な手段をとれないようにしているのは、憲法ではなく、それを変えようとしている政府なのではないかと感じます
(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条
緊急事態の宣言が発せられたとき は、法律の定めるところにより、内閣は法律 と同一の効力を有する政令を制定することが できるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支 出その他の処分を行い、地方自治体の長に対 して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法 律の定めるところにより、事後に国会の承認 を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何 人も、法律の定めるところにより、当該宣言 に係る事態において国民の生命、身体及び財 産を守るために行われる措置に関して発せら れる国その他公の機関の指示に従わなければ ならない。この場合においても、第十四条、 第十八条、第十九条、第二十一条その他の基 本的人権に関する規定は、最大限に尊重され なければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合において は、法律の定めるところにより、その宣言が 効力を有する期間、衆議院は解散されないも のとし、両議院の議員の任期及びその選挙期 日の特例を設けることができる。
場合において、同項中「三十日以内」とある のは、「五日以内」と読み替えるものとする。
(緊急事態の宣言の効果) 第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたとき
は、法律の定めるところにより、内閣は法律 と同一の効力を有する政令を制定することが できるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支 出その他の処分を行い、地方自治体の長に対 して必要な指示をすることができる。
現行憲法上では、緊急事態の対応はできないのか。(あたらしく緊急事態条項をいれる必要性)という疑問が浮かび上がります。
憲法上、災害対策基本法と国民保護法(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」) などの法律を作ることで、緊急事態に対応した例外をつくることが許されています。
2 前項の政令の制定及び処分については、法 律の定めるところにより、事後に国会の承認 を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何 人も、法律の定めるところにより、当該宣言 に係る事態において国民の生命、身体及び財 産を守るために行われる措置に関して発せら れる国その他公の機関の指示に従わなければ ならない。この場合においても、第十四条、 第十八条、第十九条、第二十一条その他の基 本的人権に関する規定は、最大限に尊重され なければならない。
国民の生命、身体及び財産という大きな 人権を守るために、そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることもあり得ます。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合において は、法律の定めるところにより、その宣言が 効力を有する期間、衆議院は解散されないも のとし、両議院の議員の任期及びその選挙期 日の特例を設けることができる。
国会議員の任期や選挙期日は憲法に直接規定されているため、法律でその例外を規定することができないため、設けた条項です。
しかし、緊急事態に対応するように、現在の憲法では参議院の緊急集会が認められています。また、参議院議員は半数ごとに、任期をおえるため、議員の欠落などという事態は起こりません。
前回の記事の、海外の緊急事態の条項を検証したものも参考にしてください。