緊急事態条項いるのか?海外の憲法、検証! | 国際法と国際政治から読み解く現在

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アメリカ在住。国際法が専門分野。話題の政治ニュースを分かりやすく解説。国際政治、憲法、哲学、地域、国際関係学幅広く対応。

今日は、緊急事態条項の必要性について、取り上げます。

緊急事態条項とは、「そもそも何か???」の説明は省いていますので、

「改正草案」は、第9章「緊急事態」として、98条と99条の2カ条をあてていますので
そちらを読んでみてください。

それか、Twitterで内山さんという方が、条項を使って、うまく自民党憲法改正草案の趣旨を説明して
くださっているので、それに私の意見も少し加えて載せてみました。

① 誰が緊急事態を宣言するのか?
内閣総理大臣は、…閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる(98条1項)。」
⇒ 内閣が自分で宣言できてしまう。

② 国会の承認が必要なのでは?
「緊急事態の宣言は、…事前又は事後に国会の承認を得なければならない(98条2項)。」
⇒ 事後処理もできます(宣言した後でも、否認する余地あり)。しかし、与党が多数を占めているのだから、後で訴えられることもいない。

③ 100日を超えるときは緊急事態の宣言の更新の手続が必要なのでは?
「100日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、100日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない(98条3項)」
⇒ やはり、与党によって、承認されてしまう。

④ 緊急事態だと内閣は何ができるの?
「緊急事態の宣言が発せられたときは、…内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる(99条1項)」
⇒内閣でつくる法律(政令)=国会で作る法律
⇒ 緊急事態宣言の後、国会の効力がなくなるので、安保法制なども内閣が勝手に決めることができる。
(これから、首相にしっかり追求していくべきである)

⑤ でも、政令は国会の承認が必要ではないか…
「前項の政令の制定及び処分については、…事後に国会の承認を得なければならない(99条2項)。」
⇒ 繰り返しですが、与党が内閣の決めたことをそのまま承認します。

⑥ 緊急事態下でも、人権はさすがに保障されるでしょう?
「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
この場合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。(99条3項)」
⇒ 要は、人権侵害できるということです。
  というか、人権を守るためにある憲法とはもともと相容れないのが、緊急事態宣言です。

⑦ 選挙で政権交代すれば緊急事態宣言は終わらせるのか?
「緊急事態の宣言が発せられた場合においては、…その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。」
⇒ 緊急事態宣言を承認するであろう与党がずっと国会を支配しかねません。
⇒ 緊急事態宣言が継続している間は、国会議員の任期は終了しないという特例を設けることもできてしまいます。


で、本題はココから。。。!!!

自民党片山さつき議員が、福島での避難時の対応の失敗と、憲法に緊急事態条項がないことと強引に絡めて論じていました。そして、「世界の成文憲法をもつ国にはすべて緊急事態条項があるのに日本にはない」という俗説を展開しつつ、安倍首相に緊急事態条項の必要性について質問しました。

首相答弁では、「(緊急事態において)国家、そして国民がどのような役割を果たすべきかを憲法にどのように位置づけるか」と言及しましたが、「国民自ら」という言い方にどんな狙いがあるのでしょうか。
自民党改憲草案99条3項には、緊急事態において、「何人も・・・国その他公の機関の指示に従わなければならない」とあり、緊急事態における国民の協力義務が想定されているんです。

ここでは、いろんな視点で、反対意見があるのは承知ですが、

国会での
「どこの国の憲法にも緊急事態条項があるのに、日本国憲法にそれがないのはおかしい」という議論の仕方

これは問題ではないのでしょうか?

まず前提として、あえて日本の憲法が緊急事態条項を置かなかったのは、
憲法の前文と9条の徹底した平和主義との関連でみると、執行権に権限を集中し、とりわけ軍事装置に特別の権限を与える緊急権に否定的な評価を与えるからでしょう。

だが、多くの国の憲法には緊急権を制度化した条項があるのに、日本国憲法にないのはおかしい、あるいは「普通でない」という言い方がよくされます。

自民党の「Q&A」39にも、「ほとんどの国で盛り込まれている」としています。

では、海外の憲法は、緊急事態条項をどのように取り入れているのでしょうか。


緊急事態条項は、強大な例外的権能が執行権に与えられるため副作用や反作用が大きく、どこの国でもその誤用・濫用、悪用、逆用の悩ましい過去の一つや二つは持っているのです。だから、それぞれの国の憲法には、誤用・濫用などを防ぐための「安全装置」がさまざまセットされています。

まず、ドイツから見ていきましょう。
ナチスでの経験の反省から、戦後のドイツ基本法〔憲法〕の制定過程では、草案段階では存在していた111条(連邦政府の緊急命令権)が削除されました。

基本法制定から20年近くたった1968年、包括的な緊急事態条項(「緊急事態憲法」)が導入されました。しかし、緊急事態の認定権はギリギリまで議会に留保され(両院選出の48人の合同委員会〔非常議会〕がその3分の2で認定)、緊急事態下でも連邦憲法裁判所の活動は妨げられないとなっています。また、市民や労働組合などの運動を弾圧する口実となり得る「対内的緊急事態」という曖昧な概念も回避されました。

ただ、基本法87a条4項が一定の要件のもとで、「組織されかつ軍事的に武装した反乱者」に対する連邦軍の国内出動を認めたものの、それは、補完的役割を持ち、それを出動させる対象から労働者のストライキが明文で除外されるなど、対象の限定をする努力がみられます。

フランスはどうでしょうか。
第五共和制憲法(1958年)16条は大統領の非常措置権(緊急権的なもの)を定めていたが、緊急権の濫用への反省(1961年アルジェリア反乱)から、1993年、ミッテラン大統領が16条を廃止しました。



韓国ではどうでしょうか。
1949年から80年まで「韓国憲政史は非常事態化の歴史」と称されるほど、緊急措置が乱用されました。90年代以降、過去の憲法破壊行為の反省と憲政正常化の観点から、緊急事態権限の濫用を統制する努力が続けられています。

憲法裁判所も、国民の基本権が侵害される場合には、緊急措置を「統治行為」とせずに審査対象とする判決を出しています。

緊急事態条項の危うさや悩ましい経験を踏まえ、緊急事態条項を限定したり、制限したり、さらには廃止しようと試みる国すらあるのに、日本は今更それを、導入しようとしているのです。

このように、各国の憲法と国家と、緊急権を制度化した条項との関係を確認してみると、、他国にあるから日本にも、という安易で粗雑な発想でこの問題を考えてはならないのではないでしょうか。

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