洋楽を聴き始めた頃、雑誌やFM番組でよく耳にしていたのが「ピンク・フロイド」という名前だった。
ビルボード・チャートに長く居座り続けた『The Dark Side of the Moon(狂気)』――当時から“ギネス級のロングセラー”と紹介されていた記憶がある。
けれど、まだ高校生だった自分にとっては「難解で大人の音楽」という印象しかなかった。
ラジオで「Money」や「Another Brick in the Wall」を耳にすることはあっても、周りにレコードを持っている友人もいなかったし、気軽に試聴できる時代でもなかった。
だから“ピンク・フロイド=伝説”という知識だけが独り歩きしていた。
そんな自分の耳に「新作が出る!」というニュースが飛び込んできたのは高校1年生の頃。
町の電気屋兼レコード店に予約し、手に入れたのが『The Final Cut(ザ・ファイナル・カット)』だった。
針を落とした瞬間――頭の中に“???”が渦巻いた。
これは本当にロックアルバムなのか? 音楽というより“音のドラマ”だった。
戦場の銃声、爆撃音、教師の怒鳴り声、そして静寂。
いわゆるメロディアスな楽曲は少なく、ほとんどが朗読と効果音で構成されている。
「これがアート・ロック? サイケデリック?」
当時の自分には到底理解できなかった。
すぐにターンテーブルに戻したのは、モトリー・クルーやデフ・レパード。
ピンク・フロイドは“難解すぎる音の迷宮”だった。
けれど、今思えば『ザ・ファイナル・カット』は特別な作品だった。
『The Wall(ザ・ウォール)』で頂点を極めたロジャー・ウォーターズが、実質的にバンドを去る前に残した“ピンク・フロイド名義のソロ作”とも呼ばれるアルバム。
全編が戦争と喪失をテーマにしており、彼の父が第二次大戦で戦死した悲しみが根底に流れている。
後年の『The Pros and Cons of Hitch Hiking』へと続く“個人の戦争三部作”の序章のようでもある。
そして――あれから40年。
久しぶりにレコード棚から取り出し、再び針を落としてみた。
…やっぱり、難解だ。
しかし、当時のような拒絶反応はもうない。
音のひとつひとつが、妙にスッと身体に染み込んでくる。
理解はできない。
けれど、あの頃に感じた「違和感」はもうなかった。
年月とともに、自分の中の何かが変わったのだろう。
若い頃には“わからなかったもの”を、そのまま“わからないまま受け入れられる”――
それもまた、大人になった証なのかもしれない。





