世界をつないだ2つの歌──40年に起きた奇跡、バンド・エイドとUSAフォー・アフリカ
1980年代半ば、音楽が“世界を救う”と信じられていた時代がありました。
その象徴が、イギリスのバンド・エイド(Band Aid)と、アメリカのUSAフォー・アフリカ(USA for Africa)。
どちらもアフリカの飢饉救済を目的としたチャリティーソングで、音楽史に永遠に刻まれる名曲を生み出しました。
そして、世界中を巻きこんだあの伝説のライブエイドに繋がりますか(こちらはまたの機会に・・・)
🇬🇧 バンド・エイド——『Do They Know It’s Christmas?』
1984年、ブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフとウルトラヴォックスのミッジ・ユーロが立ち上げたプロジェクト。
エチオピアの飢饉報道に衝撃を受け、「音楽で何かできないか」と呼びかけて誕生しました。
参加したのは、ジョージ・マイケル、スティング、サイモン・ル・ボン、ボーイ・ジョージ、U2のボノなど、
当時のUKポップ界を代表する面々。
そして、世界的スターのフィル・コリンズは、あえてメインボーカルを辞退し、ドラム演奏で参加。
彼のその“潔さ”が、このプロジェクトの象徴でもありました。
「Do They Know It’s Christmas?」は、わずか1日で録音され、
全英チャート1位、全世界で数百万枚を売り上げる大ヒットに。
その後のライブ・エイド(1985年)へとつながり、
“音楽が世界を動かす”という理想が現実になった瞬間でした。
なお、バンド・エイドにはボブ・ゲルドフのレーベル繋がりで
ジョディ・ワトリーやクール&ザ・ギャングといった黒人アーティストも一部参加しています。
ただし、リードボーカルを担当したのは全員白人アーティスト。
この点は、当時のUKポップシーンがいかに白人中心であったかを物語っています。
🇺🇸 USAフォー・アフリカ——『We Are the World』
その翌年、アメリカでもチャリティーの輪が広がり、
ハリー・ベラフォンテの呼びかけをきっかけに生まれたのがUSA for Africa。
制作の中心はクインシー・ジョーンズ、ライオネル・リッチー、マイケル・ジャクソンという豪華すぎる布陣。
レコーディングには、スティーヴィー・ワンダー、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、レイ・チャールズ、ダイアナ・ロス…。
まさに“新旧の神々”が集結。
アメリカらしい多様性とスケールの大きさが印象的でした。
特に注目すべきは、黒人アーティストが多数のメインボーカルを務めたこと。
ライオネル、スティーヴィー、アル・ジャロウ、ディオンヌ・ワーウィック、マイケル、そしてレイ・チャールズ——
まさに“魂の声”が並びました。
クインシーの指揮のもと、スタジオには祈りのような緊張感が漂い、
録音の直前にはスティーヴィーがエチオピア出身の女性を招き、飢餓の現実を語らせたという逸話も残っています。
その場にいた多くのアーティストが涙し、
「We Are the World」は単なる歌ではなく、
人種と国を超えた人間の連帯の証として生まれたのです。
⚖️ 両者の“違い”が映すもの
両曲を比べると、同じ目的を持ちながらも、そこには明確な“空気の違い”がありました。
バンド・エイドは、どこかお祭り的で仲間の延長線上。
笑顔が絶えず、スタジオ全体が“音楽の力で前向きに”という明るさに包まれていました。
一方、USAフォー・アフリカは、アーティスト一人ひとりが使命を背負うように歌い、
まるで祈りの場のような厳粛さがありました。
そしてもうひとつ、見逃せないのが“人種構成の違い”。
バンド・エイドには黒人アーティストの参加もあったものの、リードを取ったのは白人だけ。
それは当時のイギリス音楽界の構造そのものを反映していました。
対してUSAフォー・アフリカは、黒人と白人が対等に並び、
多様性そのものがアメリカのリアルでした。
まさに「音楽が壁を超える瞬間」を形にしたプロジェクトだったのです。
🌍 そして今、再び思う
あれから40年。
世界は便利になった反面、分断も再び深まっています。
そんな今だからこそ思うのです。
この混沌とした世界に、もう一度——
国や人種を超えて、あの2曲を新たに歌ってほしい。
「Do They Know It’s Christmas?」と「We Are the World」。
この2曲は、ただのチャリティーではなく、
音楽が人間を信じるための証明でした。
そして——
2025年も残りわずか。
街にはイルミネーションが灯り、
世界のどこかでは、きっと今も
「Do They Know It’s Christmas?」が流れているでしょう。
けれどその一方で、
幸せなクリスマスを迎える人もいれば、
悲しみの中で夜を過ごす人もいる。
ふと、あの歌詞が胸に響きます。
“Do they know it’s Christmas time at all?”
― 彼らは知っているのだろうか、今年もクリスマスが来ることを。
その問いかけは、40年経った今も決して色あせていません。
音楽が再び、誰かの心に灯をともす日が来ることを信じて——。






