ミャンマー日記ーヤンゴンに帰るー20
 

    僕とテダーは旅を続けた。旅も終盤にさしかかっていて、そろそろ移動先をヤンゴンへ向けて切り換えなければならなかった。
 

 テダーがカローにやってきた翌日、インレー湖に行ってみることにした。インレー湖はカローから東に30キロほど行ったところにある湖で、この湖畔の風物はパガンの仏教遺跡とともに、ミャンマー観光の主要な呼び物となっている。
 

 インレー湖の標高は約900メートル。南北約22キロ、東西12キロメートルの細長い湖だ。ただ、湖といっても日本のそれとは違い、この辺一帯の高地に散在する沼沢の最も巨大なもの、と言った方が当たっている。
 

    乾季に訪れたせいもあるかもしれないが、湖の半分以上は葦が生い茂っており、水深はどこもそれほどではない。湖の畔には菜の花畑や淡く輝くすすきの穂が見られ、浅瀬ではトマトなどを栽培しているところもある。
 

    インレー湖で生活する人々の湖上集落はあちこちにあり、高床式になった建物の床下の水面には必ずボートが2、3艙すべり込ませてあって、それがいかにもガレージに収まった自動車といった風に見えた。
 

 しかし、旅も後半になると、旅人の視点も変わってくるようだ。外国の眺めや雰囲気をつかむのに忙しかったものがしだいに慣れ、その陰にある暗がりにまで目が届くようになる。
 

    そのせいか、このインレー湖や、この後向かったバゴーのシュエモードパヤーなどのよく知られた名所を、僕はたいして熱意をもって見ることができなかった。旅の疲れもあった。僕はもう、目まぐるしく移動を続けるより、どこかでゆっくりしたくなっていた。そこで予定を少し繰り上げ、ヤンゴンに帰ることに決めた。
 

 11月14日に僕はヤンゴンに戻ってきた。その国を一巡してから、旅の最初に足を踏み入れた街に戻ってくるのは楽しい経験だ。
 

    最初はよそよそしく無愛想に思われた土地も、それまでに蓄えられた知識によって印象が和らげられ、どこか懐かしいものにすらなっている。一度も通ったことのない路地でも、その国の慣例を知っているから不安を覚えずに入っていけるし、ほかと比較した際にその街独自の個性もはっきり見えてくる。
 

    とりわけ、顔なじみになっていた人々を街で見かけると気持が安らいだ。初めはうんざりさせられたヤンゴンの暑さもそれほど苦にならなくなっていた。それに、今の自分には現地人のガイドがついているのだ。ミャンマー初日、トーキョーゲストハウスの親切気のないオーナーにおずおずと話しかけたあの時とは、なんという違いだろう。
 

 ただ、ひとつだけ困ったことがあった。僕は3日後にはミャンマーを去らなければならないのだった。
 

(続く)
 

バゴー